118話
6月10日土曜日の時刻は午前10時になる少し前だ。
今日、俺は愛莉さんと共に太刀川家に来ている。
「大きな家ですね~あの建物は何ですか?」
家の敷地の中に家以外の建物があって何なのか気になって愛莉さんに尋ねた。
「あれは鍛錬場です。私も朝早くからあそこで姉や妹や母たちと鍛錬していました」
ほぇ~流石男性警護者一家と言った所だろうか。家に鍛錬場があるってそうないと思う。
「それでは参りましょう。只今戻りました」
愛莉さんは鍵が掛かっていない家の扉を開けて家の中に入った。
「えっ!?鍵してないんですか?」
「この太刀川の家に何かを盗みに来るような剛の者がいるなら、寧ろ一族の者は歓迎するでしょう」
あ~なるほどな。例えとしてはどうかと思うが、警察署に盗みに入る泥棒はいないって事だな。
「お帰りなさいませお嬢様、皆様は既に居間にお集まりでございます」
「ただいまです房江さん、ですが……お嬢様は流石に恥ずかしいです」
愛莉さんにお帰りなさいませと言ったのは、年齢的におばあちゃんに近い女中?のような恰好をした女性だった。
「私にとってはお嬢様がいくつになってもお嬢様ですので……初めまして、私はこの太刀川家にお仕えしております佐藤房江と申します」
房江さんと名乗る老女は愛莉さんの隣にいた俺に挨拶をした。
「こちらこそ初めまして、市原春人と申します」
俺もきっちりと挨拶を返す。
「ご丁寧な挨拶痛み入ります。それでは早速ですが皆様がいる居間にご案内致します」
ご丁寧な挨拶?と思いながらも愛莉さんと共に房江さんの案内のもと居間に向かう。
「失礼します。愛莉です。市原春人さんを連れてただいま戻りました」
「入りなさい」
愛莉さんがそう言った後に入室の許可が出た。こういう所がキッチリとした家なんだな。気を付けないとな。
「春人さん、入りましょう。失礼します」
「失礼致します」
俺は愛莉さんの後に入室した。
「よくぞ参られました。こちらにどうぞ」
「恐れ入ります」
愛莉さんのお姉さんかな?その人にこちらにどうぞと手で示されたので畳の上に置かれていた座布団に一声掛けて座る。勿論、正座でだ。
「あっ!どうぞ足を崩されて下さい」
「あ、ありがとうございます。それでは失礼させて頂きます」
先程とは別の愛莉さんのお姉さんに足を崩して良いと言われたのでお言葉に甘えて足を崩した。
本当はそう言われても足を崩さない方が良いんだろうが、話が長くなりそうなのに足が痺れたなんて事になって真面に話を出来ない方がマズいと思っての事だ。
「皆様初めまして、市原春人と申します。いつも愛莉さんには警護で大変お世話になっております」
ペコリと頭を下げ俺の方から挨拶をした。
「ほぉ!これはこれはご丁寧に……私は愛莉の祖母の太刀川妙子だよ」
俺を見て驚いたとばかりに目を見開いた後に自己紹介をした。
「初めまして、こちらこそいつも愛莉がお世話になっています。愛莉の母の太刀川理恵です」
「えっ!?お母さん!?」
俺を最初に座布団にどうぞと言ってくれた人はお姉さんではなくお母さんだった衝撃に思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
「はい。愛莉の母で…あなたのお母さんにもなります♪」
俺が驚いた事が嬉しかったのか嬉しそうにそんな危険な事を言う。
「コホン、母が失礼致しました。私は愛莉の姉の太刀川みどりと申します。愛莉がいつも自慢げに食事の画像を送ってくるので羨ましく思っていました」
俺に足を崩して下さいと言ってくれた人は今度は間違いなく愛莉さんのお姉さんだった様だ。
「とんでもありません。私の拙い料理で愛莉さんが満足して貰えるか不安だったのですが、画像を送る程と言う事であれば満足頂けている様で何よりです」
「春人さん、私はいつも春人さんに感謝を申し上げています」
俺の発言に愛莉さんが異議ありとばかりに発言する。
「いえ愛莉さん、そうは言ってもやはり不安になるものです。客観的に満足していると分かったので嬉しくてつい言ってしまっただけです。愛莉さんに含む所はありませんよ」
「仲が良好そうで本当に羨ましいわ愛莉」
俺と愛莉さんのやり取りにみどりさんが羨ましいと言う。
「姉上……ありがとうございます」
「ふふっ、さぁ後は貴女だけよ」
みどりさんはもう一人いた女性にそう言った。
「私は愛莉姉様の妹の太刀川唯里……私はあなたが愛莉姉様の婚姻相手だなんて認めない」
あぁ……起こるだろうと思ったイベントだが、まさか愛莉さんの妹に貴様に娘は――いや姉はやらんと言われるとは思ってなかったぜ。
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