162話
「そうですか……僕の勘違いを好都合と考えて利用したと言う事ですね?」
俺は湧き上がる憤りを抑えながら言う。
「……否定は出来ません。幹事長は言っていました。彼の御仁は日本に必要な優秀な男性だと……」
そりゃあダブルバインド使いだから優秀なのは間違いないだろう。俺も出し抜かれた訳だしなぁ……
でもだからと言って罪は罪だろ?男性に死刑は無いんだし司法の裁きは受けるべきだろ。いや、その司法が捻じ曲げられたとは言え事件は無かった事になっているから罪自体が無いのか……
「ふぅ~正直ショックですね。人類存続党ひいては政府は信じられるかもしれないと思ったのですが……」
「市原さん、確かに我々の事は信用し辛いとは思います。ですが、人類存続党ひいては政府が男性保護を行っていると言う事は信じて頂きたいのです」
皮肉のつもりだろうか?そりゃあ男性保護を行ってはいるな。事件を揉み消すと言う最悪の形でな。
「あなた方は最悪な事をしてしまったと言う自覚はおありですか?」
「最悪な事…ですか?」
分かっていないのか?マジで言っているのか?
「悪しき前例を作ってしまったと言う事ですよ。ここまで言わなければ分かりませんか?」
「あぁ、そう言う事ですか。それなら問題はありません。あくまで今回の件は某国の関与を発表すれば某国を刺激してしまうと言う建前があったからこそ事件を無かった事にした超法規的措置ですので……」
自信ありげに大臣は言うが……
「だと良いですね。ですが、人間とは自分にとって都合の良い事を信じてしまうものです。もし黒幕の男がグループ内で『俺は誘拐事件を揉み消して貰った。俺はどんな事をしても罪には問われないんだ』とでも自慢したらどうなるでしょうね?」
これはあり得ると思うんだよ。黒幕の男は上流階級の一員になったからなのか自分の思い通りにならない事は気に入らないと言う傲慢な部分やプライドの高さも見えている。
そんな人物が自分が特別扱いをされた事を周りに自慢せずにいられるだろうか?俺は無理だろうと思う。
そして、それがグループ内に広まりグループに所属している男は都合の良い様に脳内変換するだろう。黒幕の男が所属しているグループの男はどんな事をしても罪には問われないと……実際に生きた前例が目の前にいるから尚更だろう。
「それは…いや、しかし……」
大臣は俺の言葉に不安を覚えたようだ。
「それに、仮にグループに所属する男が何かの罪を犯して逮捕された際に、自分は罪に問われる事は無いと発言したらどうなるでしょう?」
「っっ!?」
「えぇ、頭がおかしい男と判断されればまだマシで、事実かどうか調べられる事になるでしょう。そうなれば事実が発覚します。勿論、口止めはするでしょうが人の口には戸が立てられないと言います。何らかの形で情報の流失は免れ無いと思います。そうなるとどうなるでしょう?幹事長や法務大臣があなたを庇ってくれるでしょうか?」
「ま、まさか……」
俺の発言に大臣の顔が蒼褪める。
「グループに所属する男が逮捕されると言う事以外にも事実が発覚する恐れは当然あります。そもそも、某国の関与はただ黙っていれば良いだけの筈です。幹事長がわざわざ外務大臣であるあなたから法務大臣への要請と言う形をとって巻き込んだのは何故でしょう?」
「ふっ…何かあった時の為の体の良い生贄……スケープゴートという訳か……」
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