134話
動画撮影はありのままを撮影する事になっている。なので、俺とエマさんはお互い椅子に座ってテーブル越しに正面から向き合う状態で台本も隠さずに持ったままで撮影をする。
これは日本政府に対するアピールのつもりだったんだが、監視要員を送り込んできたからなぁ……
「それでは、撮影を開始致します。よろしくお願いします」
カメラマンが俺とエマさんに声を掛けた。
「「よろしくお願いします」」
二人揃って返事をした。
「え~ジュエラーの皆さん、本日私はアメリカ大使館に勤めているエマ・グリーンさんとの会談の様子を動画で投稿させて頂く事になりました。改めてエマ・グリーンさん、よろしくお願いします」
「えぇ、こちらこそよろしくミスターエス」
ふぅ~いつもの癖でミスター市原って言わないかなとヒヤッとしたけど、ちゃんと配信者エスとして対応してくれてありがたい。
「え~それでは早速会談をさせて頂きます。まぁ、会談と言っても実質は私からエマさんへのアメリカについての質疑応答と言うのが正確な所です。それでは早速一つ目の質問です。貴国で男性の扱いは日本とどういう部分が異なっていますか?」
無難な質問だが、一番目の質問としては相応しいものだろう。
「異なっている部分ですか……まず、基本的には我が国も日本も男性保護政策が主軸です。その中で日本との違いとなりますと、我が国の男性は比較的よく外出をされます。勿論、比較対象は日本の男性です。あぁ!当然ミスターエスと比較すれば我が国の男性は外出しないと言えますね」
勝手なイメージだが、アメリカ人って会話で必ずジョークを挟まないといけないとか言うしきたりでもあるのか?って位ジョークを言うよな?
「ありがとうございます。私の事はともかく一般的な日本の男性と比べて貴国の男性の方が外出をするとの事ですが、その理由や要因と言ったものは一体何なんでしょうか?」
「これはあくまで私の考えだと言う前提ですが、恐らく……日本の男性と違い自衛手段があるからだと思われます」
「自衛手段ですか?」
「はい。我が国は日本と違い銃社会です。なので、当然男性も銃を所持しています。自衛の為の手段があるのかないのかと言う違いではないかと思います」
なるほどなぁ……なんて言うと思うなよ。
「一点気になる点があります。銃社会であるなら女性も銃を所持している筈ですね?それなら、男性が銃を持っている事が自衛手段であるから外出すると言うのは矛盾とまでは言いませんがおかしくはありませんか?」
そう、男性だけが銃を所持できるのなら自衛の為のアドバンテージと言えるが、相手も――女性も銃を持っているなら意味無いよな?
「えぇ、ミスターエスならその点を指摘すると思っていました。男性には自分に襲い掛かって来る女性に対してフリーズ等と言わずに問答無用で撃って良いと言う法があります。これは一部の州だけでなく全ての州で適用されています」
「っっ!?殺しが合法化されるんですか!?」
「ノンノン、言葉が過ぎますし間違えていますよミスターエス、あくまで自分に向かって襲い掛かって来る女性に対しての発砲許可です。勿論、その場合相手の女性が死に至ったとしても罪には問われません。なので、我が国では女性が男性には不用意に近付きませんし、何か用があって接触をするのなら自分が所持する銃をその場に置いて両手を上げて男性に近づくのが一般的です。しかし、逆にその様な状況で男性が女性を問答無用で撃ったなら男性側に罰則が適用されます。これは以前、実際に起こった事件で裁判にもなったので間違いは無いです」
「Oh……」
俺の方が思わず英語が出ちゃったよ。マジか……アメリカは銃社会だから物騒だと思ってたがそんなカンジなのかよ。
「失礼しました。あまりの衝撃に思わず……では、貴国は男性にとっては日本よりも安全だと言う事でしょうか?」
この質問は一種の罠だ。正直に答えるのかどうか気になる所だな。
「イエス!!と言いたい所なのですが、残念ながらそうではありません。我が国にも恥ずかしながら邪な思いを抱く女性はいるので、日本より安全かと言われると即答は出来ません。ですが、男性が外出しているから犯罪が起きると言う側面はあるのかもしれません。日本の男性はあまり外出をしないので犯罪に巻き込まれにくいと言う事は言えるでしょう」
ほぉ~こいつは中々返しが凄まじいな。アメリカの方が安全ですと嘘を吐かなったのは好印象だが、結局の所アメリカの方が危険ですとも言ってないのが上手い返しだ。
それに、アメリカの男性に比べて日本の男性が外出せずに引き篭もっているからアメリカと比べて犯罪が起きにくいんだよ!!って言う発言が何より痛烈な一撃だ。当たり前と言えば当たり前だがそれをわざわざ言うのは俺の仕掛けた罠がお気に召さなかったと言う事だろう。
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