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90話

 「なるほど……内容は概ね良いと思います。動画を撮られる事に慣れる事と自己紹介の練習を分けるのも理に適っています。後は……2日後に本番で自己紹介の動画を撮る事にしましょう」


 嵯峨根さんに月坂さんの迎えを頼んで家に来て貰って早々に俺の今日行ったことの報告と助言を求めた。


 「ありがとうございます。動画の撮影ですが、何故4日後なのでしょうか?」


 「いつか動画を撮るでは無く2日後と日数を決めた方がモチベーションが上がります。それに、それ以上は時間を掛けても驚異的な技術の向上を見込む事は出来ないと言う判断もあります。勿論、これは私見です。市原君が1週間後が良いと言うならそれでも良いと思います」


 ほぁ~流石は月坂さん、略して流月(さすつき)だな。


 「いえ、2日後に動画を撮影したいと思います」


 「進言を聞き入れてもらいありがとうございます。それで何ですが、動画を撮られる事に慣れる為に日常生活を撮影するとの事でしたが、その映像を私に下さいませんか?」


 「月坂さんが信用に足る人物だと言うのは理解していますが、些かその発言は無視できません。説明を願います」


 愛莉さんが月坂さんに発言の意図の説明を求めた。


 「編集して動画として投稿する為です。所謂メイキング映像と言うやつですね。自己紹介の動画を撮る為に配信者エスはこんな事をしたんですよと言う事を動画にして投稿して好感度アップを狙いたいと思っての事です」


 ふわぁ~流月だわ。メイキング映像とか言葉としては知ってはいてもこんな風に活用するなんて思い付きもしなかったぞ。


 「なるほど……」


 俺は感心したのだが――


 「勿論、いかがわしい事に利用したり流失させたりデータをコピーして転売したりはしません。お約束します」


 月坂さんは迷ってると思ったのかそんな事を言う。


 「いえ、そのような心配はしていないので大丈夫です」


 「ありがとうございます。2日後に動画を撮るとしてその日は金曜日です。金曜日の午前中に動画を撮って貰ってその日の放課後に私が編集をします。そして、土曜の朝に動画を投稿します。ここまでの流れは良いですか?」


 はい。月坂さんが具体的な流れを説明してくれる。


 「問題は動画を投稿した後です。顔を隠していても声などで市原君と特定される可能性は決して低くはありません。なので、自己紹介の動画の最後に日曜日の午後14時から初配信を行う事を発表します。土曜の午後に配信の練習をして、日曜の午後14時に実際に配信を行いましょう」


 月坂さんは衝撃的な発言をする。


 「えっ…ええっ!?日曜に配信ですか!?」


 これは流石に予想外だ。悠長にはしていられないとは言ったが、流石に1か月とは言わないまでも2、3週間後位と思っていたのだ。


 「はい。と言うのも、千夏さんに気取られるかもしれません」


 京條さんに?それは確かに厄介な事だとは思う。


 「配信者エスの自己紹介の動画とそのメイキング動画はレコ確定と言っても良いでしょう。そうなれば千夏さんがその動画を見て急に体調不良で休んだ事や声から配信者エスを市原君だと特定する可能性が高いです。そうなれば市原君の立てた策は失敗と言えるのではありませんか?」


京條さんにバレる=京條家にバレるだからな。京條家から強引な手法で婚姻を迫らないと言う書類を貰ってはいるが、俺が力をつければ厄介だと考え勝てば官軍とばかりに何かを仕掛けてくる可能性は高い。


 あと、レコとは連鎖的に広がる⇒連鎖広がる⇒連広(れんこう)と読み省略する⇒その頭文字を取ってレコと更に省略と言う経緯で生み出されたこの時代の言葉で、前世でのバズるの様なものだ。


 「動画を投稿すれば声などから僕だと特定する事は容易でしょう。配信すれば顔出しする訳ですから猶更です。ですが、逆に言えば動画がレコしなければ京條さんの目に留まる事は無いですし、配信をしなければ顔出ししないのですから配信者エスを市原春人だと特定するまでに時間が掛かるのではないですか?」


 結局の所、動画がレコして京條さんの目に留まるかどうか次第だと思う。そして、動画2本がそこまでレコするのは難しいと思うのだ。


 「昨日は自己紹介の動画の反応次第で動画をもう数本投稿するか配信をするか決めたいと言いました。それなのに何故ですか?」


 「私も市原君に毒されていたという事です。昨日の夜、新人男性配信者の自己紹介の動画や初配信を何本も見ました。正直言って物足りませんでした。先程の配信者エスとして努力している市原君の姿――映像を見れば猶更です。断言します。配信者エスの自己紹介の動画とメイキング動画はセットが前提ですが、レコします」


 月坂さんが自信満々に言い切った。


 「月坂さんが言う事は分かりました。ですが、流石に日曜はいくら何でも早過ぎます。しかも、土曜に配信の練習をするだけでしょう?」


 拙速を尊ぶとは言うが、これはいくら何でも無謀ではなかろうか?


 「市原君、最初から完璧な配信者などいませんよ?それに市原君が――配信者エスが頑張って成長する姿を視聴者みんなで見守ったり応援したりして、配信者エスは私が育てたと言うのが良いんです」


 ドヤ顔で言い切られた。


 「言いたい事は分かりますけど……」


 儂が育てたってやつだろ?確かに皆が知らない無名の頃から応援していて有名になった時の初期勢は気分が良いだろうな。お前ら俄かと一緒にすんな。俺は無名の頃から応援していた本物のファンなんだ的なね……


 「市原君、背水の陣なのでしょう?ご決断を」


 月坂さんに言われてハッとする。また守りの姿勢に入ろうとしていたな。


 「月坂Pには敵いませんね。分かりました。やりましょう」


 学校を休学して上流階級への不満を持たせて味方に出来たら作戦は白紙だな。体調不良で休んだ事になってるのに動画撮ってたり配信してたら問題だもんな。休学どころか停学の可能性がありそうだな。


 だけど、背水の陣、不退転の決意だからな。やるしかない。


 これが、後に男性配信者と言えばエスしか勝たんと言われる――配信者エスの伝説の始まりである。

最後まで読んでいただきありがとうございました。お手数をお掛けしますが、宜しければ拙作への評価やブックマークよろしくお願い致します。

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