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閑話 謀神 

 私は京條桃香(とうか)と申します。年齢は非公表です。職業は以下略。


 非常に面倒な事になりました。


 と言うのも、千夏を通して市原春人の協力者である月坂凛音に市原春人と話がしたいと伝えて欲しいと言ったのですが、市原春人本人から報復や以前の騙し討ちの行為があるので信用できない。絶対に会わないと返事が来たようなのです。


 これは本気で京條家と決裂と言うか全面戦争覚悟の事なのか何かを譲歩させる為の策なのか判断が付かない。


 それに、市原春人と会って話をすれば何とかなると思っていただけに、これは大きな誤算だ。


 まさか以前の事を上手く利用して会わない理由を作り謝罪すらさせないとは…… 


 本日5月23日火曜日の時刻は15時です。今日は嵯峨根家の前当主である和香さんに話があると言われました。


 正直困っていた所なので和香さんと話が出来るのはありがたい。嵯峨根家の幸那嬢から市原春人に話がしたいと頼むのも手だ。


 それに、恐らくだが和香さんと言うか嵯峨根家も京條家と同じ様に市原春人と確執があるので、明日は我が身と考えて相談か手を組む提案をしたいのではないかと思う。


 事は京條家と嵯峨根家の未来に関わる重大事なので現当主である千春も参加させなければならない。


 なんて考えていた事は間違いだった。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 「和香さん、今、何と……」


 私は和香さんの発言に驚き思わずそんな言葉を漏らしてしまった。


 「桃香さん、嵯峨根家は京條家に抗議を致しますと言いました」


 「嵯峨根家の前当主殿、それはどのような抗議なのでしょう?」


 現当主である千春が毅然とした表情で和香さんに立ち向かう。


 「勿論、京條家が行った市原春人殿に対する学校への働きかけについてです」


 「和香さん、以前嵯峨根家と京條家は協力はせずとも互いの足を引っ張るような事はしないと言う取り決めをした筈ですが?」


 あのホテルで二人で話をしたのにこのような事をするとは……


 「えぇ、そういう話をしたのは事実です。しかし、結局お互いの当主が交わした正式な話ではありません」


 ぐっ!?そうだった……お互いの新当主の初仕事にしようと言う話になったのだった。それに、その後話し合いの調整も出来ずに今日に至ったのだった。


 「ですが、桃香さんは不義理と仰りたいのでしょう?それは間違いではありません。ですので、私がここに来たのです。桃香さん、申し訳ありません」


 和香さんは頭を下げた。と言う事は今回の事は和香さんではなく現嵯峨根家当主である和香さんの娘である和子さんが決断した事だと言う事か。


 「謝罪されたと言う事は今回の件は和香さんが主導しての事ではないと言う事でしょうか?」


 一応和香さんに確認する。


 「その通りです。実は幸那経由で市原春人殿から嵯峨根家に要請があったのです。自分の為に京條家に抗議を行って欲しいと……現当主は市原春人殿との関係を少しでも修復すべく要請を受け入れました」


 「前当主殿、市原春人殿に頼まれたのは抗議だけですか?」


 千春が良い質問をしてくれました。


 「いいえ、実は市原春人殿から京條家に要求があるそうです。その要求を受け入れて貰えなかった時は嵯峨根家と付き合いのある他家にも働きかけを行う事になっています」


 なるほど……市原春人はその要求とやらを飲ませる為に嵯峨根家を動かしたと言う事ね。


 「前当主殿、市原春人殿からの要求とはどのようなものでしょうか?」


 そう、受け入れられるような要求なのかが問題だ。


 「市原春人殿の要求は、彼の――配信者エスの生配信の中で前当主である桃香さんと現当主である千春様が謝罪を行う事だそうです」


 「っっ!?」


 「なっ!?」


 名前も顔も知らない不特定多数の人間に謝罪する姿を見られるなんて上流階級の人間として、そんな事到底受け入れられないし、受け入れる訳にはいかない。


 「ご当主様、如何されますか?」


 そうは思うものの私はどうせ追放される身だ。今更そんな事を気にする事にもはや意味が無い。しかし、千春は違う。最短でも千夏が高校を卒業するまでは当主を務めるのだ。影響が無い筈が無い。


 「要求を受け入れるしかないと思います。市原春人殿は恐らくどちらでも良いと思っているのだと思います。要求を受け入れて謝罪をさせて京條家の威を失墜させるも良し、要求を受け入れず他家に潰されるか毟り取られるも良しと……」


 事ここに至って市原春人と言う存在を読み間違っていたのだと気付いた。


 男にしては優秀だが女にはそれ位いると言うのは間違っていない。読み間違ったのは、市原春人が自分が男である事を最大限に利用する事ができる人間だった事だろう。これに尽きる。


 普通の男は自分が男であると言う事を最大限に利用はしない。目を付けられたり厄介な事になると考えて目立たないようにする。


 しかし、あの男は違った。そうだ――片鱗とでも言うべきものはホテルでのやり取りで見えていた。


 上流階級の当主二人に対して一方的に要求をするなんて事を出来る男――いや、人間だと思うべきだったのだ。敵に回せば厄介な人間だと……


 「ご当主様、和香さん、市原春人はこの展開を読み切っていたと思いますか?」


 もしそうであるなら……


 「いいえ、そうは思えません。もしこの展開を読んでいたと言うのならもっと上手い立ち回り方があったと思います」


 「相談役、私は逆に読んでいないからこそ恐ろしく思います」


 ふむ……和香さんは否定、千春は――


 「それはつまり、敗北や屈辱に塗れようとも立て直し、正確な分析や判断を行い、決断を下す事が出来、自分が思う様な展開や状況を作り出す事が可能だと言う事です」


 「「……」」


 千春の言葉に私も和香さんも言葉が出なかった。


 市原春人はまるで戦国時代の武将毛利元就の様な……


 「謀神(はかりがみ)


 私の言葉に場の雰囲気は凍り付いた。まるで、気付いてはいけない事に気付いてしまった――いや、知ってはいけない秘密を知ってしまったかの様に……

最後まで読んでいただきありがとうございました。お手数をお掛けしますが、宜しければ拙作への評価やブックマークよろしくお願い致します。

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