ケンタウリ海戦後編
「敵空母、撃沈確認しました!ティナがやってくれました!」
管制席に座るフェルちゃんの声が弾んでいる。流石はティナちゃんだ。
一見無謀な作戦を提案してきた時にはどうしようかと迷ったけど、時間が限られている中で他に選択肢が無かったのも事実。余裕があれば幾らでも方法はあったけど、今回は賭けに出ることにした。
彼女の提案にいくつかの補正を行って作戦として形にした結果、見事に成し遂げてくれた。
ただ、課題も多い。奴等の防護砲火の規模は明らかに三百年前より濃密になっている。
牽制と目標を分散させるためにフィオレちゃんにばら撒かせた大量のミサイル群は、大半が命中するより遥かに手前で迎撃されて破壊された。
ティナちゃん以外で、あの砲火を潜り抜けられるパイロットは存在しないだろう。
……悔やまれるな。スターファイターを用いた奇襲は、私が多用していた戦術だ。
優秀なパイロット達の活躍があって初めて効果を産み出す戦術だが、艦隊戦に特化したセンチネルには有効な手段だった。奴等はそれをしっかりと学習していたのだ。
当然ながらあの頃は奴等の特性など知る由もないし、相手を殲滅するなど不可能だった。
名将等と皆は私を担ぎ上げたが、何のことはない。負け戦で少しでも犠牲を減らすために微力を尽くしただけだ。基本的にあの百年の戦いは劣勢だったからな。
そして奴等は我々との戦いを経て、絶えず学習して進化してきたのだろう。今回得られたデータはそれを裏付けている。
「さあ、ここからが本番だよ。皆、気を抜かないでね☆」
「……っ!?敵護衛艦二隻、こちらへ向かってきます!更にスターファイター多数が接近中!」
「全艦防護陣形!スターファイター部隊は艦隊護衛を最優先に!ティナちゃんの活躍を無駄にしないで!」
やはりか。旗艦を失ったセンチネルの艦艇やスターファイターは、そのままこちらへ突っ込んでくる。奴等には撤退と言う選択肢はない。
奴等の大型艦以外には所謂ワープ機能や通信装備が存在しない。原理は分からないけど、数の多い小型艦は大型艦と一緒にワープしてくる。
大型艦が破壊されたら、隷下の小型艦やスターファイターが全滅するまで攻撃してくる質の悪さも変わらない。
「フリゲート艦!本艦前面に展開します!」
「スターファイターの無人機はフリゲートと一緒に展開させて!フィオレちゃん、セシリアちゃん、クレアちゃんは本艦周辺で待機!絶対に無理をしないで。
君達が死ぬのはこんな辺鄙な場所じゃない。幸せになって、幸福と感謝に包まれながら死ななきゃいけないよ」
あの戦争で、億単位の同胞が命を散らした。私の家族や部下達も、その一部に過ぎない。
センチネルにくれてやるには、彼女達の命は高過ぎる。これ以上血を流す必要はない。
……万が一の時は、フェルちゃんをティナちゃんのスターファイター、フィーレちゃんをフィオレちゃんのスターファイターへ強引に転移させて、子供達だけ離脱させれば良い。
『待機とな?ティナのように突貫しなくて良いのか?』
『あの弾幕見たでしょ?穴だらけになりたくなかったら、大人しく待機していなさいな。私達の相手は、スターファイターよ!』
セシリアちゃんが逸るけど、ちゃんとフィオレちゃんが諫めてくれた。セシリアちゃん、クレアちゃんは初陣だ。無理はして欲しくない。
そう考えた場合、この状況は好ましくないな。出来るだけ近付く必要があったから、最初から両艦隊は至近距離だ。本艦の超射程の艦砲もアドバンテージを活かせない。
戦況図を眺めながら、次の手を考える。いや、既に戦闘はアリアの管制に委ねるしかないんだけどね。
「フェルちゃん、シールド減衰率が七十を超えたら教えて」
「はいっ!
……ああっ!!」
叫びに反応してモニターを見れば、目映い閃光が走るのを見ることが出来た。
「フリゲート三番に敵艦が体当たりをしました!それと、フリゲート二番にスターファイターが群がって……反応途絶!!!」
やっぱり空母型は厄介だ。ティナちゃんに撃破されるまでの僅かな時間で、数十機のスターファイターを吐き出した。艦艇の数ではまだ優位だけど、スターファイターの数で圧倒されている。奴等は厄介だ。
「フリゲート一番と四番を下げて、弾幕射撃を展開!無人スターファイターは敵艦を攻撃せよ!」
「はい!」
こうなったら弾幕射撃でスターファイターを迎え撃つしかない。文字通り弾幕を形成するから味方撃ちの危険がある。
「フェルちゃん達は防空圏外のスターファイターをお願い。絶対に防空圏に入らないように」
『分かりました!里長!』
まあ、センチネルの大半は防空圏へ突っ込んでくるだろうけど。何せこの艦は目立つからね。
それから数分間、三隻で形成した弾幕射撃は効果的だった。こっちだってセンチネルのスターファイターに悩まされたんだ。対空兵器の充実は怠っていない。
青いビームの弾幕に捕まって、センチネルのスターファイターが閃光と共に宇宙へ消えていく。
でも、全てじゃない。弾幕を潜り抜けた奴等は、まさかの体当たりを敢行してきた。
スターファイターに搭載されている火力程度ならば本艦のシールドがあれば容易く耐えられるけど、光速で体当たりしてくる物質となればダメージも桁外れだ。
「そんなっ!フリゲート一番が轟沈しました!」
直ぐ傍で大きな閃光と共に体当たり攻撃に耐えきれなかったフリゲートが轟沈する。これで三隻目。地球側へ誤魔化すのが難しくなったな。
度重なる体当たりで船体のシールドも減衰し続けていて、船体にダメージも出ている。
「シールド減衰率が六十を超えました!それに、船体各部にダメージが蓄積中です!」
ふとメインモニターを見ると、重武装のスターファイターが一直線に突っ込んでくるのが見えた。
対艦攻撃タイプだな。周りのスターファイターが盾になって進路を抉じ開けている。回避も間に合わない。
「フェルちゃん!直ぐに格納庫へ転移して!フィーレちゃんを連れてティナちゃんのスターファイターへ!早く!」
「ティリスさんは!?」
「私も直ぐにいくから!」
嘘じゃない。でも、あの子達が逃げる時間を稼ぐためにもまだ船を降りることは出来ない。
躊躇するフェルちゃんを強制的に転移させようとした瞬間、大きな閃光が瞬いて。
「ティナ!」
「殿下!?」
私達は、向かってきていたスターファイターをティナちゃんのギャラクシー号が見事に撃墜した瞬間を目撃した。
味方撃ちの危険があるから弾幕の中には入らないようにって教本に書いてあるのに……。
はぁ……。間違いなく陛下や王妹殿下の血筋だな。無鉄砲な行いはほどほどにしていただきたいものだ。
感謝を捧げて、お説教をせねば。気が重い……。




