151話
「春人さん、私にはあなたが何故そこまで国を警戒するのか分からないのですわ」
冷静になった幸那さんが困惑した表情でそんな事を言う。
「まぁこればっかりは立場が違う以上実感するのは難しいと思います。ただ理屈でなら分かると思いますよ」
幸那さんは上流階級の人間で国に近い立場の人間だから実感し辛いのだろう。何よりも女だからと言うのが理由だろう。男女差別という訳じゃなくて何と言えばよいのかな……前世で例えるには微妙かもしれないが痴漢の恐怖が男には実感しにくいとかだろうか?
上司であったりお局様なんて呼ばれる女性に男性がセクハラされれば恐怖だったり嫌悪感だったりが実感できるだろうがそういう経験が無ければ痴漢の被害女性が声を上げないのは恐怖からだと言うのが理解出来ないみたいな事だろうか?例えとしてはだいぶ不謹慎だが何となくでも理解はしやすいのではないかと思う。
「理屈ですの?」
「えぇ、そうですねぇ……善悪でのアプローチをしてみましょう。あぁ、勿論そんな単純な二元論で説明するのはナンセンスだとか言うのは一旦置いといて下さいね」
幸那さんが揚げ足取りをするとは言わないが、俺の言を認めたくないばかりにそれを理由にして認めないと言う事はあり得るからだ。
「まず、凛音の誘拐事件で国にとっての善とは何だったと思いますか?」
俺は説明するだけでなく幸那さんに質問しながら言う。
「そうですわね……やはり某国の関与を隠す事だと思いますの。国が某国が関わっていたと発表して某国を刺激して戦争…まではいかないにしても何らかの軋轢は生じるからですわ」
「僕も概ねその通りだと思います。では、僕にとっての善は何だと思いますか?」
この質問で答えに辿り着きそうだがそれでも構わない。
「あぁ……真実を明らかにして罪を償わせる事ですわね」
幸那さんが力なく答えた。
「分かったようですね。国と僕の善は違う。いや、敢えてこう言いましょうか――正反対なのだと……」
「で、ですがそれが過剰な警戒に繋がるものですの?」
幸那さんは何となく分かっている。だけど、やはり認めたくないのだろう。
「正反対である以上相容れない訳です。それは国にとっては不都合な存在でしょう。それが影響力がある配信者エスなら尚の事でしょう。しかも、その配信者エスは亡命するなんて発言をした前科がある人物です。配信者ではなく背信者だと思っても不思議ではありません」
まぁ背信者は言い過ぎにしても何で日本国民なのに日本の国益を損なう様な事をするのだ!!とは確実に思っているだろう。
「今はまだ僕が15だから見逃されている所があります。ですが、18になり精子提供の義務が発生すれば話は変わります。優良な精子を持つのであれば確実に手元に置いて国益の為に利用したいと思うでしょう。使えない精子であればただただ目障りな存在でしかない。分かるでしょう?どちらであっても僕にとっては危険なんですよ」
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