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閑話 記憶喪失の男性入学希望者1

誠に申し訳ないのですが、長くなったので2話になってしまいました。もう1話は明日までお待ち下さい。

 私、渕上(ふちがみ)日葵(ひまり)と言います。年は今年で25になります。そんな私は開黎高校で事務職員をしています。今年で3年目です。


 毎年この受験シーズンは私たち事務員にとって戦争です。勿論、先生方もそうでしょうが……


 今日、2月23日も忙しくなるだろうなと思っていると電話が掛かってきた。


 「はい、こちらは開黎高校です」


 私は元気よくはきはきした声で電話対応をします。


 「あ、朝早くから申し訳ありません。(わたくし)、貴校の入学希望の者なんですが……今、お時間を頂戴しても宜しいでしょうか?」


 「はぇ」


 電話からは男性の声がしました。そして、何とも柔らかい応対で驚き、思わず変な声が出てしまいました。


 「し、失礼致しました。私は渕上日葵と申します。私で宜しければこのまま対応させて頂きたいと思いますが如何でしょうか?」


 気を取り直して対応をしたいと願い出る。


 正直言って私には荷が重いかとも思ったが、相手が代わるとなると時間が掛かるので相手を怒らしてしまう可能性がある。そうなると、貴重な男性の入学希望者を逃してしまう事になる。そうなると、私は最悪解雇だろう。


 しかし、時間は大丈夫か?と聞いてくれる心優しい男性なので大丈夫だろうと思いつつも、油断せず行くのよ私!!


 「渕上様ですね……ご丁寧な対応痛み入ります。私の方は大丈夫ですのでこのままお電話させて頂きたいと思います」


 ふ、渕上様!?だ、男性に様付けされてしまった!?


 「は、はい。こちらこそよろしくお願い致します」


 「それでは早速なのですが……私、男子校の受験に失敗しまして、第二希望で恐縮なのですが貴校を希望しております。つきましてはどのような選考があるのかと必要書類について伺いたいと思いましてお電話させていただきました」


 はぁ~ここまで電話対応が丁寧な男性には出会った事がありません。勿論、電話の事なので相手の様子は分かりませんし、もしかしたら本を見ながらなのかもしれませんが、それでもわざわざマナー本を見ながら電話をしてくれる男性は非常に貴重だと思います。


 「畏まりました。選考方法と必要書類についてでお間違いないでしょうか?」


 「はい、間違いありません」


 「失礼かとは思いますが、お電話口の貴方様は男性でいらっしゃいますか?」


 声を聞けば分かるだろうと言われるかもしれないが、この電話口の男性に限って言えばそんな事を言ってくる事は無いと思ったし、男子と女子で選考方法は違うので確認が必要だ。万が一女子だったら大変失礼に当たるという事もある。


 「はい。男です。あっ!?た、大変失礼を致しました!!私、市原春人と申します。ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありませんでした」


 やっぱり男性だった。しかも、名乗らなかった事をわざわざ私に謝罪するなんて……はぁ~好きになったわ。


 「とんでもございません。市原様ですね。では、男性と言う事ですので基本的に選考はございません」


 「あの~その事なんですが……本当に選考はないのでしょうか?筆記試験は無いにしても面接や書類選考はないのでしょうか?」


 「いえ、一切ございません」


 勿論、本当に男性の入学希望者に試験はないし、あったとしても私の解雇(クビ)――いや、この命を懸けても春人君の入学を勝ち取って見せるわ。


 いえ待つのよ……解雇になると春人君とのキャッキャウフフな3年間を送る事が出来なくなるわ。命もね……腕や足までにしておきましょう。


 「え~と……渕上様を疑う様で大変失礼かとは思うのですが、貴校は偏差値が高いと聞いております。私は恥ずかしながら偏差値が到底足りているとは思えません。そんな私が本当に貴校に選考無しに入学出来るんでしょうか?」


 「っっ!?」


 ピンときてしまった。春人君は男子校の受験に失敗したと言っていたわ。だから、疑心暗鬼になっているのね。でも、大丈夫よ。


 「失礼だなんて事はございません。当然の疑問かと思います。ですが、失礼かとは思いますが私に対してのお電話がとても丁寧で驚いております。そんな市原様であれば是非とも我が校にご入学頂きたいと思っております。私だけでなく教職員一同思う事だと思います」


 「そうですか……大変嬉しいお言葉ありがとうございます。ぜひそうなれば良いなと私も思います。では、続きまして必要な書類についてお伺いしても宜しいでしょうか?」


 ねぇ?本当にマナー本読みながら電話してるの?流暢と言うか自然と言うか……私と同年代とか少し上の世代の取引先と電話してる感覚なんだけど……本当に開黎高校に入学希望なの? 


