101話
「ありがとうございます。その割には随分と時間が……おっと失礼。今のは只の独り言です」
俺が噓を吐いてんじゃねぇぞ!母さんから乗り気じゃなかったと聞いてるんだぞと言う意味の言葉で牽制する。
「……確かにその通りだ。君の言う事は間違いではない――が、その物言いは感心しないな」
朝山は一瞬ムッとした表情をしたが、その表情を隠して立て直した。
「何故でしょうか?私は母から聞いていますよ?朝山さんは乗り気ではなかったのでしょう?それなのに、あのような噓を言われれば追求したくなるのは当然ではありませんか?」
これは嘘だ。俺だって社交辞令くらい理解している。ましてや社交辞令に噓だと言うなんて社会人としては有り得ない。行きたくも無かったし、行っても楽しくなかった飲み会を楽しかったです。是非また誘ってくださいと言う。うっ……頭が――
それはともかく、母さんが結構この人にやられたみたいだからな。社交辞令であっても噓だと分かれば嚙みつく。今日の俺は穏便になれそうにない。
「ハハッ、名の知られた配信者とは言っても君は所詮社会に出た事もない子供だと言う事か……」
まぁ、社交辞令にそれは噓だ!なんて嚙みつけばこう言われるのは当然だ。
「仰る通りです。ですが、中には社会に出ている良い大人の男性がそんな子供に話をするホテルの場所代を払わせるみたいですよ。非常識な方もいたものですね……」
「貴様!!話をしたいと言われたから来てやったと言うのに何なんだその態度は!!」
ついに朝山がキレた。えぇ……この程度の煽りでキレるの?沸点低すぎて引くわ……ってかこの程度のやり取りでキレるとかコイツ本当に社会人か?
それに、俺にダブルバインド仕掛けたよな?あれか?参謀は別にいるのか?
分からんが、相手がキレた事を利用しよう。
「愛莉さん、幸那さん、相手が激昂していますね。身の危険を感じます。戦闘準備を……」
「「はっ!!」」
俺の言葉に二人は俺の前に出てくる。
「なっ!?一体何を考えているんだ!?」
朝山は自身の男性警護者の後ろに慌てて下がる。
「それはこちらの台詞ですよ。話をしたいと言ったのは確かにこちらです。しかし、場所を決めたのはそちらでこちらはまだ子供だと言うのに何故か場所代は折半だと言われるし、来てみればいきなり噓を言われるし、それを指摘すれば逆ギレされるし……そっくりそのまま言葉をお返ししますよ」
ここまで言えばどっちもどっちな気がする。いや、こちらが子供な分向こうが分が悪いだろうな。名付けて――泥沼作戦だ。
「フハハハハハ、合格だよ」
朝山はキレた表情から一転して笑い出す。
「合格?どういう意味ですか?」
「そのままの意味さ。私と話をする資格があると言う事だよ。とぼけなくても良い。私が君を試していた事に気付いていたんだろう?だから、聞いていた話とは違い君は妙に挑発的だった。違うかな?」
何か妙な勘違いをしているが丁度良い。そのまま利用するか。コイツ本当に社会人か?と思ったのは事実だしな。
「違います。買いかぶり過ぎですよ。母が困っていたと聞いたのでつい攻撃的になっていただけです。ただ、私の言葉ですぐに激昂するような人が社会人としてやっていけるのか?と思ったのは事実ですが……」
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