15話
「そうですか……で、俺の護衛は羽立さんが?」
俺の希望は母さんと同世代の男性希望者と言っていたし、何より母さんの知り合いだし、妥当な所ではある。
「いえ、私としましては私や美優と同世代では無く春人さんと同世代の方が良いのではないかと思っています。如何でしょうか?」
あ~ん?如何も何もないだろう。
「はぁ~母さんの知り合いだと言っていたから期待し過ぎていたのかもしれませんね…羽立さん、貴方は私の希望を聞く気は無いと?」
「春ちゃん!?」
俺の雰囲気が変わった事で母さんが驚いた声を上げる。
「いいえ、春人さんの希望を聞かないという訳ではありません。まずは、私がそう言った理由を聞いて頂けますか?」
聞いて頂きますか?と言いつつ強制みたいなもんだ。
「ふむ……どうぞ?」
聞いてやるよと思いながらどうぞのジェスチャーをする。
「ありがとうございます。私が春人さんと同世代をお勧めする理由は時間です」
「はぁ~羽立さんにはガッカリですよ。私がその程度の事を考えていないと?」
要は普通の職業ならともかく男性警護者としては母さんと同世代ならそう長くは働けないって言いたいんだろう?肉体の衰えがあるから40前半か遅くとも後半って考えるとまぁ10年あるかないかって所だろう。
俺と同世代とか少し上なら最低でも20年近くは働ける。信頼関係とか男性側の負担を考えて女性との接触回数を減らす事を考えるなら長い方が良いって所だろう?と言った事を説明する。
「仰る通りです」
「私は記憶喪失で普通の男性とは違いますので接触回数云々は当て嵌まりません。それに……普通の男性は男性警護者を頻繫に変える事は無いと言えますか?」
「それは……」
ここで初めて羽立さんの顔色が変わる。
この世界の男は女性に恐怖を抱いていたり尊大だったりする訳だから最初からずっと同じ男性警護者って事はないだろう。まぁ、合う合わないがあるのは当然だから仕方が無い事ではある。俺は羽立さんと合わないなと思ってるし……
「勿論、相性があるのは当然かと思います。そして、一度良いと思えば長く続くでしょう。ですが、それまでに何人、何十人と男性警護者と接触しているのでは?」
「……」
とうとう黙ってしまった。
「私としても羽立さんをやり込めたい訳ではありません。黙ってないで続きをどうぞ?」
「私の完敗ですね」
「貴方の完敗とかどうでも良いんですよ。私が言った希望が通るのか通らないのかをハッキリして頂きたい」
そう、確かにざまぁと思わないでもないが、それよりも俺の希望が通るかどうかの方が重要だ。
「春人さんの希望通りのリストはこちらにあります」
そう言って紙束を出してきた。
「なるほど……これもプロファイリングの一種ですか?」
してやられたな。最初から俺の要望通りにするつもりだったのだろう。でなければ、リストを用意している筈が無い。しかし、羽立さんが言っていた俺と同世代のリストも用意していた筈だ。これは恐らく警護対象者である男が自分の要望が通らなかった時にどういう反応をするのか見たかったって所か……
「そこまで見抜いた男性は私がお会いした中では貴方で四人目です」
四人――俺抜きなら三人か……羽立さんが会ったこの世界の男性でと考えると多いよな?それを褒められても……
「それじゃあ、この手の問題に正解が無いってのは?」
そう、俺の主張も羽立さんの主張もどちらも正しい。要は人によって――何を基準にするかによって答えが変わる問題だ。
「それは流石に春人さんだけですね……」
羽立さんは苦笑した。
ここまでやられっぱなしだったからな。やっと一本取れて満足した。
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