94話
5月15日月曜日、昨日の配信の反響は凄かった様だ。
実際、今朝の時点で配信者エスのチャンネル登録者数は約116万人で、月坂さんの言った通り100万人を越えた。流月だぜ。
朝食の為にリビングに行くと、母さんが誰かと電話をしていた。恐らく今日も体調不良で欠席の連絡を学校にしているのだろうと思ったのだが……
「あっ、春ちゃん……すいません。本人と代わります。春ちゃん、学校の担任の先生から」
母さんはそう言って俺に自身のデヴァイスを手渡した。
「代わりました春人です。真清田先生、どうかしましたか?」
母さんからデヴァイスを受け取った俺は真清田先生に用件を尋ねた。
「あぁ、市原君……その~何と言うか…配信者エスを知っているか?」
真清田先生が困ったような声色でそんな事を言う。
「あ~なるほど……そう言う事ですか。はい。僕が配信者エスです。それが何か?」
言いたい事は分かっているが、気付いてないフリをして先を促す。
「市原君は体調不良で欠席していた筈なのに、配信者エスとして活動をしていた……と言う事に疑問視する声が上がってしまって……」
「疑問視ですか?一応僕は男子生徒の義務である週一の登校はしている筈です。それなのに、何を疑問視する必要があるのでしょうか?」
真清田先生は疑問視と言葉を濁しているが、京條家からクレームが入ったって事だろう。
機を見るに敏と言いたい所だが、個人的にはそれは悪手だと思う。
前世でなら反省文提出とかもう少し重い処分だと停学処分が下りそうだが、この世界は男性優遇の世界だ。
俺が体調不良でも無いのに欠席した事が問題となれば、ほぼ全ての男子生徒も問題となるとなるだろう。
「それはそうなのだけど…でも、体調不良と嘘を吐いて欠席した訳だから……」
真清田先生が悪い訳じゃあないから非常に申し訳ない気持ちになるが、こちらも非を認める訳にはいかないのよな~
「確かに真清田先生の仰る事は御尤もです。では、他の男子生徒も僕の様に欠席の連絡をしているのですね?そして、欠席には正当な理由がある事を学校側は把握しているという事ですね?そうであるならば、こちらが全面的に悪いという事を認めます」
「っっ!?それは……」
真清田先生の息を呑む声がする。そりゃあそうだろう。そもそも、俺を責める事が無理筋なのだからこれを言われると反論しようがないわな。
「違うのならば、なぜ僕だけがそのような理不尽な疑問視をされないといけないのでしょうか?あと、その疑問視した人物は一体誰なんでしょうか?」
「え~とね、市原君――」
「先生、先生が悪い訳じゃないのは分かっています。校長か教頭に僕の担任だからって事で押し付けられたのかもしれません。ですが、先生があくまで仕事として僕を責めると言うのなら抵抗はさせて貰います」
俺は真清田先生の言葉を遮って早口に言う。
「はぁ~市原君が言う事は間違っていないのだけど、それが通用しないのが大人の世界なの」
「先生、僕は先生と大人の世界の話をするつもりはありませんし、先生はわざわざそんな話をしたいのですか?だとしたら、電話は切らせて貰いますが?」
教師の癖になに大人の世界の話とか言って誤魔化してんだ?自分を正当化するような事言ってんじゃねぇよと言う意味を込めて煽る。
「私が悪かったから電話を切るのは待って頂戴。市原君、学校側としては今回の件について話をしたいから学校で話をさせて欲しいの」
「お断りします。僕が言いたい事を分かってますよね?何故僕だけが他の男子生徒と違って理不尽な事を言われないといけないんですか?どう考えたっておかしいですよね?それとも、他の男子生徒も僕と同様に学校に呼ばれて話をするんですか?」
論点のすり替えと言われてしまえばそれまでだが、他の男子生徒は週一所か月一も登校せず半年や年一回だと夏野先生が言っていた。
勿論、噓を吐いた事は良くないが、他の男子生徒もそうなのだから登校をしていなくて文句を言われるのなら納得できるがキチンと登校していたのにそう言う事を言われるのは納得いかないという体で反論する。
