閑話 エスが作って歌った曲――凛音転生
私の名前は渋谷亜子。男性配信者を追っかけて以下略。
「あれ?今日ってエスの配信休みだったよね?」
そう、何故か動画が上がってるのだ。第月天魔王は配信休みしか告知してないのに……確認したけど、動画については告知されていない。
「まぁ……見てみますか」
配信が無くて時間があるのだから上がっている二本の動画を見てみる。
「一本目は……自作した歌を歌う事についてってタイトルか……二本目は凛音転生ってタイトルね。多分、一本目がどんな風に曲を作ったのかメイキング動画みたいなカンジかな?で、二本目は実際に曲を歌った動画かな」
では、一本目から見てみよう。
『ジュエラーの皆さんどうも、配信者のエスです。え~元々歌を歌うって言うのは予定していた事でした。が……既存の曲だと著作権やら使用料やらゴチャゴチャして大変そうじゃないですか?だから、最初からオリジナル曲を歌おうとなりました。ホントはジュエラーの皆が知っているような曲を歌いたかったんですけどね……』
ふ~ん……第月天魔王がちゃんと教育してるのね。男の配信者が許可とか取らずに好き勝手に人の曲を歌ってトラブルになっていると言うのは有名な話だ。それを考えれば最初からオリジナル曲ならそのようなトラブルは起こりえない。
『後は、純粋に自分の実力不足ですね。プロではないので技術なんてありません。だから、自分が作った曲で気持ち――思いを込めた歌で勝負したいと言う事です。まぁ、それしかできないとも言いますが……』
そう!こういう所が他の男の配信者と違うエスの魅力なのよ!!出来ない事は出来ないと素直に認めて他の事で勝負をする……簡単に出来る事じゃないわ。
『最後になりますが、僕が自作した曲――凛音転生はとある人物の為だけに作られた曲です。なので、この曲を自分以外の誰かが歌うと言う事――正確には配信で歌う事やSNSにこの曲を歌う姿をアップする行為は許可いたしません。予めご了承下さい。また、僕が自分の配信でこの曲を歌うと言う事や別の機会に歌うと言う事も基本的にはするつもりはありません。と言うのも、この動画1回の為に気持ちを作り上げて最高の状態で歌うつもりなので、2回目や3回目となるとどうしても1回目を越える感動を与える事は出来ないと考えているからです』
『長々と語ってしまい申し訳ありません。ここまで期待を高めた癖に大した事なかったと思われる方もいるかもしれません。ですが何分素人のする事なので、どうか寛大な心でご視聴下さい。お手数をお掛けしますが、歌の方は凛音転生と言うタイトルの動画を投稿いたしますのでそちらでお聴き下さい』
そこからは練習風景などの映像が流れた。
最後まで見終わった私は、エスがそういうならそこまで期待せずに聞いてみようと思った。
そして、二本目の動画である凛音転生を視聴する。
ふ~ん……メロディーを聞く限りはしっとりとしたスローテンポのバラードかしらね。
『何十回~いや何百回、生まれ変わっても~君と~結ばれたい~』
最初の出だしを聞いただけでゾクッと鳥肌が立った。
『君との~出会いは、ユニーク~だったね?もしかして、それって~運命だったのかな~なんて』
『あの日、君は、僕に言ってくれたね~僕と一緒にいる事に、人生を~懸けられるんだと』
『それがどうしようもなく~嬉しくって、君に惹かれたんだ~そんな君が隣にいてくれるって、奇跡に~どうしようもなく、涙が溢れてくるんだ~』
『何十回~いや何百回、生まれ変わっても~君の~側にいたい~』
ここで1番が終わって間奏に入った。
確かに大昔の有名な男の歌手やアイドルと比べたら純粋な上手さは無いだろう。下手ではないが、素人にしてはかなり上手いレベルと言われても不思議じゃない。
でも、何だろうな?何かこう~心に語り掛けてくるものがあると言うか……なんて考えてたら二番が始まる。
『君への~告白は、突然だったよね?』
『よくさ?大事なものは、無くしてから~気付くって言うけど、亡くしてから~気付かなくって、本当に良かった~』
『バカな僕は~やっと気付いたんだ~君の事が好きだと、今こうして~君と笑いあえる、奇跡に~どうしようもなく、涙が溢れてくるんだ~』
『何十回~いや何百回、生まれ変わっても~君と~結ばれたい~』
2番が終わり再び間奏に入った。
気付けば私はボロボロと涙を流していた。何故かは分からない。心にぐっときたから思わず涙が溢れたとしか言えない。これ以上明確な言葉になんか出来やしない。
間奏が終わってラストに入る。
『二人の~行く先は~困難ばかりだろうけど~君がいてくれれば、僕は~何だって出来る』
『誰を、世界を、敵に回したって~君を守ってみせる~』
『何十回~いや何百回、生まれ変わっても~君の~側にいたい~』
『何十回~いや何百回、生まれ変わっても~君と~結ばれたい~』
「うっ……ひっく……ううっ」
気付けば曲は終わり、私は嗚咽を漏らしていた。
あ~エスが言っていた2回目や3回目の感動云々と言う意味が分かった。例えば来週の配信でエスがこの凛音転生を歌ったとして、ここまで感動するかと言われればそれは無いと断言出来る。
感動が薄れると言うのもあるし、この1回しか歌わないからここまで思いを込められたのだと思う。
「ひっく……とある人物の為に……うっ……作られた曲って……ひっく……どう考えても第月天魔王でしょ」
ホント第月天魔王が心底羨ましい。自分の為に男が曲まで作って歌ってくれるなんてどこの恋愛小説やラブコメよって言いたくなるわ。
と言うか……歌詞のテロップに告白ってあったわよね?
むぅ~!!第月天魔王マルス!!今ならこの嫉妬で絶対第月天魔王をマルス出来るわ!!
最後まで読んでいただきありがとうございました。お手数をお掛けしますが、宜しければ拙作への評価やブックマークよろしくお願い致します。




