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閑話 強烈な一手

 私は京條桃香(とうか)と申します。年齢は非公表です。職業は以下略。


 そんな私ですが、娘たちからとんでもない動画を見せられました。


 「あの自主退学はこの為だったのですか……」


 配信者エスを名乗るあの少年――市原春人が自主退学したと千夏に聞いた時は驚きと同時に納得もしました。


 私達に言われて何かしらの罰を受け入れるのは男のプライドから到底我慢ならない。だから、自主退学する事でそもそも罰を受けてはいないと己のプライドを守ったのだと思っていました。


 しかし、それは私たちの思い違いでとんでもない事を言っている。あの抗議が共学校の男子生徒への改革?まさかあれを逆手に取ってこんな誰も思いつかない様な大胆不敵な事をしてくるとは……


 「相談役、やられました」


 現当主で娘でもある千春が悔しそうな表情で言う。無理もない。千春の予想通り――いや、予想を遥かに上回る事態となってしまった。


 「そうね……(まさ)しく予想外の一手よ」


 そう、最初に恐らくなんて言葉を使って言い逃れできる余地をキチンと用意してから――共学校の男子生徒への改革がさも事実であるかのように言う。


 しかも、ノブレスオブリージュなんて言葉を使ってこちらが否定しにくい矜持や面目まで用意している。実に狡猾だ。


 頭が回ると言っても所詮は男と言う侮りが多少あったが、それがこんなとんでもない事態を招く事になるだなんて思いもしなかった。


 私が余計な事を言わなければと千春が思っていないと良いのだけど……


 「相談役、先ずは京條家としてこの配信者エスが言う事は全くの出鱈目だと主張すべきではありませんか?」


 実際、共学校の男子生徒への改革なんて寝耳に水だ。だから、出鱈目だと主張する事は間違いではないが……


 「ご当主様、出鱈目だと主張した場合――では、何故学校を通してあの少年に難癖に近い事を行ったのか?と問われるでしょう。どう返すのですか?」


 この返答が難しい。いや、難しいと言うより……


 「なっ!?お母――相談役の折衷案の所為で起こってしまった事態なのにそのような事を言うのですか!!」


 あぁ…やはり千春はそう思っていたのね。


 「えぇ、確かに私が言い出した折衷案のせいです。しかし、事はもう起こってしまっています。もし、ご当主様が先程言ったように行動したなら私が言った疑問は言われるでしょう。ご当主様、返答は?」


 決して開き直って言っているのではない。私の所為だなんて事は分かっているけど、それを今この場で言って問題が解決するのか?と言う事だ。


 「相談役の言う通りですご当主様、私も今は建設的な話をすべきかと思います」


 千夏が私の援護してくれる。本人にそのつもりはないだろうが……


 「ふぅ~そうね……その通りね。それなら――正直に言うしかないでしょう。前当主である相談役が現当主である私に報復を促したと……」


 「なっ!?」


 私は千春の言った事よりもその諦観を感じさせる目に驚きの声を出してしまった。


 「敢えてお母様と呼びます。お母様、あの折衷案は自分が当主を下ろされた事への意趣返しの気持ちが微塵も無かったと言えますか?」


 「っっ!?」


 千春のその言葉に私は返す言葉がなかった。


 「やはりそうでしたか……おかしいと思っていたんです。常のお母さまであれば静観すると言う私の意見を採用したでしょう。お母様はあの少年に良い様にやられた事がどうしても許せなかったのです」


 「分かっていたなら何故……」


 自分が言ったとは思えない程小さな声だった。


「私だってあの少年に良い気はしていませんもの。要は似た者親子だったというだけの事」


 千春は自嘲しながら言う。


 「私もご当主様と同意見です。この期に及んで噓を吐いて延命を図ろうとすれば京條家の信用は地に落ちて没落と言う事もあり得ます」


 千夏……私が思っていたよりも立派になったわね。


 「千夏の言う通りですわお母様……潔く相談役の地位を――いえ、京條家から追放します」


 「お姉様!?」


 千夏が驚愕の声をあげる。厳しい処分を下すべきだと思ってはいても、まさか追放するとまでは思っていなかったのだろう。


 「千夏、事ここに至ってはお母さまが京條家にいれば市原春人との仲を修復する事は不可能でしょう。勿論、私も当主を引退します」


 「えっ!?お姉様が当主を引退!?では、誰が当主をなさるのですか?」


 「貴女よ千夏……市原春人との仲を修復するには貴女が京條家の当主になるしかないわ」


 なるほど……最早それしか手は無いのかもしれない。


 「ま、待って下さい!?いくら何でも早過ぎます」


 千夏が言う早過ぎるは、千春が当主を引退する事と自分が当主になる事の二つの意味でだろう。


 「えぇ、その意見も当然よ。だから貴女が高校を卒業すれば私と当主を交代するの。貴女が大学に進学するのならそのまま私は当主代行という形にして大学卒業後正式に当主になれば良いのよ」


 「なるほど……市原君には私が高校卒業するまではと条件付きで当主交代を納得して貰うのですね」


 「えぇ、直ぐに当主交代だと醜聞だからと言う事もキチンと説明してお母様の追放とセットでなら納得して貰えると思うわ」


 ふふっ……私がいなくても千春も千夏も京條家も何とかなりそうね。


 どこで何を間違ったのだろうか?それを考える時間は皮肉にも十分にあると言うか出来てしまった。 

最後まで読んでいただきありがとうございました。お手数をお掛けしますが、宜しければ拙作への評価やブックマークよろしくお願い致します。

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