168話
前世の俺にはあって今世の俺には無いものとは何だ?ってなる訳だが――
それは……性欲だ。
そうだよ!あれだけモテたいモテたいと思っていたのに……気付いて愕然とした。
それに性欲だけではない。手を繋ぎたいとかデートしたいとかキ、キスしたいとかさ…そういうのが無かったのだ。
いくら俺が前世では年齢=彼女無しの奥手な男だったとは言っても、彼女(正確には婚約者二人)が出来たなら前世で出来なかった事をしたいと思わない筈がない。
考えてみれば、朝のテント張りすら無い……前世では物凄いテント張りの痛みの性いや所為で朝起きたなんて事はままあった。男性諸氏なら経験もあろうアレだ。それが無い……
これはアレか?俺の前世の意識や奥手具合とこの体の根源にある女性への拒否反応的なのがミックスされてこうなってるのか?答えは出ないから気付けた事に良しとしよう。
それに、性欲で一つ気になる事も出来たしな。母さんに聞いてみるか。
「母さん、唐突に悪いんだけど気になる事があるんだ」
「あぁ、考え事してたのね…何かしら?」
俺の反応が無かった事を考え込んでいたからと思ったようだ。
「この世界では男性が女性に襲われるなんて事があるって聞いたけど……俺の周りでそう言う事が起こらないから実感が無くて……」
男女の貞操観念逆転モノではテンプレと言って良いこの設定を俺はまだ体感していない。
「もう!滅多な事は言わないの!!それはそれとして、春ちゃんの周りの女性はキチンとピルを飲んでいるからよ。と言うか事件が起こるのはピルを飲み忘れたとか飲む期間を空けすぎた女性がたまたま男性と遭遇して性欲を我慢出来なくて起こしてしまうものが大半よ」
「ピル!?」
えっ!?ピルってアレだよな?いくら前世で女性に縁が無かった俺でも知ってるぞ?避妊薬だろ?
「そんな驚くような事?」
母さんは俺の驚き具合に驚いたようだ。
「ピルって…避妊薬だよね?避妊薬で性欲が抑えられるの?」
それは女性に縁が無かった俺では知る筈もない事だ。
「プッ…そうなのね…春ちゃんの前世が150年前の人間だって実感できた気がするわ」
ぬっ?何故か小バカにされたような気がするぞ?解せぬ?
「あのね…ピルって避妊薬の面もあるけど生理周期を安定させる為に飲んだりもするのよ?まぁ、それはずいぶん昔の話で今のピルに避妊薬としての効果は無くて、性欲を抑える為の薬になっているの。皮肉でしょ?わざわざ生理周期を整える薬を別に作ってその名称まで変えてね……」
ほぇ~それは知らなかったわ~アフターピルのイメージしか無かったぜ……
それに、男性との性行為で男の子が生まれる可能性を高める事が義務付けられているこの世界で避妊薬なんて使われる筈が無いわな。
あと、前世での避妊薬としてのピルの使い方とは違うけど、男を襲わない為の性欲を抑える薬を避妊薬としての面があるピルと同じ名称にしたのは皮肉なのか自嘲なのか……
「それじゃあ母さんも飲んでるの?ピルって高いんじゃ無かったっけ?あと、飲み忘れは分かるけど間隔が空くってどういう事?」
「昔は値段もピンきりで病院での処方だったみたいだけど、今は必需品だから高くは無いしドラッグストアとかコンビニとか後は通販でも購入できるのよ?あと、ピルも薬は薬だから飲み過ぎは体に良くないの。だから、毎日毎食後に飲むのは良くなくて2,3日に一回一錠だったり週に一回一錠だったり人によって飲む感覚が違うの」
なるほどなぁ……そりゃあそうなるか。
薬で性欲を抑えられるのなら飲んだ方が良いけど、義務では無いし薬代だってバカにならない。女性側の努力によって今の状況は保たれてるんだなぁ…感謝感謝。
あと、母さんが飲んでるのかどうか答えて無くねぇ?いやまぁ良いんだけどさ。どうせ親子だから大丈夫だろう。
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