新たな命
後にケンタウリ海戦と呼ばれる戦いの後、銀河一美少女ティリスちゃん号は丸一日周辺の探索に時間を費やした。
今回も派手に戦ったので、周辺の星系にセンチネルの艦隊が居た場合察知される危険性が非常に高いのだ。
アリアの計測によって、今回の戦いで発生した爆発その他の閃光は地球単位で十光年以内の場合観測される可能性があるとし、アルファ・ケンタウリ星系から十光年以内にある星系でスキャンを実施。幸いにして周辺の星系にセンチネルは存在しておらず、ティナ達は胸を撫で下ろした。
「これ、どうやって誤魔化そう?」
「宇宙にはセンチネル以外にもたくさんの危険がある。そう言って煙に巻くのが一番だよ☆
下手に推測されるにしても、地球人は真相に辿り着けない。私達が黙っていればね」
「隠し事をするのは気が進まないけど、仕方無いかぁ……」
銀河一美少女ティリスちゃん号はフィーレを中心に応急措置を施しているが、損傷の跡を完全に消すことは出来ず、何より四隻率いていったフリゲート艦が一隻しか遺されていないのは隠し様がない。
「幻影魔法の応用で騙すことは出来るけど、長い時間発動しておくのは艦としても無視できない負担になる。任せといてよ☆」
「うん、ばっちゃんに任せるしかなさそうだね……お願い」
妙案が浮かばなかったティナは、何時ものようにティリスへ丸投げした。政治絡みはティリスの担当。変わることの無い確かな信頼関係がそこにあった。
被害を受ける地球とアードの為政者達の胃については、慎重に無視された。
周辺の安全をある程度確保した銀河一美少女ティリスちゃん号は、フリゲート艦一隻を伴って太陽系へ帰還を果たす。だが、そのまま直ぐに地球へ向かわずに月へ向かった。
行き先は、月面の居留地。ここにはフィーレの提案で建設された簡易ドックがあり、艦艇の整備や修理を行える設備が整えられていた。
まだまだ規模は小さく拡張工事が行われている最中であるが、最終的には艦艇の建造まで行える規模とする予定である。
銀河一美少女ティリスちゃん号はここでドック入りし、傷付いた船体を癒すこととなるが、それは事のついでである。
月へやってきた本当の理由は、居留地に住まうゼバ星系の生き残り達から直ぐに来て欲しいとの急報が届いたためである。
「長!」
セシリアを先頭にティナ達は慌てて下船したが、彼女達を迎えたフレストは優しげな笑みを浮かべており、この表情から用件を察したティリスは警戒を解いた。
困惑する少女達を前に、フレストは好好爺のような笑みを浮かべつつ口を開く。
「セシリア、そして皆さん。遂に生まれましたぞ。新しき命が」
「「「えっっっ!!??」」」
それは、ティナ達がゼバ星系で救った若い夫婦の内一組が無事に出産を終えた知らせであった。
自分達が救った人々が新たな命を紡ぐ。その知らせに少女達が歓喜したのは言うまでもあるまい。
直ぐに案内された一室では、リーフ人の男性とアード人の女性が二人の赤ん坊を抱き抱えて少女達を迎えた。
「わっ!可愛い!」
「双子ですか?」
ティナが歓喜の声を挙げて、フェルが父親へ尋ねる。
「ええ、昨日無事に生まれてくれたんです。これも全て貴女方のお陰です。本当にありがとう」
生まれたのは、アード人の男の子とリーフ人の女の子の双子。種族の異なる両親からそれぞれの子供が生まれるのは珍しくはない。
むしろ双方の特徴を併せ持つセシリアが極めて稀少な存在なのだ。
「セシリア、貴女にお願いがあるの。この子達の名付け親になってくれないかしら?」
「わっ、私がか?」
優しげな母親のお願いに、セシリアは戸惑いを見せた。ゼバ部族にとって、名付けは非常に重要な意味を持つのだ。
「ええ、貴女にお願いしたいの。貴女自身たくさん辛い想いをしただろうに、ずっと私達を守ってくれた。
そんな強くて優しい貴女が名付け親になってくれたら、私達も安心よ」
里がバクの群れに襲われた後、ティナ達が来るまで最後の戦士として皆を守り続けたのがセシリアである。
「だが、私達を助け出してくれたのはティナ達だ。それなのに私が名付け親になって良いのだろうか」
「良いんだよ、セシリア。私達が来るまで皆さんを護ってくれたのはセシリアなんだから」
迷うセシリアの背中を押したのは、我らがティナである。
部族の伝統に部外者である自分が関与するわけにはいかない。そんな考えは残念ながら存在せず、純粋な好意によるものではあるが。
ティナの言葉を聞き、ここで固辞する方が礼に反すると考え直したセシリアは、要望を引き受けることにした。
「まあ名前なんて簡単には思い付かないだろうし、しばらく時間を貰ったら?」
「いや、既に決めてある!」
「はっ!?」
「セシリアさん、急がなくて良いんですよ……?」
自信満々に即答したセシリアにフィオレは驚き、クレアはやんわりと声をかけたのだが。
「ああ、いや。適当に考えたわけではないさ。いつの日か、名付け親を任されるようになったらと思って考えていたんだ。
そして地球に素晴らしい名前があってな、それを拝借しようかと」
「地球の名前?ちょっと教えてよ」
地球の名前に関心を示したティナがこっそり聞いた結果、特に問題はなさそうなのでそのまま名付けの儀式が始まる。
なぜティナが地球の名前に詳しいか、誰もが疑問に思ったがいつもの事なのでスルーされた。
ゼバ星系の生き残り達がホールに集まり、中心に居るセシリアがそっと男の子の赤ん坊を抱き上げる。
「部族の新しい家族よ。お前の名前はソル。目映い光で闇を払い、皆を導く勇者となれ」
宣言してゆっくりと下ろし、続いて女の子を抱き上げる。
「お前の名前はルナ、その月明かりで皆を優しく包み母のような慈愛を持つ女になれ」
「ソルとルナ、聞かない響きだ」
「地球の言葉で、太陽と月を現すそうだ。私達部族の新たな門出に加わる最初の仲間に相応しいと思ってな。どうだろうか?」
「素敵な名前をありがとう、セシリア。この子達を貴女の願いが叶うよう大切に育て上げることを誓うわ」
「ああ、誇れる一員として立派に育てよう!」
両親が意気込むのを見て、セシリアは双子を優しく抱き上げる。
「ソル、ルナ。周りを見よ。たくさんの父が、母が、姉が、兄が居るだろう。もちろん私も姉として、お前達を守り導こう。
だからお前達もよき父となり、母となり、兄となり、姉となるのだ。
何れ産まれる兄弟達を守り、導けるように。我が部族の新しい家族としてな」
「「「ようこそ、我が新しい家族よ!!!」」」
双子の両親が誓いを立て、セシリアが優しい言葉を掛けると同時に皆が歓迎の言葉を唱和する。
質素ではあるが確かな繋がりや絆が垣間見得る儀式を見て、ティナ達もまた新たな命の未来に希望を馳せるのだった。
……余談だが、成長したソルとルナの兄妹はティルと一緒に各方面へ向けて盛大に胃痛をばら撒く事になるが、未来の話なので割愛する。