 「はい。市原様の疑念の解決になったのであれば大変喜ばしく思います。では、必要書類についてですね?必要な書類については市原様のご自宅に郵送させて頂きます。ご記入が終わりましたら我が校宛に返送いただけたらと思います」


 「郵送ですか……てっきり貴校に行って必要書類を記入するのかと思っていました。その際に面接もあるのかと……」


 えっ!?春人君、開黎高校(ウチ)に来てくれるつもりだったの!?良い子過ぎる……


 「とんでもございません。市原様の貴重なお時間とお手間を取らせるような事は致しません」


 本当は生の春人君に会いたいな~と思ったけど、その所為で春人君がやっぱ入学止めるってなったら大変な事になるからなぁ…残念。


 「そ、そうですか……恐れ入ります。あ!?あと、中学での成績表みたいなのが必要だったと思うのですが、それは取りに行った方が良いですよね?」


 「成績表――内申書の事でございますね?市原様が在籍していた中学校の方に我々が内申書を取りに参りますので市原様が取りに行かれる必要はございません」


 春人君、アクティブ過ぎでしょ……と言うかそもそもこの電話も普通に考えたらおかしいもんね。そもそも入学希望だったとしても母親か中学の担任が電話してくるから、入学希望の男子が自分で電話してくる時点でもうね……


 「内申書!!そうです内申書です。し、失礼致しました」


 恥ずかしい~って小さく言ってたのお姉さん聞いちゃった。可愛いな~春人君


 「いえ…他に何か疑問等はございませんか?」


 はぁ~そろそろ春人君との楽しい時間も終わりか~残念。


 「そうですね……あ、宛名」


 「た、大変申し訳ございません。市原様のご住所をお伺いするのを失念しておりました」


 「あっ!?住所…住所ですよね……」


 私の馬鹿!!春人君との楽しい時間が終わる事に気を取られて大事な事を聞き忘れるなんて!!


 あと、やっぱり住所を教えるのは躊躇いがあるんだ。当然だよねぇ……


 「市原様、ご懸念は尤もかと思いますが、市原様からお伺いした個人情報は悪用されない様に厳重に管理致します。どうかご理解とご協力の程をよろしくお願い致します」


 春人君からは見えないだろうけど、私は先程のミスの事も含めて頭を深々と下げる。


 「あっ!?ち、違うんです!!住所を教えたくないとかではなくてですね……」


 違ったのか……だけど困った様子なのが電話からでも分かる。


 「え~とですね…自分、記憶喪失でして……住所がちょっと分からなくてですね……あっ!?し、しまった!?あ、あの!!俺、記憶喪失なんですけどそもそも受験資格とか大丈夫ですかね?」


 「市原様、落ち着いて下さい。まず市原様のご自宅の住所ですが、どなたか分かる方に聞いてみるのは如何でしょうか?あと、受験資格の方ですがこちらは私の一存で今この場でお答えする事は出来ません。ですので、確認させて頂きたいと思います。少々お時間を頂戴する事は出来ますでしょうか?」


 「ふぅ~そうですね……でしたら、私も母に確認したいと思います。改めてご連絡させて頂きたいと思います。ご都合の良い時間帯は何時頃でしょうか?」


 春人君が記憶喪失だという事にまず驚いたし、春人君でも取り乱すのね~と思ったし、普段は俺って言う貴重な情報も得たわ。だけど、流石に記憶喪失の受験希望者と言うのは対応した事が無い。事務長にまず確認ね。


 「ご提案ありがとうございます。私も市原様の事情の確認をしなければなりませんので…本日の午後15時にこちらから市原様にお電話させて頂きたいと思います。つきましてはお電話番号を頂戴しても宜しいでしょうか?」


 「いえ、そんな……こちらから15時にまたお電話させて頂きたいと思います」


 あ~ん……折角春人君の電話番号をゲットできると思ってたのに~


 「畏まりました。では、お手数をお掛けしますが本日の15時にお電話お待ちしております」


 「長々とお時間を頂戴してしまい申し訳ありませんでした。15時にまた宜しくお願い致します。失礼致します」


 「こちらこそ失礼致します」


 はぁ~15時まで長いわ……


 だけど、嘆く前に記憶喪失の場合、男子であっても入学出来るのか確認をしないとね!!

最後まで読んでいただきありがとうございました。お手数をお掛けしますが、宜しければ拙作への評価やブックマークよろしくお願い致します。

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