115話
6月7日水曜日 現在時刻は午後14時だ。
昨日はエマさんとの話し合いの後解散となった。月坂さんと話したい事があったが、月坂さんのご家族が帰ってくる時間帯になったし月坂さんは誘拐事件にあった直後だから今日改めて話をしようと言う事になった。
そして、月坂さんは大事を取って今日は学校を休んでいる。
そこに押し掛けるのはどうかと思ったのだが、月坂さんの家にお見舞いに行く事にしたのだ。
俺は愛莉さんが運転する車で月坂さんの家に到着したので、インターホンを押した。
ちなみにだが、月坂さんの家は4階建てのアパートの一室だ。
「はーいっっ!?」
「どうも、私は市原春人と申します。月坂さん――凛音さんの元クラスメートで今現在は配信者とプロデューサーと言う関係でお世話になっております。本日はお見舞いに参りました。こちらはつまらないものですが……」
四十歳くらいの女性なので恐らく月坂さんの母親と思われる人物が出て来たのだが、男の俺がいて驚きで固まってしまった。しかし、気にせず挨拶し午前中に買って来て貰っていたフルーツが入った籠を手渡した。
どこぞの新喜劇の様につまらないものは面と言って叩き落される事はなかった。
当たり前だ。こんな事を考えるなんて緊張してるわ。まさか月坂さんの母親がいるとは思ってなかったからだな。
「あっ…その……どうぞお上がり下さい」
「お気持ちはありがたいのですが、上がってしまって大丈夫でしょうか?急に押し掛けたのはこちらですから準備と言うか片づけと言うかありませんか?」
月坂さんには今日お見舞いに行く事を話してはいない。本当ならメッセージアプリで連絡するべきだろうが、月坂さんは遠慮するだろうと考えて何も伝えずに押しかけた訳だ。
やっぱ連絡しておくべきだったな。そしたら母がいるのでという情報も事前に手に入っていただろう。
いや、どこぞの麻雀部の部長の様に逆に考えよう。月坂さんの母親がいる事に何かしらの意味があるのだと……
それなら、あのお願いをしてみよう。
「はっ!?少々お待ち下さい」
月坂さんのお母さんは一旦ドアを閉めて月坂さんの確認に行った。
「すいません。凛音は少し準備がありますのでそれまでリビングでお待ち下さい」
数分して月坂さんのお母さんが俺たちにそう言う。
「分かりました。ありがとうございます。愛莉さん」
「はい。それではお邪魔致します」
一応男性警護者である愛莉さんが先に家にお邪魔した。
「初めまして、凛音の母の明奈と申します。それで、その……貴方はエス様でいらっしゃいますか?」
「あ~はい、そうです。配信者エスをやらせて貰っています。その~月坂さ――凛音さんからそういう話は聞いていませんでしたか?」
リビングに案内されてソファーに座って月坂さんを待っていると月坂さんのお母さん――明奈さんから自己紹介と質問をされ、エス様て……と思いつつ俺は返答した。
こういう時月坂さんをどう呼べば良いか困るよな。月坂さんは目の前のお母さんもそうだしな。
だけど、いつもは月坂さんとか月坂P呼びだから下の名前である凛音さんと呼ぶのは妙に気恥ずかしい。
「えぇ、その…アルバイトをするとしか……」
「そうでしたか……えぇと、明奈さん、実は昨日の事についてお詫びしなければならない事があります」
お願いもそうだが、先ずは昨日の件からお詫びすべきだと思って話題を変えた。
「お詫びですか?」
明奈さんが怪訝そうな顔で言う。
「はい。実は――」
「あの……」
「あっ!?月坂さん」
話そうとしたタイミングで月坂さんが現れた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。お手数をお掛けしますが、宜しければ拙作への評価やブックマークよろしくお願い致します。




