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114話

 「ですがエマさん、僕にはどうしても拭いきれない疑念があるのです」


 俺は申し訳なさそうに言う。


 「ミスター市原に疑われたままなのは困りますので、聞きますよ」


 ふむ……若干エマさんの雰囲気が変わったか?


 「僕は全て逆だったのではないかと思うのですよ。いえ、正確に言うのなら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のではありませんか?」


 「「「っっ!?」」」


 俺の発言に半ば空気となっていた月坂さん、愛莉さん、幸那さんの三人の驚きが漏れた声がした。


 「ミスター市原、それは我々がミズ月坂の誘拐に加担していたと言いたいのですか?」


 「違います。僕の予想はこうです。エマさん達が僕に接触する前に月坂さんと接触しようとしたのは本当でしょう。しかし、それは今日ではなかったのではありませんか?僕の予想では1週間から10日前位ではないかと思います」


 俺はどこぞの名探偵の様にじわじわと追い詰める様に言う。


 「仮に今日より前に接触するつもりだったとして、その日に接触を止めた理由は何ですか?」


 エマさんは冷静に俺に対応する。


 「月坂さんの周囲を見張っているあるいは探っている何者かを見つけたからだと考えています。あなた方はその何者かを調べ上げ月坂さんの誘拐計画がある事を突き止めた。故に――それを利用しようとした。違いますか?」


 俺の疑念は、ダブルバインド使いが月坂さんを誘拐する計画を立てた事を突き止めたエマさんがそれを利用して、月坂さんを救出し俺たちの信頼を勝ち取ろうとしたのではないか?って事だ。


 だって、誘拐事件が発生してから()()()()()()()()()()()()()()のに、犯人の情報や動機についてここまで判明しているのはどう考えてもおかしい。


 「ミスター市原はミステリーがお好きなのですね。ですが、ミステリーとしてはそれなりの出来だとしても現実とは違います。敢えてこう言いましょう――証拠はありますか?」


 「ありません。僕は最初にこう言いました。疑念が拭えないと……」


 証拠なんてある筈が無い。だから疑念と言う言い方をしたのだ。


 「日本にはこういう言葉があった筈です。疑わしきは罰せずと……ミスター市原、これ以上我が国を侮辱するような事を言うのなら我々にも考えがあります」


 う~ん……ここでサラッと流さないのは怪しいな。勿論国の威信に懸けてと言う事もあり得るが……


 「それが狙いなのですか?」


 俺は言葉を止めずに続ける。


 「狙い?」


 「えぇ、月坂さんを救出して信頼を勝ち取れれば良し、疑われたとしても侮辱されたとか何とか言って譲歩や要求を飲ませるのも良しと言った所ではありませんか?」


 これもまたダブルバインドだな。


 「はぁ~困りましたね……ではどうすればミスター市原の疑念を晴らす事が出来ますか?」


 「簡単な事です。今日月坂さんに接触しようとした所()()()()誘拐事件に遭遇して救出をしたのであれば、貸し借り無しで何かを要求するのは止めて頂けますか?警察に通報した()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 俺としてはこの言葉を言いたかった。


 「エクセレント!!」


 エマさんが俺の言葉を聞いて拍手をしながら言う。


 「えぇ、ミスター市原の言う通りです。勿論我々は何かを要求したりはしません。強いて言えばミスター市原に我が国の話を聞いて頂きたいだけです」


 ふむ……俺にああ言われた以上何かを要求する訳にはいかなくなったから、多少譲歩して最低限の目的である俺との接触に切り替えたのか。


 エマさんっていったい何者なんだ?


 「その……大変失礼かとは思うのですが、エマさんがそんな事を勝手に決めて良いのですか?普通は上司と相談して返答しますとか言うべきなのではありませんか?」


 権限の問題でもある。エマさんは大使館で結構上の方の人物なのか?


