122話
太刀川家を後にして午後から俺の部屋で幸那さんと話をする事にした。
「幸那さん、話の内容は分かっていると思いますが、言わせて頂きます。配信でも言った通りなんですが、上流階級の人間と婚姻をするなら家を出て貰ってからです。なので、幸那さんが僕との婚姻を望むのなら嵯峨根家から籍を抜いて貰う事になるのですが幸那さんにそれが出来ますか?」
厄介な問題と言うのはこれだ。
「えぇ、春人さんの言う通りですわ。私はどうしたって嵯峨根幸那ですの……私には嵯峨根家を捨てる事は出来ませんわ」
だと思ったよ……だがそれなら仕方が無い。
「それでは、僕との婚姻は諦めてもらうしかありません」
「こればかりは仕方がありませんわ」
「愛莉さんと顔を合わせるのは辛くありませんか?幸那さんが望むのなら男性警護者の契約を解除して貰っても構いません」
上流階級としての嵯峨根幸那と言う人物は困るが、男性警護者としての嵯峨根幸那と言う人物は正直惜しいのだ。
しかし、こちらの事情で婚姻したいなら籍を抜けと言っているのだからこれ以上こちらのわがままを押し付けるのは心苦しい。
「私もそれを考えなかった訳ではありませんの。ですが、春人さん以上とは言わないまでも仕えやすい警護対象者が見つかるかと言うと……」
幸那さんが苦笑しながら言う。
「幸那さんは愛莉さんとは違って警護対象者に怖がられてる訳ではありませんよね?見つからないとは思えませんが……」
「春人さんは上流階級を嫌っておいでですからお忘れでしょうが、私は警護対象者に言い寄られて困っていたのですわ」
「あぁ……」
そういえばそうだった。俺には非常に良くないイメージしかない上流階級だが、それはあくまで俺の価値観だからな。上流階級にすり寄りたいと考える男がいてもおかしくはないのかもしれない。
だけど、そういう男は絶対上流階級側から見て利用価値がない男だと思う。そうじゃなけりゃあそもそも早めに確保してるだろうし、すり寄ってきた時点で幸那さんに確保しろって指令が下されてるだろう。そうなってないってのでお察しだ。
「コホン、幸那さんが問題ないのなら僕としても男性警護者を引き続きお願いしたいと思います。ただ、数年後は愛莉さんは僕の妻となります。幸那さんとの関係も今のまま同僚という訳にはいかないと思います。それは覚悟しておいて下さい」
「っっ!?そうですわね。実感が湧いていませんものね……春人さん、またその時になって改めて男性警護者を続けるかどうか話をさせて頂きたいと思いますの」
「そうしましょう。僕も決して幸那さんを傷つけたい訳ではありませんから」
「ありがとうございます。その時までには答えを出しておきますわ」
取り敢えず今回は婚姻は無しで、男性警護者の契約については現状維持と言う形で纏まった。
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