「そうは言わないのだけど……お願い分かって頂戴」
「ですから、何故こちらに譲歩を求めるのですか?難癖だって分かってるんですよね?誰がどう考えたっておかしいじゃありませんか?毅然とした態度で反論すべきだったのではありませんか?」
俺も譲るつもりは無いという強固な対応を見せる。
「……」
とうとう先生は反論も出来ず黙ってしまった。
「はぁ~分かりました。では、こちらが譲歩して交換条件と言う事なら学校に行って話をしても構いません」
「っっ!?その交換条件と言うのは!!」
先生が食い気味に言う。
「どこの誰からそんな難癖――失礼、理不尽なクレームを付けられたのか答えて貰う事……これが条件です」
「えっ!?それは……」
先生が電話口から離れて誰かと話している様だ。
「ごめんなさい市原君、名前を明かす事は出来ないそうよ。ただ、ウチの学校の保護者からだと言う事は確かなの。それ以上は言えないみたいなの……」
先生が残念そうに言う。
いやいや、俺が体調不良で欠席してるって事を知ってる人間なんだから、当然学校関係者か学校に通っている生徒の保護者だろ。そんな事は馬鹿でも分かるんだよ。
俺は学校側から京條家からクレームが入ったという一言が欲しいんだよ。
「ふぅ~話になりませんね。先生――いえ、学校側に失望しました。どうせ、俺を学校に呼んでキチンと注意しましたって言う事実が欲しいだけなんでしょ?」
学校側としても、俺に厳しい処分を下すなんて言う事は出来ない。俺が機嫌を損ねて登校拒否や最悪自主退学なんて事態になれば目も当てられないからだ。
とは言っても、厄介な事に京條家のクレームは難癖に近いが間違った事を言っている訳ではないし、京條家と言う上流階級からのクレームなので学校側はスルーする訳にはいかない。
だから、せいぜいが俺を学校に呼んでキチンと注意しました。その事実で勘弁して下さいと京條家に言うのが関の山だろうと言う事は分かる。
「っっ!?市原君、それが分かっているのなら何で――」
「そんな事をしなくても京條家に面目が立つ様にしてさしあげますよ」
先生の声に怒りが混じっていたがそれを気にする事なく遮って言う。
「えっ?どう言う事?」
先生は怒りから一転して困惑した声を出した。
「真清田先生、今までお世話になりました。僕、市原春人は開黎高校を自主退学します」
「ええっ!?ちょ、ちょっと待って――」
「これなら、形としては自主退学ですが実質の退学処分と言う非常に厳しい処分を下しましたと言い張れるでしょ?」
「落ち着いて市原君!!」
「落ち着いてますよ。男性生徒を退学処分にしたとなれば京條家もさぞ驚いて納得して下さる事でしょう。そう言う事なので、担任である真清田先生に退学届けを僕の代わりに書いて貰いたいと思っています。では、その様によろしくお願い申し上げます」
「ちょ、ちょっと市――」
言いたい事を言ってプツンと電話を切った。
「母さん、長々とデヴァイスを借りてゴメン。仕事間に合いそう?」
「それは大丈夫だけど、春ちゃん、自主退学って……」
「これで良いんだよ。今までの京條家との確執に退学処分、それともう一つある事を利用すれば京條家を追い詰める事が出来る」
向こうだって当主交代なんて身を切った事をしたんだから、こっちだって自主退学くらい身を切らないといけないわな。
誠に申し訳ないのですが、ここで数日お休みを頂きます。えっ!?ここで止めるのと言う所ですが、きちんと内容を固めたいなと思っての事(春人を本当に退学させるのか?春人がそう言っただけだから退学にはなっていないとするのかなどなど)なのでご理解の程よろしくお願いします。
次回は4月15日6時更新予定です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。お手数をお掛けしますが、宜しければ拙作への評価やブックマークよろしくお願い致します。