 「フフッ、ご安心下さい。改めてご挨拶しましょう。アメリカ大使館で参事官を勤めているエマ・グリーンです」


 「「参事官!?」」


 愛莉さんと幸那さんが参事官と聞いて驚いた声を出す。俺が参事官と聞いて思い浮かぶのはバディシリーズの刑事部長の腰巾着の参事官だな。


 「え~と……不勉強で申し訳ないのですが参事官と言うのは?」


 どの位の地位ですか?偉いんですか?と直接的には言わなかったが、ニュアンス的に伝わっただろう。


 「春人さん、参事官と言えば一等書記官と公使の間の役職です」


 しかし、答えたのはエマさんではなく、愛莉さんだった。エマさんに答えさせるのはマズいと思ったのだろうか?


 しかし、愛莉さんに説明されてもいまいちピンとこない。一等書記官って言うのは聞いた事があるが……


 「大使館では上から大使、公使、参事官、一等書記官……となっていますわ」


 俺がピンときていない事を察したのか幸那さんが補足説明してくれた。


 「ナンバー3って事ですか!?えぇ!?何でそんなすごい人が?」


 こういう言い方は良くないが小さい国の大使館のナンバー3じゃなくて、アメリカ大使館のナンバー3だぞ?どう考えても大物だろう。


 ヤバイな俺……怖いもの知らずだな。いやでもさぁ、エマさんを下っ端とは思ってなかったけどまさかナンバー3だなんて思わないじゃないですか?月坂さんも驚いているし。


 「それだけミスター市原の事を我が国は重要だと認識していると言う事です」


 「あの~今更の話であれなんですが、大使館の人は逮捕されないみたいなのありませんでしたか?」


 バディシリーズの2時間スペシャルでそんなのを見た覚えがある。


 「外交特権の外交官の身体の不可侵ですね。あれは百年近く前に廃止されましたよ」


 えぇ!?何で廃止されたんだ?


 「何故と言う顔されていますね。答えは簡単です。外交特権を利用した犯罪が横行したからです。具体的には駐在先の国の男性を母国へ密入国――いえ拉致させたり駐在先の国の男性を大使館内に連れ込んでの性犯罪であったりですね」


 あぁ、うん……何と言うか納得です。


 「ミスター市原、あなたは素晴らしい男性です。是非とも我が国にお迎えしたいと思っています。その為のお話をさせて頂きたいのです。勿論、話を聞いたからと言って我が国に来なければならないと言う事はありません。お約束致します。如何でしょうか?」


 思惑はどうあれ誘拐された月坂さんを救出出来たのはエマさんのお陰だ。


 「いくつか条件を付けさせて下さい。ただ、最低条件として考えているのはエマさんとの会話の様子を配信で流す事をお許し頂きたいと思っています。これは僕の為でありエマさんの為でもあります。どうでしょうか?」


 アメリカ大使館の人間と密談したとなると政府の俺に対する印象が悪すぎるだろう。だから、その様子を配信で流せれば安心して貰えるだろう。


 いや、安心とまではいかなくとも俺は疚しい所は無いよアピールしている訳だから、積極的に亡命したいとは考えていないと判断してくれるだろう。


 まぁ、裏ではどんな話がされたか分からんと勘繰られるとは思うが……


 「そうですね……流石にこれは私の一存では返答できません。数日お時間を下さい」


 まぁ、引き抜きの様子を可視化すると言っているのだから簡単にはい良いですよとは言えないか。情報の流出の懸念があるからな。


 「当然の事です。ですので、一つだけ僕からエマさんに説得材料になりそうな情報を……日本の男性は海外の情報を入手する事が難しいのです。なので、僕の配信を見る事で日本の男性がアメリカと言う国の情報を入手出来る事は凄くプラスになると思います。それが良い情報であれ悪い情報であれ……」


 勿論、それだけで日本の男が亡命するかと言われればノーだ。だが、判断材料が増えるだけでなくアメリカと言う国に興味を持ってもらえるだけでも間違いなくプラスになると言えるだろう。現状は興味を持つ持たない以前の話だからだ。


 情報の流出がマイナスでは無くプラスになると判断されれば俺の提案が受け入れられる可能性が高くなる。


 「っっ!?ミスター市原、あなた言う人は……大使を必ず説得してみせます」


 エマさんと握手をして本日の話は終了した。

最後まで読んでいただきありがとうございました。お手数をお掛けしますが、宜しければ拙作への評価やブックマークよろしくお願い致します。

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