ケンタウリ海戦前編
アルファ・ケンタウリ星系。前世で何度も耳にして、情報が更新される度に飛び付いた、地球から最も近い恒星系の一つ。
aとb、二つの恒星が周回していることで有名で、何より直ぐ近くにプロキシマ・ケンタウリと呼ばれる赤色矮星が存在する。
プロキシマ・ケンタウリの方は、地球に類似した惑星が存在して地球外生命が存在する可能性があると有名な星系だ。
実際にはどうなのかって?それは地球人が自分達の手で解明するのが一番だよ。それがロマンだし。
まあ、それは良い。私はギャラクシー号のコクピットに座って、モニターに表示されたアルファ・ケンタウリの二つの恒星を眺めながらその時を待った。
こちらの戦力は、重巡洋艦の銀河一美少女ティリスちゃん号と、無人フリゲート艦四隻。スターファイターは十機。センチネルの偵察艦隊は空母型一隻と護衛艦三隻だ。
船の数はこちらが優勢だけど、問題はスターファイターの数だ。空母型は下手をすれば数百機の艦載機を搭載してる。
どんなに少なく見積もっても、百機を超える筈。真正面から戦っても勝ち目はないし、そんなことをすれば信号を発信されて増援が呼ばれる。
そうなったら、地球が見付かって破滅する運命を迎えてしまう。そんなことは、絶対にさせない!
だから今回は、かなり無茶な作戦を取る。出来るだけ艦隊へ近付いて、スターファイターを出撃させる。
そして私と、万が一に備えてフィオレの二機だけでギリギリまで近付いて、空母型を奇襲して沈める。
……我ながらかなり無茶な作戦だとは思うけど、他に方法は存在しない。艦砲射撃を加えるにしても、空母型には強力なシールドがある。これを突破できるのは、小型で足の速いスターファイターしかない。
もちろん猛烈な対空砲火を潜り抜ける必要があるけど、撃ち合うより確実に相手の急所へ飛び込める。
『全力でサポートしますので、ご安心を』
「頼りにしてるよ、アリア」
アリアのサポートもあるから大丈夫。そして、暫く待っていると。
『ティナちゃん、ラーナ星系でのデータを見る限りこれ以上の接近は出来ない。この先は、ティナちゃん達に委ねるしかない』
「ありがとう、ばっちゃん。手筈通りにお願いね」
『りょーかい。でもティナちゃん、危なくなったら直ぐに引き返してね。万が一の時は、地球よりも君の命を優先するからそのつもりで。フェルちゃんを一人にさせたくないよね?』
「分かってる……ありがとう、ばっちゃん」
本当は反対したいだろうに、皆私の我が儘に付き合ってくれている。絶対に失敗したくないし、皆を悲しませたくない。
『カタパルト接続完了、射出します』
「了解。行ってきます、フェル」
『行ってらっしゃい、ティナ』
フェルの言葉に送り出されて、ギャラクシー号は普段使わないカタパルトで敵艦隊へ向けて射出された。
一気に加速された機体はとんでもないGを私に叩き付けてきたけど、歯を食い縛って耐えた。
カタパルトを使った理由は、スラスターの噴射光を見られないためだ。
隠蔽魔法のステルスがあるけど、今回は失敗できないから万全を期したわけだ。
直ぐ近くにフィオレのスターファイターが飛んでいる。今回は直前まで一緒に付いてきてくれる。
私達は射出された速度のままじわじわと敵艦隊へ近付く。
中心にタコみたいな形の大きな船が居た。あれが空母型。たくさんの足は、それぞれスターファイターの射出口になってる。そして鮫みたいな形をした護衛艦三隻が周りを固めている。
『ティナ、間も無くラーナ星系での戦いで感知された距離です』
ラーナ星系では、信号を出された。クレアの言葉通りなら、センチネルにはアードが隠蔽魔法を利用していることを知られている筈。つまり、私達の隠蔽魔法が解析されるのも時間の問題。
地球のこともあるけど、これ以上マザーに情報を渡すわけにはいかない!
『っ!センサーに反応!発見されました!』
「フィオレ!」
『いっけーーーッッッ!!!』
アリアの警報を聞いた瞬間、反射的に親友の名前を叫べば彼女も手筈通りに動いてくれる。
フィオレのスターファイターに装備されていた大型ミサイルポッドから、無数のミサイルが撃ち出された。直後にフィオレはミサイルポッドをパージして、全速力で反転する。
「フルスロットル!!!」
それに合わせて、私も追加装備したブースターを全部一気に点火した。とんでもない加速で背中が座席に押し付けられる。
尋常じゃないくらい翼が痛いけど、必死に堪えて空母型だけを見て、たくさんのミサイルと一緒に全速力で突っ込む。
「シールドを前方に集中!突っ込むよーーーッッッ!!!」
私を感知したセンチネル艦隊は、とんでもない密度の弾幕を展開してきた。
でも、不思議と恐怖は感じない。むしろ赤、青、黄色、緑、紫の様々なビームと無限に広がる星々の輝きに感動さえ覚えた。
「さん」
ミサイルが破壊されてあちこちで大爆発を起こす。
「にー」
私の邪魔をするために進路上へ割り込んだ護衛艦に、ピンクのビームが突き刺さる。母艦からの掩護射撃だ。
「いち」
緊急発進したセンチネルのスターファイターが、フィオレのばら撒いたミサイルの弾幕に捕まって爆発する。
視界を覆い尽くす弾幕射撃。教本では無傷の敵艦隊へスターファイターだけで突入するのは、遠回しの自殺と同じだと書かれていたし、それは事実だと思う。だからフィオレを逃がしたわけだし。
でも、私には当たらない。
以前はぼんやりとそう思っていたけど、今は確信をもって言える。何処に攻撃が来て、どう動けば避けられるか。それがハッキリと分かる。
……私ってニュータ◯プ!?人の革新だった!?あっ、私地球人じゃなかった、アード人だった。
そんなことを考えるくらい余裕がある。
『ティナ!ターゲットロックしました!』
「発射ーーーッッッ!!!」
弾幕を潜り抜けてタコみたいな形の空母に迫り、頭の付け根目掛けてビームを最大出力で叩き込んだ。
限界まで接近したから狙った場所に当てることが出来た。これで通信機能は奪えた!
でも、まだまだ!
「逆噴射!!!」
四つの可変式メインスラスターが正面を向いて、前進から後進へ無理矢理切り替える。
「うっ!……きっつぅっ!」
当然とんでもないGが掛かるわけだけど、それを必死に耐えてバックしたまま進路を修正。空母の下部へ回り込んで、口に当たる部分を正面に見据える。大きなビーム砲が見えた。あれが空母型の主砲!
「これでーーーッッッ!!!」
発射したビームは相手の主砲を貫いて、エネルギーの逆流を誘発。
「フルスロットル!!!」
急いで全速力に切り替えて離れた瞬間、空母は派手な閃光と共に大爆発した。
……これ、数年以内に地球から観測される奴じゃん!やり過ぎた!




