132話
「もう少しだけ時間がありますね。エスさん、何か話題はありますか?」
凛音ェ……意趣返しなのか難しい事を言ってくる。
と言うのも、実はさっき3分間の休憩時間に凛音に知り合いがいない事のフォローをしたのだが、それは俺の勘違いだったのだ。凛音は自分の知り合いを俺に引き合わせたくないだけだったのだ。
だから、凛音のご機嫌を損ねてしまったのだ。なので、恐らくその意趣返しだろう。
「話題と言うか告知ならあります」
「告知…ですか?」
凛音が戸惑うのも無理はない。俺が言おうとしている事は台本にはなかった事だからだ。
「告知と言うのは冒頭にも言いましたが、あの凛音転生と言う曲は誰にも歌う許可は出しません。ですが、反響の大きさから別の問題が発生する事は予測できます。なので、今現在急ピッチで新曲を作成しております。そちらは許可を出しますのでそれで勘弁して下さいと言うカンジの告知です」
そう、歌わせないと言うのは簡単だが余計な恨みを買ったりする事は十分あり得る。だから、別の曲を用意するのでそちらはご自由にどうぞとする事にしたのだ。
「ええっ!?新曲出されるんですか!!」
う~ん?凛音はどういう意味で言っているのだろうか?新曲を出す事に純粋に驚いているのか、それとも別の誰かの事を想った曲を出す事にショックを受けての事だろうか……
「はい、出します。時間は掛かりますが……そうは言っても、数か月から遅くとも一年以内には頑張って出します。それと、新曲は特定の誰かの為の曲ではありません。また歌う許可を出せなくなりますからね。特定の誰かを想って歌う曲ではない事をここに宣言します」
凛音にあの凛音転生の曲と同じような事はしないと言う。
「そうですか……新曲が楽しみです」
なんでそんなに嬉しそうなんですかねぇ?やっぱりそう言う事なんだろうな。
「ありがとうございます。月坂Pにそう言って貰えると嬉しいです」
「エスさん、何か含みがありそうな発言ですが……」
「いえいえ、あの凛音転生は誰かの為の曲ですからねぇ……新曲を出す事に反対と言うか複雑な感情をお持ちなのではないかと愚考した次第です。あぁ、誰とは言えないのですがね…許可を貰えて一安心です。ねぇ?」
明らかに凛音に向けて言う。察しの良いジュエラーの皆さんは俺が誰の為に凛音転生と言う曲を作ったのか理解した筈だ。何でそんな事を言ったのかって?これは先程の意趣返しの意趣返しだ……と言うのは冗談で、雑談配信ではこれからも月坂Pこと凛音を多用する事になるからだ。
雑談配信で何故いつも月坂Pが出演するのかと誹謗中傷を受け炎上する可能性が非常に高い。だから、月坂Pはエスにとって特別な存在だと匂わせた訳だ。そうすれば俺と言う男にとって特別な存在である凛音に直接誹謗中傷という名の攻撃はしにくいだろうからな。
まさか、あのアイドル事務所のお相手の女性の様な匂わせをする事になるとは夢にも思わなかったぜ。勿論、匂わせの目的自体は全然違うけどな。
「エスさん、告知は以上でしょうか?であれば、時間もよろしいですので本日の雑談配信はここまでとさせて頂きましょう」
凛音は俺の匂わせ行為を察知したのか慌てて配信を終了しようとする。
「はい。それでは、本日の雑談配信はここまでとさせて頂きます。次回の配信については月坂Pからまた告知致します。本日の雑談配信に最後までお付き合い頂きまして誠にありがとうございました。ジュエラーの皆さんにとってまた良い一週間になる事を祈っています。さようなら~」
最後まで読んでいただきありがとうございました。お手数をお掛けしますが、宜しければ拙作への評価やブックマークよろしくお願い致します。