121話
「春人さん!!あれはいったい何ですか!!剣術に詳しいのは宿泊研修で知っていましたが薬丸示現流を使えるなんて拙は知りませんでした」
愛莉さんが興奮して俺に言う。
「使えるなんて言うのは薬丸示現流の流派の方に失礼ですよ。私のは付け焼き刃ですから……」
これは謙遜とかじゃなく本心だ。前世で幕末モノのゲームをしてから一時期ハマって薬丸示現流に関する本や動画を見ていたからだ。
実際、唯里さんには受ける事無く避けられたからな。受けるより避ける方が難しいのは自明の理なのでそう言う事だ。
「いやいや謙遜されるな。確かに30秒と言う短い時間での立ち合いではあったが、あれは間違いなく婿殿の勝利だ」
妙子さんの俺の呼び方が市原春人殿から婿殿に変わっているんですが……
って言うか俺は婿じゃねぇし……と思ったが、後に調べてみるとこの世界では前世の様な婿養子的な意味ではなく、娘や孫娘の婚姻相手の事を婿と言うらしい。
「えぇ、単純な戦闘能力では勝てない事が分かっていて、しかもそれを理由に自分の思惑を隠し切って唯里に一太刀も浴びずに30秒見事に生き残りました。太刀川家に相応しい頼もしい婿ですね。それと、春人さんは私の事をちゃんとお義母さんと呼んで下さいね」
理恵さんが嬉しそうに俺に言う。
「あの~私が唯里さんに逃げ回ると思わせた事や開始位置を離れた場所にした事など潔くない些か卑怯な行いをしました。その事についてはどう思われますか?」
俺は思い切って聞いてみた。その様な汚いやり方は太刀川家の人間に相応しくない的な事を言われるかもと覚悟していたからだ。
「とんでもないです。義弟君が普通に闘えば唯里に勝てない事は誰もが分かっていた事ですからね。唯里が勝手にそう思い込んだのと自らのハンデと言っていましたから、寧ろ勝利する為に諦めず様々な手を使った事は素晴らしい事だと思います。あと、私の事はみどりお姉ちゃんと呼んで下さい」
「そう言って頂けると幸いです。ただ、お姉ちゃんはちょっと……みどり義姉さんじゃダメでしょうか?」
やっぱりお姉ちゃんは恥ずかしい。
「みどり義姉さん……アリね!!」
みどり義姉さんは嬉しそうにサムズアップして言う。
「唯里さん、約束通りに私を愛莉さんの婚姻相手として認めて貰えますか?」
話がこれ以上脱線しない様に唯里さんに尋ねた。
「えぇ、立ち合う前に決めた通り春人義兄様を愛莉姉様の婚姻相手に相応しいと認めます。数々の無礼な態度や発言、大変申し訳ありませんでした」
唯里さんは俺を認めると同時にこれまでの発言や態度を謝罪した。
「ありがとうございます。皆様も愛莉さんからお聞きかもしれませんが、私市原春人は太刀川愛莉さん以外にもう一人婚姻したい相手がいます。それでも婚姻を認めて頂けますでしょうか?」
この世界では一夫多妻も認められているとは言え、実際に一夫多妻はほとんど無いので凛音の事を言わずに婚姻を認めて欲しいと言うのは不誠実だと思ったので、正直に言う。
あと、娘さんを僕に下さいって言うのが有名だが……下さいってモノじゃないんだしさぁとか表現に引っ掛かる所があるからこういう言い回しにした訳だ。
「うむ…よう言うた。わたしゃあ婿殿と愛莉の婚姻を認めるよ」
「えぇ、私も春人さんと愛莉の婚姻を祝福します」
「私も義弟君と愛莉の婚姻を認めます。ついでにお姉ちゃんも一緒にどうかしら?」
「私は先程言いましたから……春人義兄様、愛莉姉様、末永くお幸せに」
四者四様で俺と愛莉さんの婚姻を認めてくれた。
「僕はまだ15ですので、あと2年とちょっと待って頂く事になるので婚約成立となりますね。婚約を認めて頂きありがとうございます」
そうなんだ、前世と同じ様に婚姻可能な年齢は男女ともに18のまんまだった。正直、男女共に16とかに引き下がってるんじゃないかと思っていたんだが、恐らく男性の精子提供の義務も18からなのでそれに合わせての事だと思う。
凛音との婚約ともう一人の少々厄介な件もあるけど、まぁ何はともあれ一先ず愛莉さんとの婚約が認められて一安心だ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。お手数をお掛けしますが、宜しければ拙作への評価やブックマークよろしくお願い致します。