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120話

 「春人さん、本当に唯里と立ち合うのですか?」


 鍛錬場に移動した俺たちだが、移動した途端に愛莉さんが不安そうな顔で言う。


 「やるしかないでしょう。相手に勝てと言われている訳ではなく30秒の制限時間付きですから、ワンサイドゲームにはならないでしょう」


 俺は愛莉さんに無理ゲーではないと言う。


 「30秒持てば良いと思っているのかもしれませんが、30秒もあると思うべきです。唯里は春人さんの年齢に近いくらい武道を積み重ねているのですから……」


 確かにそう言われるとそんな気もしてくるな。


 「ルール確認ですけど、立ち合いだからと言って闘わないといけないなんて事はありませんよね?戦闘能力ではなくあくまで運動能力の確認ですからね」


 不安になったのでそんな事を言った。


 「勿論です。愛莉姉様が駆けつけるのに必要な30秒生き残る事を前提とした運動能力の確認ですから、闘わず30秒間逃げ続けても構いません。逃げるというのも運動能力が必要な事ですので……」


 あ~こりゃあ俺が30秒間逃げ続けようと思ってるのがバレてるな。


 「妙子さんが審判、理恵さんは30秒をデヴァイスの投影機能で表示をして頂いてもよろしいですか?」


 「構わないよ」


 「承りました」


 妙子さんにも理恵さんにも承諾してもらう。


 「市原春人殿、武器はどうされますか?」


 唯里さんに尋ねられる。


 「武器…ですか……」


 えぇ!?武器とか使った事ないんだが……それに、実際の場面で俺が武器を使う事も無いだろうしどうするか……


 「勿論、真剣なんて使いません。運動能力の確認の立ち合いですので鍛錬場で使う木刀や模造刀などですよ」


 俺が言い淀んだ理由を察したのか唯里さんは真剣は使わないと言い、手で指し示した先には武器の保管庫?保管部屋?みたいなのがあった。この中から選べって事か。


 「あの~防具とかは?」


 先の言と矛盾するが、ここまで来たら腹を括って使えるものは何でも使う精神でいこう。それに、剣道の防具とは言わないまでもプロテクターとかあった方が良い気がする。当然俺の方がだ。


 「春人さん、防具は重いですよ?安全を考えれば付けた方が良い気もしますが……」


 確かに愛莉さんの言う通りだな。防具なんて付け慣れてないんだから動きの邪魔になるだけか。


 「それでは腕のプロテクターだけ付けさせてもらいます。武器は鞘に納刀出来る模造刀で」


 「……」


 唯里さんは俺のチョイスを不審そうな顔で見ている。逃げ回るつもりの癖になんでプロテクターや鞘付きの模造刀で重量を増やしたんだろうと思っているのだろう。考え迷え迷え。その迷いが少しであっても俺を有利にしてくれる。


 唯里さんはシンプルに太刀の模造刀だった。当然プロテクターは無し。流石は太刀川家の人間だけあってブレないなぁ……


 「それでは、これより立ち合いを行う。制限時間は30秒、双方良いな?」


 「はい」


 「すいません。開始位置を離してもらっても良いですか?」


 唯里さんは問題ないと言ったが、俺は開始位置を離してほしいと言った。今の開始位置だと瞬殺される事間違い無しだ。


 「唯里?」


 「構いません。これもハンデです」


 「では春人殿、どの位離れますかな?」


 唯里さんが良いと言ったので妙子さんがどの位開始位置を離すのか俺に尋ねた。


 「勿論、端と端です」


 この鍛錬場は中々広いが、そうは言ってもそれで30秒稼げるかと言うと難しいだろう。愛莉さんが言ってくれたように天と地ほども差がある相手に30秒って意外と長いからな。それでも、やらないよりマシだ。


 「やはりそうですか」


 俺の意図を理解した唯里さんは予想通りだとばかりに侮蔑した表情で言う。


 「唯里」


 流石にその表情はマズいと妙子さんが注意する。


 いいや、それで良い。唯里さんは先程の俺の武器や防具のチョイスの不審さを忘れて完全に俺が逃げに徹すると考えている。


 「失礼しました。この位置で良いでしょうか?」


 唯里さんが俺と反対側の一番端の位置から言う。


 「はい。そこでお願いします」


 俺も一番端の少し前から言う。


 「双方良いな?」


 「「はい」」


 今度は俺もはいと言う。


 「理恵」


 「こちらも準備は出来ています」


 「うむ。それでは……30秒の立ち合い開始!!」


 妙子さんの言葉で立ち合いが開始された。


 「参りま!?」


 「「「!?」」」


 唯里さんだけでなく、妙子さんも理恵さんも愛莉さんでさえも驚いた様だ。


 「参りま――で言葉が止まりましたけど?」


 唯里さんは開始と同時にこちらに向かって来ていたが、その動きが止まった。それだけ驚いたと言う事だろう。


 唯里さんだけでなく全員が驚いたのは俺の構えを見たからだ。


 「ただの居合?いえ……あれは薬丸示現流ですか」


 俺の言葉に我を取り戻した唯里さんは再びこちらに向かって来ながら言う。


 まぁ見破られるよね。右足を少しだけ前に出して体を前のめりにした状態で居合の構えは――二の太刀いらずの示現流として幕末に恐れられた薬丸示現流の構えだ。


 「30秒という時間、逃げ回ると思わせた事、開始位置、全てはその為ですか……見事です」


 唯里さんの顔に先ほどの侮蔑の表情は無かった。


 「ちぇいいいっっ!!」


 俺は徐々に体を倒しその勢いを利用して居合のスピードを上げ、文字通り二の太刀いらずとばかりに刀を下から袈裟斬りする。


 「っっ!?」


 太刀で受け止められた感触が無かった。空振った――いや、避けられた。


 「そこまで!!」


 妙子さんの立ち合い終了の声が掛かった。


 何とかギリギリ逃げ切れたな。 

最後まで読んでいただきありがとうございました。お手数をお掛けしますが、宜しければ拙作への評価やブックマークよろしくお願い致します。


次回更新は18日で、そこからまた3日ごとの更新に戻ります。

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