135話
「エマさん、貴重なご意見ありがとうございます。そうですね……貴国と日本は様々な違いが有りますから貴国の方が安全ですかと言う私の質問の仕方が悪かったです。動揺と期待感からあのような質問をしてしまい大変申し訳ありませんでした」
ここは素直に謝罪するのが吉だろう。アメリカの方が安全ですか?なんて質問は俺の思惑を知らない側から見ればどう考えてもナンセンスだからな。
「いえいえ、期待感と言う嬉しい言葉も聞けた事ですし、男性にとって重要な事を尋ねるのは当然ですから気にしていませんよ。では、次の質問をどうぞ?」
ふむ……本心かどうかはともかく、今この場で問題にする事は無いと言う事だな。
「ありがとうございます。続きまして、貴国の男性に課された義務について説明をお願いしたいです」
これも比較的オーソドックスな質問と言って良いだろう。
「我が国の男性の義務ですか……実は特にはありません」
「はい?聞き間違えでしょうか?義務が無い?」
これは流石に驚いた。
「はい、日本には精子提供や婚姻の義務があります。ですが、我が国には精子提供も婚姻の義務もありません。ただし、精子提供も婚姻もしないと言う事は別の生活の糧を得る手段が必要と言う事です。あぁ、強いて言うなら男性であっても働いて得た所得には税金が発生します。因みに精子提供の謝礼には発生致しません」
なるほどなぁ……流石は自由の国アメリカと言うべきなのかな。精子提供するもしないも婚姻をするもしないもそれは男性の自由だ。ただし、精子提供しないのに金をやる訳にはいかんし、婚姻をしないなら女性に養って貰う事も出来ない。だから、どこかで妥協しろ。それが嫌なら自分で何かしら金を得る手段を見つけてキチンと税を払えって事か。
「なるほど……流石は自由の国アメリカと言わざるを得ませんね」
「ありがとうございます。ですが、日本の男性は義務があるからこそ働かずに生きていく事ができます。どちらが良いと言う事は一概には言えません。どちらにもメリット、デメリットはありますから……」
これはホントにエマさんの言う通りだな。日本式が良いと言う男性もいればアメリカ式が良いと言う男性もいるだろう。問題なのは男性がそれを選べない事――いや、生まれた国によって決まってしまう事だろうな。
とは言え、そんな事を言っても意味がない。貴重な男をみすみす他国にやるなんて事をする国はこの世界には無い。日本であってもだ。実際、外務省から来ましたって監視要員もいるしな。
「難しいですね……私は日本しか知りませんから貴国に行ったとしてもやっていけるのか少々不安になりました」
「お気持ちお察しします。ですが、不安になる事はありません。強制する訳ではありませんが、精子提供をして頂ければ十分な謝礼はお渡し致します。我が国では義務ではありませんので、日本より高額な謝礼になる事は間違いありません」
なるほどな。日本人がアメリカに亡命したとして生きていけないと言うのは困るのだから、日本でしていた事と同じ事をしてくれれば生きていけますよと言うのは当たり前と言えば当たり前か。
「その精子提供について質問があります。三つ目の質問です。日本ではどの様な場合であっても精子提供をすれば金銭が支払われます。貴国ではどうでしょうか?義務ではないと言う事は……」
あまり直接的な表現はしたくなかったので言葉は濁したが、要は問題がある精子を提供した場合であってもアメリカでは十分な謝礼が支払われますか?と尋ねているのだ。
日本では義務である為、例えば子供が出来ない精子や生まれてくる子に障害が発症しうる精子とかであっても正常な精子と同等の金銭が支払われる。また、本人とその婚姻相手に精子に問題がある事が伝えられるのだ。その場合、子供を設ける義務は無くなる。また、誤ってその精子が人工授精に使用されない様に適切な処理を経て処分される。
問題がある精子に金銭が支払われるの?って思われるかもしれないが、義務として提供したのに問題があるから要らねぇしそんなもんに金払う価値無いからって言われたら男はどう思うだろうか?じゃあ次回からは提供しないと言う男ばかりになるだろう。今は正常でもいつか問題がある精子になる可能性は誰にでもあるからだ。
それに、以前に言ったが、学歴、資格、就労経験の無い無い尽くしでどうやって男は生きていくの?ってやつだ。問題がある精子だから精子提供しても金銭は支払いませんってなればどうなるかは想像が付くだろう。別の見方をすれば精子提供は働かない男性にとってのセーフティーネットになっているのだ。
だから、政府は金銭を支払いたくないかもしれないが支払わざるを得ないのだ。
あっ!?あと、貞操観念逆転系のジャンルで精子にランクがある制度が度々出てくるが、日本ではそんなものはない。高ランクが低ランクを差別したりなどの問題が発生するし、先程の理論と同じ様に義務で提供しているのにランクで格付けされて支払われる金銭もランクによって変わるとなれば提供を拒否する男も出てくるだろう。
そんな問題しか生まない制度をわざわざ作る筈がないのだ。
翻ってアメリカはどうだろうか?アメリカでは精子提供は義務ではない。だから、逆にアメリカではランク制とは言わずとも似た様なものがあるのではないかとふと思ったのだ。
「なかなか嫌な質問をしてきますねミスターエス……正直にお答えしましょう。金銭は支払われます。しかし、一般的な額は支払われません」
苦痛に顔を歪めたかの様な表情でエマさんは言う。
「答え辛い質問にお答え頂きありがとうございます。もう一つ追加でお尋ねしたい事があります。逆に優良な精子であった場合はどうでしょうか?一般的な額より多く支払われると言う事がありますか?」
この質問はサービスだな。先程のお詫びも込めて十分にアピールしてくれと言う事だ。
「提供された精子が設けられた基準より優れているとなれば基準に対して支払われる金銭より多く支払われています。ただし、自身の精子が優良であると言う事や金銭を多く貰っている事を吹聴しないと言う守秘義務が発生する誓約書を書いて頂く事になりますが……」
「なるほど!そうしなければ自分は優良な精子を持った男ですと言っているのと同じですからね。多くの女性に狙われる事になるでしょう。だから、男性自身を守るための措置なのですね」
これもサービスの一環だな。男の俺が言う事によってあくまで男性を守る為ですよと言う事を意識づける事が出来る。
「ミスターエスは頭の回転が速く理解力が素晴らしい。やはり是非とも我が国にお招きしたいものです」
エマさんが良い笑顔で言う。良かった。先程の事は水に流して貰えるようだな。
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