186話
「……」
俺は言葉を返さず思考に集中する。
なるほど…確かにそうなる可能性は高い。故に言いたい事は分からんでもない。
要は自分を敵に回らせない為に男性警護者として側に置いておけと言う事だろう。
「アハハハハハ」
「なっ!?何が可笑しいですの!?」
急に笑い出した俺に幸那さんが驚いた声を出す。
どう考えてもこの提案を受け入れるのはあり得なくて、そんな事を自信満々に言ってくるとは思わず笑ってしまったのだ。
「いや失礼。まさかの提案だったもので…答えはノーです」
「っっ!?理由を聞かせて下さいまし」
「簡単な話です。今の状況が一番困っていたからです。それを解消しようと言うのに的外れな提案をされて思わず笑ってしまった訳です」
脅しを掛けられてイラっとしてしまっただけに言葉が刺刺しいが自業自得と思って欲しい。
「??今の状況が一番困っていたから?」
「分かりませんか?獅子身中の虫がいる状況と言う事です」
俺は潜在的な裏切り者が味方の顔をしているこの状況が一番困っていると潜在的な裏切り者に通告した。
「なっ!?確かに私は春人さんが嫌悪している上流階級の人間ですわ。ですが、潜在的な裏切り者呼ばわりされる謂れはありませんわ!!」
「つい先ほど自分を解雇すれば敵に回るぞと脅しをかけた人物がそんな事を言うとは臍で茶が沸かせそうですよ」
ずっと言葉を濁していたが結局の所、嵯峨根幸那と言う人間を信用出来ないこの一言に尽きるのだ。以前は男性警護者としては信用出来ると思っていたがそれも最近怪しくなってきた。
なら、この機会に関係を清算しようと思った訳だ。これ以上潜在的な裏切り者を身近に置いておく余裕がないとも言えるのだが……
「分かるでしょう?味方の筈なのに信用出来ない敵がいるんですよ?だから、外に出すと言ったら敵になるぞと言ってくれるのはありがたいんですよ」
「ずっと…ずっと私の事を潜在的な裏切り者だと思っていたんですの?」
幸那さんは唇を嚙み締めながら言う。
「ずっとじゃありません。つい最近までは男性警護者として信用していましたよ」
これは本当の事だ。
「何が…私の何が潜在的な裏切り者とあなたに認識させるようになったんですの?」
「……以前俺と凛音の誘拐の黒幕の超法規的措置の話をした事を覚えていますか?あの時にあなたは男性二人を犠牲にすれば世界の男女比が変わるかもしれない事を素晴らしい事だと無邪気に宣った。あれは一般人ならともかく男性警護者としてはあってはならない発言だ。あれで男性警護者としてすら信用出来ないと認識した訳です」
元々実家である嵯峨根家に圧力を掛けられたとは言え情報を流していたのだから男性警護者としては信用出来るくらいにまで評価を落としていたのに、男性を守る男性警護者がそんな事を口に出して言ったのだから評価が地に落ちるのは当然だろう。
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