152話
レビューを頂きました。ありがとうございます。筆者の活力になります。
拙作の恋愛要素が薄い点やイケイケ主人公で無い点は人によって賛否があるかと思いますが好意的に受け取って下さるのは本当に嬉しい限りです。
「お待ちになって!春人さんがその…優良なものをお持ちであれば危険な事にはならないのではありませんの?寧ろ他国に拉致されない様に国が守ってくれるのではありませんの?」
うん。幸那さんの言は一見すると正しそうに聞こえるが俺はそうはならないと踏んでいる。
「えぇ、但し協力的で海外に亡命するなどとは言わない人物であればと言うのが後半部分に付きそうではありませんか?」
「それは……」
幸那さんの声が小さくなる。
「先程、誘拐事件の黒幕の男に超法規的措置が取られる事は国が僕に恩を売る為云々かんぬんと言いましたが、なんて事は無い。あれは――僕への警告だと思っています。『今は見逃してやるが国に従順にならなければお前の末路もあの男と同様のものになるぞ』とね……」
まぁ、全部俺の被害妄想だと言われればそれまでだ。証拠なんて何一つないからな。だけど、監視を送り込んできたりとかその傾向が見えるのもまた事実だろう。
それに、国と言うか政府に男は振り回されてきたと言う前例、実例があるからなぁ。
「つまり、優良な精子を持っていても従順になれば飼い殺し、従順にならなければ冤罪か何かで捕まり種馬扱い、優良な精子を持っていなければ超法規的措置で人体実験……どうです?これで警戒しない理由は無いでしょう?」
「この国がそうすると言う根拠はありますの?」
そう言われるのは分かっているし俺自身あくまで最悪の想定をしているだけだ。
だが、この男女比が狂った世界で何も手を打たなければ更に男女比は偏っていく一方なのだ。そして、人類はどんどん衰退していきやがて滅亡する。
なら、たった一人の男の犠牲で何とかなるかもしれないとなれば何をしてもおかしくは無いだろう。
ましてや国に対して協力的な男ではないのだ。嬉々として人類存続と言う大義名分を掲げて俺に不都合な事を強制するなんて事は想像に難くない。
「先程も言いましたが証拠はありません。あくまで最悪の事態を推測しただけです。それにもっとヤバい事も想像出来てしまうのが……」
見えるんだよ……かなりヤバい光景がな。
「これ以上…何があると言いますの?」
幸那さんの声が震えていた。
「はぁ~そうですね……例えば仮に、仮にですがあの誘拐事件の黒幕と僕を人体実験して男女比を何とか出来るかもしれない希望を見つけたとします。その場合どうなると思いますか?」
「大発見だと思いますわ!!人類滅亡を回避できる素晴らしい発見ですわ!!」
仮の話だと言うのに興奮した様に言う。この時点で男が二人も人体実験をされている事を鑑みる事もなく無邪気に喜ぶ彼女に嫌悪感が沸いた。
「仮の話ですから……ですがね、本当にあの男と僕の二人の男の尊い犠牲だけで済みますかねぇ?」
「えっ!?それは……」
幸那さんの顔が恐怖で引き攣った。やっとそこに思い至ったのか……女の方が多いのだから今現在の国のトップは当然女だ。こりゃあやりかねんぞ。
「二人の男が特異個体だったと言う可能性は十分あり得ます。いかに男の数が少ないとは言え流石にサンプルが二人と言うのは少なすぎでしょう。ましてや人類存続の希望になるものですからねぇ……一人殺せば後は何人殺しても同じと言う言葉がありますよね?人類存続の為と言う大義名分を利用して自分たち――この場合は国ですが、自分たちに都合が悪い男を人体実験してサンプルを増やすと言う事は考えられませんかね?」
幸那さんの反応から考えれば十分にあり得る。何せサンプルの対象は女性ではなく男性だからだ。
「まぁ、日本の男にまで話を広げたのは少々卑怯かもしれませんがね…分かりましたか?最悪の事態を想定して行動するのは当然だと言う事です」
大の為に小を犠牲にすると言う実例を凛音の誘拐事件で俺にまざまざと見せつけたのは間違いなく国だからな。楽観視は出来ない。
「なるほど……それでアメリカへの移住という訳ですのね」
「正確にはアメリカへの移住を検討する事で僕への手出しに躊躇や何らかの譲歩が引き出せればと言う所ですね」
勿論、俺のこの駆け引きが小癪だと機嫌を損ねてしまえば危険なのでアメリカに移住する事になるだろう。
「分かりましたわ。本家へ報告したら国にも報告が行くと思いますわ。そこからどうなるかですわね」
「幸那さんには申し訳ないのですが、正直言って僕を利用とした上流階級の家を慮る余裕はないんです。なりふり構っていられないんですよ」
嵯峨根幸那と言う人間は、俺が人体実験で犠牲になったと言う仮の話であってもそれが人類の為なら喜べるのだと言う事が先程露呈した。それならば、今までの様に男性警護者の部分は信頼できる……とは断言できなくなった。非常に残念だ。
「春人さんが言った事が全てですの。あなたを利用しようとしたのだから私と言うか嵯峨根家を利用されるのは仕方が無い事ですわ。ですが、上手くいきましたら嵯峨根家に何かしていただけたら嬉しくと思いますの」
幸那さんが抜け目なくそんな事を言う。どこまで図々しいのだ……まぁ、それ位じゃないと上流階級の人間は務まらないのだろうな。
「そうですね……もし丸く事態が収まれば僕のできる範囲内かつ僕が自らやっても良いと思える事であれば検討する事をお約束致します」
「それは……いえ、例え検討はしたと言われて断られても私がしてしまった事を思えばそう言って貰えるだけマシなのかもしれませんわね」
俺の政治家みたいなズルい言い回しの思惑はバレたが、嵯峨根幸那と言う人物に新たに芽生えた嫌悪感にまでは思い至らなかったようだ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。お手数をお掛けしますが、宜しければ拙作への評価やブックマークよろしくお願い致します。