18話
羽立さんの車に乗った俺と母さんは近くの男性警護者の人材派遣サービスに向かった。
そして、羽立さんの先導で建物の中に入ろうとしたが――
「ここ、関係者以外立ち入り禁止ってなってますけど良いんですか?」
「構わないさ。私も関係者ではあるし、何より君を連れて表側から入る訳にはいかないだろう?」
外出をほとんどしない男性が現れれば何事かと騒ぎになるのは目に見えている。男性警護者としては当然の判断だな。っていうか俺の所為だな……
「さぁ、入ろう」
羽立さんが扉を開けてくれてので、俺と母さんは素直に中に入った。
「あ、羽立さん、お疲れ様でっっ!?」
職員の人かな?羽立さんに気付いて声を掛けたが途中で俺を見て目を見開いた。
「あ~連絡もなく訪れて済まない。突然で悪いがどこか一室借りれないだろうか?」
「はっ!?分かりました。直ぐにご用意致します。それで……そちらの男性は特級の方ですか?」
我に返った職員の人は俺の方を怪訝そうに見ている。と言うか特級って何だ?
「いや、違う。私の友人のご子息だ」
羽立さんが苦笑して言う。なるほど……あんまり良くない言葉なんだな?特級?
「そうですか…あっ!?お部屋までご案内します。こちらへどうぞ」
うん。やっぱり予想は間違って無さそうだ。職員の人がホッとした雰囲気を出した。
「春人君、済まないな。察しが良い君は気付いたんじゃないか?」
職員の人に案内された部屋に入って直ぐに申し訳なさそうな顔で羽立さんに言われた。
「まぁ…良い言葉じゃなさそうだなって言うのは……」
前世で飲食店勤務だった俺には覚えがある。トイレは1番行って来ますだったし、常連のクレーマーが来た時はホールから0番さんご来店ですって厨房に連絡と言うか伝言回ってきてたからな……
「流石だな。普通の男性はあまり外出をしたがらないからな……わざわざここまで来たのには何か理由があるんじゃないか?と思われた訳だ」
普通のを強調しないで欲しい。俺はごく普通の一般男性だ。
コンコンとノック音がした。
「どうぞ」
「失礼します。お飲み物をお持ち致しました」
羽立さんが返事をした後、さっきの職員さんがお盆に乗せた飲み物をテーブルに配った。
「どうも、ありがとうございます」
俺の前に飲み物を置かれた時にペコリと頭を下げて言う。あったかい緑茶か……俺、猫舌だからちょっと冷まそうかな。
「ほぇ」
うん?何か変な声がした。
「あ~済まないが番場を呼んできてくれないか?その時にデヴァイスも一緒に持ってくるようにと……」
なぜか固まってしまった職員さんに羽立さんが声を掛けた。
「あっ……はい!?直ぐに呼んで参ります!!」
えぇっ!?すごいスピードで出て行ったぞ……
「全く……だが、気持ちが分かるだけに何も言えんな」
そう言った羽立さんの言葉に何故か母さんが頷いていた。
そして、少し時間が経ってまたコンコンとノック音がした。
「どうぞ」
「失礼します」
そう言って一人の女性が入室した。
「何故か呼び出されたんですが……」
入室早々不安そうな顔で女性は言う。
「少々込み入った話になるのでな。番場、先ずは自己紹介から」
「失礼しました。私はここの職員の番場信恵です」
「只の職員じゃないだろう?」
「私は只のセンター長補佐ですよ?」
「そのセンター長があまりここにいないから実質お前がトップみたいなもんだろう?」
「それは違います。センター長は外での折衝事に出られているだけです」
あ~何となくこう嫌な大人の世界が垣間見える会話だったな。アレだろ?そのセンター長って左遷か天下りかは分からんけど、この施設での仕事が不本意なのか不満なのか外での折衝事(という名の会合だったり政治家の接待だったり)をしてる訳だ。
「分かった分かった。ともかく、お前に来て貰ったのはほぼあり得ないレアケースに遭遇してな……知恵を借りたいんだ」
「レアケース…ですか……」
番場さんがチラリとこちらを見る。
「取り敢えず私はデヴァイスで目ぼしい人材を見ようと思っている。その間に春人君と直接話をすると良い」
そう言って番場さんからデヴァイスを受け取り何やら操作をし始めた。
「あ~ここに来る事になった経緯を説明します」
そして、俺は家での羽立さんとのやり取りを説明した。
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