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136話

今回の話は書こうかどうか迷った話なのですが、避けては通れない内容だと思ったので書きました。


また、決して差別を助長するつもりで書いた訳でもありません。当然ですがこの作品はフィクションですので読者の皆様のご理解を賜りたいと思います。

 「それでは、最後の――四つ目の質問です。非常にお尋ねし辛い内容なのですが、私は真剣に貴国へ移住するかどうかを考えています。ご理解とご協力の程をよろしくお願い致します」


 俺はペコリとエマさんに頭を下げた。


 「Wow……ミスターエスがそこまで言うなんて一体どんな質問が来るのでしょうか?怖いですね」


 台本があるのだから茶番なのだが、聞きにくい内容なので前振りの様なものをする。


 「それでは……私は見ての通り日本人――つまり黄色人種です。貴国のと言うと語弊がありますが今回は敢えてそう言わせて頂きます。貴国の方々すると所謂イエローモンキーです。そんな私に生き辛さやハンデはありませんか?」


 敢えてここでは差別はありませんか?とは尋ねなかったが、どれだけオブラートに包もうと聞きたい事はそれなのだ。


 俺がアメリカへの亡命で心配する事や不安は色々あるが、大きな問題だと思っているものは二つだ。銃社会の問題と黄色人種への差別の問題だ。


 前世で日本人は海外でイエローモンキー扱いで差別を受けていると言うのはよく聞く話だった。サッカーでファールを取ってもらえないとか他の競技でも日本人の不利になる様なルールに改定されたとか……


 特に酷いのはやはりコロナ禍でアメリカで起こったアジアンヘイトだろう。日本の隣の人口世界一の国のウィルス研究所からコロナが流出したなんて報道から起こった差別だ。日本人も人口世界一の国の人間もキムチが有名な国の人間も顔が似ているからな。俺もパッと顔を見ただけで判別しろと言われると……


 だからと言って疑惑だけで人口世界一の国の人間ひいては黄色人種に暴力を振るう事や差別する事が許される筈は無い。


 差別は良くないとか言いつつ平気でこう言う事をしてくるからなぁ……


 まぁ、ともかく150年経っているとは言えそんなアメリカに亡命するのは非常に勇気がいる事なのだ。


 「ふぅ~申し訳ありませんミスターエス、私の立場でそのようなものがあります等と言える筈がありません。どうかご理解下さい」


 エマさんが深々と頭を下げた。そりゃあそうだよなアメリカ大使館の参事官であるエマさんが公式の場とも言える動画の中で、STAP細胞はあります!!と言った某理系女子(女史)の様に差別はあります!!(バーン)なんて事を言える筈がないよなぁ……


 「いえ、こちらこそ大変不躾な質問をしたと思っています。申し訳ございませんでした。ただ、私が貴国へどのような理由で移住する事を悩んでいるのかは伝わった事でしょう。また、それは貴国への移住を考えている私以外の日本の男性も同様だと思います。それをお伝え出来ただけで十分です」


 敢えてここでは亡命と言う言葉は使わない。個人的なイメージだが、亡命って言葉は自分や家族の命が掛かった様な非常に切羽詰まった状態の人間がする事だと思っているからだ。


 また、実は事前にエマさんが台本を見た際に最後の質問を削って欲しいと言われていたのだ。俺は質問だけさせて欲しい。答えは必要ないです。日本の全ての男たちの為にどうかお願いしますと頼み込んでエマさんが大使と交渉をしてくれて何とか許可が下りたのだ。


 だから、絶対にその信頼を裏切って答えを求める事はしない。


 それに、差別はありません!!(ババーン)と言わないだけで、あっ…(察し)なのだよ。


 「ですが――」


 言葉を途中で止め、エマさんは胸ポケットからパスケースの様なものを取り出してカメラに見せてから机の上にパンと叩きつけた。


 「えっ!?」


 突然のエマさんの奇行に驚いた声しか出せなかった。


 「今の私はアメリカ大使館の参事官エマ・グリーンではなく、アメリカと言う国に生まれ育った一人の人間として言わせてもらいます。最初に、差別がないとは言えません。ですが、そんな愚かな事をする者は極少数です。ですが、そんな極少数の行動が見えてしまえば他のアメリカ人もそうなんだと思われるかもしれませんがそれは違います。どうか、そう言う者の行動や言葉に耳を傾けアメリカ人全てがと思わず個人として判断して頂けないでしょうか?」


 机に叩きつけたアレはアメリカ大使館の身分証で、それをああしたから一個人としての発言だとした訳か……


まさかエマさんの方がこんな台本に無い事をしてくるとは夢にも思わなかったぜ。


 「正直に言いましてその様な言葉を頂けるとは思ってもいませんでした。ジュエラーの皆さんに台本をお見せしますが……この通り政治的な配慮からエマさんは何も答えないとなっているのです。なのに、自分がこの後どうなるかなんて考えず一アメリカ人としてここまで言って下さった事に感謝と敬意を表します」


 俺はその場で立ち上がり深々と頭を下げた後に右手を曲げ右目の眉の上に移動させ敬礼した。


 「そして、アメリカ大使であるリディアナ・ターナー様にお願い申し上げます。誇り高く貴国の宝と言っても差し支えないエマ・グリーン参事官にどうか…どうか……寛大な処分をお願い申し上げます」


 俺はそう言った後、その場で10~20秒土下座した。


 俺は立ち上がり顔を上げたのだが、全員が凍り付いたようにその場でピシリと固まっていた。


 「あれ?何か皆固まってる……え~と、取り敢えず本日の対談は以上で終了とさせて頂きます。え~それでは配信者エスと…………アメリカ大使館の参事官エマ・グリーンがお送り致しました」


 エマさんが固まっていてエマ・グリーンと自分で言ってくれなかったので、俺がエマさんの代わりに甲高い声で言う羽目になった。


 あと、固まってた理由は俺がエマさんの為に土下座したからだって事は分かった。だけど、土下座で済むなら安いもんだ。俺がアメリカに亡命する事なんて条件を付けられたらたまったもんじゃないからな。先手必勝!!

最後まで読んでいただきありがとうございました。お手数をお掛けしますが、宜しければ拙作への評価やブックマークよろしくお願い致します。

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