123話
6月11日日曜日時刻は午後14時を迎えようとしている。そう、配信の時間だ。
今日は凛音の誘拐騒動とかがあったので配信を休んでも良かったのだが、どうせなら雑談配信しようと言う事になった。
「本番10秒前です。5,4,3,2,1」
「どうもリスナーの皆さんこんにちわ。配信者のエスです。今日は雑談配信を行おうと思っています。雑談配信なので途中でつまんねと思ったリスナーの方は見るのをやめて頂いても構いませんよ。皆さんの貴重な時間を頂戴するのも心苦しいですからね」
普通は最後まで見てねとか言うべきだろうが、雑談配信でそれを言う勇気と厚かましさは俺には無い。
「さて、早速雑談と行きたい所なのですが、エスにいきなり一人で雑談配信なんて難しい事はまぁ…ね……と言う事なので、スペシャルなゲストを呼んでおります」
コラボ!?誰と?なんてコメントが見える。
「え~コメントにコラボと言う文字が見えましたが、お相手は配信者の方ではありません。ここで引っ張ってもアレなのでサクッと呼んじゃいましょう。月坂Pカモン」
そう、第月天魔王にして月坂Pこと凛音を相方に呼んだのだ。
凛音はずっと反対したけど、月坂Pとして呼んだ方が配信として出来る事が格段に増える等の理由で説得したのだ。
「どうも初めまして、第月天魔王こと月坂Pです。本日はよろしくお願い致します」
俺が初めに顔を隠していた馬の被り物を被って顔を隠し、声も~~容疑者を知る同級生のAさんがしてそうな変声機の声で登場した。
「ブフッ、声が…声が最高過ぎる……」
何度も聞いていたのだが、あの声は面白すぎてツボにはまってしまう。
「エスさん、プレの時も笑っていたのに……雑談に入りますよ」
プレと言うのは言うまでもないがリハーサルの事だ。
「すいませんでした。それでは、最初にずっと宙ぶらりんになっていたリスナーの皆さんの呼び方についてですね」
「私はあの呼び方非常に良いと思いますよ。被る心配もなさそうですからね」
「それでは発表します。リスナーの皆さんの呼び方は――Jewelerです」
なるほどとか良いとか素晴らしいというコメントが見える。ザっと見た感じネガティブなコメントはなさそうだ。
「Jewelerは日本語で宝石商の事です。月坂Pがメイキング動画でエスは宝石の原石なので皆さんが磨いて下さいと言った所からジュエラーを選びました。ちなみに月坂PはアルファベットのUでしたね?」
「あなたという意味のyouとSの後のアルファベットのUを組み合わせた渾身作だと思ったのですが……」
「Uは別に僕じゃなくてもその名前を付けそうですからね」
確かに凛音の案も悪くは無いが、エスのリスナーの名前とするには弱い気がしたのだ。
「それじゃあ次の話題は……」
凛音が次の話題を俺に振ろうするが――
「あの!」
と俺が言葉を遮った。
「身内ネタの話なんかをするのは良くないのは分かってるんですが、この場でさせて下さい。月坂P、その……学校はどうですか?学校だと正体バレバレですよね?通い辛いとかないですか?」
今更?と思われるかもしれないが、こういう所で牽制をして少しでも凛音への援護になれば良いなと思っての事だ。
まぁ、凛音がこの場でホントの事を話すとは限らないが俺の目的はあくまで牽制なり援護だからな。
「えぇ……あの、エスさんが考えている事は分かりますが、心配は無用ですよ。エスさんと私の繋がりを知っているのに何かしてくるような低能な方はあの学校にはいません。それにあるクラスメートにエスさんを配信者にしてくれてありがとうと言われました。これは私宛のメッセージでもよく来るのですが……」
凛音は少し戸惑いながらも淀みなく言葉を紡いだ。
へぇ~なるほどな。あるクラスメートって誰だ?多分右田さんだと思うが……気になるな。
あと、俺は元々バーチャルな配信者をするつもりだった所を凛音に説得されて配信者になったんだもんなぁ。そう言われるのもおかしい事ではないな。
「そうですか……懐かしいですね。元は動画投稿者とバーチャルな配信者をするつもりだったのに月坂Pにその顔でバーチャルな配信者をするつもりですかってものすごい剣幕で言われましたもんねぇ……」
俺がそう言うと、コメント欄を見ると月坂PGJとかよくやったとか第月天魔王流石です等のコメントが見えた。
「あの~話を戻しますけど、他意は無いんですよ。無いんですけど、ほら…その……クラスにいるじゃないですか?彼女とその~気まずくはありませんか?僕が教室にいないだけに気になって仕方が無くてですね……」
彼女と言うのは勿論京條千夏さんの事だ。あと、コメント欄にそれを聞くのかとかエスも中々エグいとか書かれていた。ジュエラーなら月坂Pと同じクラスに京條家の関係者がいるって知ってるもんな。
「あはは…まぁ、一時は気まずかったですけど今はそんな事ありませんよ。だって、彼女だけは母と姉の考えに反対していたようですし、しかもエスさんに返り討ちにされると分かっていた様なので……」
「えっ!?ええっ!!京條さん分かってたんですか!?」
思わず名前と言うか苗字呼んじゃったけどそれだけ興奮したと言うか驚いた。
「みたいですよ。あの生配信の後、私は謝罪とか色々含めて腹を割って話をしたんですけど、その時に聞きました。どうせ自分が反対しても聞き入れる訳がないのだから鼻っ柱を折ってもらった方が良いと思ったそうです。流石に追放とか自分が当主になるとは思いもしなかったみたいですけど……」
「はぁ~やっぱり彼女は曲者ですね。案外彼女が当主になったのは京條家にとっては福音だったのでしょう。だとすると、僕はみすみす敵に塩を送った形になりますね。本来ならば彼女は次女ですから当主になる事はまずなかったでしょうからね……」
リップサービスの部分もあるが、7、8割方は本心で言っている。
「エスさんと関わってしまったからではありませんか?彼女はエスさんと関わって男性に対しての考え方が変わったと言っていました。勿論、私もですよ」
「あ~何と言うか僕はその~所謂一般的な男性とは到底言えないでしょうから、男性への考え方が変わったと言われても困りますねぇ……」
例えとして適切かは分からないが、メジャーで二刀流で大活躍の選手がいるが、あの選手が日本人だからと言って、日本のプロ野球の選手が全員二刀流だったりあのレベルの活躍が出来ると思われるのは困るのと同じだ。
要は、突出しすぎている人間を基準にされるのは誰にとっても不幸になると言いたいのだ。
「ふふっ、当然分かっていますよ。ですが、それでもエスさんの様な男性がいるのだと言う事実が与える影響は大きいですよ」
「僕の様な男がいるという事実が与える影響ですか……そうかもしれませんね。ただ、僕はそれを強要する事だけは止めて欲しいです。具体的には他の男にエスと同じ男なのにどうしてあなたは……的な事ですね。僕は僕ですし、その男の人はその男の人です。僕と言う男の価値観や考え方を他の男に強要するのは絶対に許されない事だと思います」
この世界は超絶めんどくさいんだよなぁ。貞操逆転ものであるよくある男が単純に悪いって訳じゃない。だから、俺の価値観や考え方を他の男に強要する気は更々ないのだ。
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