秘密道具とノームコーヒー
「地球人って意外と科学技術が進んでるんだね。だって簡単な転移装置があるみたいだし」
「いや、これは実在する訳じゃなくて創作物なんだよ。つまり、地球人の想像の産物ってことになるかな」
フィーレがまさかの国民的マンガ・アニメの秘密道具を再現しちゃったよ!いやまあ、アードの技術があれば再現するのは簡単なんだろうけどさ。
でも、どこで◯ドアは色んな意味で危ない産物だ。少なくとも今の地球人に渡すのは不安しかない。絶対に悪用されるだろうし。
「つまり、これも地球人の発想力?へー」
「フィーレ、色々インスピレーションを受けるのは悪くないしもう止めないけど、地球人に提供したり教えたりする時は相談してね。ちなみにそれは絶対にダメな奴だから」
「えー?なんで?」
「なんでって、それは……」
幼いフィーレにはあんまり地球人の事を悪く言いたくないんだよなぁ。それで変に苦手意識や偏見を持っちゃったら大変だし、幼いフィーレだからこそ純粋に接してほしい。うーん、言葉が難しいなぁ。
「フィーレちゃん、ティナを困らせちゃダメですよ?フィオレちゃんに怒られちゃいますからね?」
どう伝えようか考えていると、隣に座っていたフェルが間に入ってくれた。
「うぇ、おねーちゃんに怒られるのはイヤだ。フェル姉ぇも怒る?」
「はい、フィーレちゃんがティナを困らせるなら怒っちゃうかもしれません」
「ぅ……フェル姉ぇに怒られるのはもっとイヤだ」
フェル、怒ると怖いからなぁ。
別に怒鳴ったりはしないし笑顔なんだけど、その圧が凄いんだ。
ちょっと前に私が持ち帰った地球のロボット人形……まあプラモデルなんだけど、これをフィーレが勝手に改造して自律起動させちゃったことがあったんだ。
私個人としてはちょっとテンションが上がったんだけど、私の私物を勝手に弄ったことにフェルが怒ったんだよね。
もうね、凄かった。ずっと笑顔でじーっとフィーレを見つめてるんだよ。無言なのも合わさって、圧が半端じゃなかった。
フィーレも涙目になるし、慌てて私とフィオレが仲裁したんだ。私個人は別に困ってないって説明したら許してくれたけど、正直見ていて生きた心地がしなかった。
フェルからの感情は色々な意味で重い。別に良いけどさ。
「作るなとは言わないよ。色々参考にする必要があるのは分かるからさ。でも、地球人にはまだ早いものばかりだから気を付けてね」
「分かった~。取り敢えずこの通り抜けフー◯くらいにしとく」
「不法侵入が大量発生しちゃうからやめなさい!」
まあ、転移魔法がある私達にとって地球のセキュリティは全く意味がないんだけどね。ハリソンさん達はそれを理解してるけど、クサーイモン=ニフーターさんみたいに悪い意味で受け取る人も少なくない。
でも、これは仕方無い。私達は大半の地球人にとって未知の存在だ。もっと交流を深めないと。
取り敢えずフィーレが暴走しないように後をフェルに任せて、クレアの様子を見に行く。色々と衝撃的な事実が語られたけど、だからこそクレアのメンタルケアは最優先だ。バタバタしていてあんまり時間を割けなかったけど、出来るだけ傍に居てあげないと。
そう考えて談話室へやって来たんだけど。
「~!」
「なにしてんの?ばっちゃん」
部屋に入ったら、ばっちゃんが床を転がりながら手足と翼をバタバタさせてた。テーブル席にはクレアが居て、ばっちゃんは席から転げ落ちたみたいだね。いや、なにしてんの?
「うーん、ティリス様のお口には合わなかったみたいですね、残念です」
ん、テーブルの上にはコップがある。
「ヤッホー、クレア」
「ごきげんよう、ティナさん」
高貴な生まれがなせる技なのか、優雅な笑顔だ。これだけでも絵になるなぁ。フェルもそうだけどさ。
「ばっちゃんの事は置いとくとして、なにしてるの?何か飲んでる?」
「ええ、実はアードに保管されていたノームコーヒーの材料を頂いたんです。
折角だからティリス様に御馳走したんですが、お口に合わなかった様子で」
クレアは残念そうにしてるけど、コップに注がれてる液体は……タール?
少なくとも私の知ってるコーヒーじゃない。粘度が滅茶苦茶高そうな液体にどう見てもヤバそうな黒さをしてるし、炭酸じゃない筈なのに泡立ってるし。
「ごふっ……」
「あっ、死んだ」
ばっちゃんが泡吹いて気絶しちゃったよ。然り気無くアリアが回収していくのが何かシュールだよね。
「ティナさんも一杯如何ですか?わたしにとって地球のコーヒーは甘くて甘くて、美味しく思えませんでした。本場のノームコーヒーは美味しいですよ」
地球滞在中にクレアの強い要望で地球のコーヒーをいくつか持ち帰ったんだけど、アード人やリーフ人にはあんまり合わなかったなぁ。
私は前世でそれなりに飲んでいたから美味しく感じたけど、これは飲んじゃいけない奴だ。能天気な私だってそう思うくらいヤバイ見た目をしてるんだから。
「うーん、気持ちは嬉しいけどゼバ星系の皆さんと会わなきゃいけないし、またの機会に頂こうかなぁ」
「そう……ですか」
「頂きます!」
もうね、とっても悲しそうに目を伏せるんだもん。そんなの見せられたら、断ることなんて出来ないしするつもりもない。
テーブルに残されていた、多分ばっちゃんが一口飲んだコップを掴んで一気に飲み干した!
「……~!」
なんだこれ!?予想通り喉に絡まるネバネバした感触と、想像を絶する苦さ!
それなのにすんなり飲み込める矛盾した感覚を自覚した瞬間目の前が真っ暗になりかけたけど、足に力を入れて踏ん張る!
「うっ、うん……ノームコーヒーは独特な味だよね。好きな人には刺さると思うよ。ただ、アードやリーフには無い感覚だから、ばっちゃんもビックリしたんじゃないかな?」
顔がひきつるのを必死に我慢して、なんとか笑顔を浮かべた。
「そうなのですか?それじゃあ……うん、皆さんも楽しめるようなコーヒーを作りますね。ティナさん、ありがとうございます!また味見に付き合ってくださいね!」
笑顔を浮かべて嬉しそうに談話室を出ていくクレアを見送った瞬間足から力が抜けて。
「兵器認定をしても構いませんか?」
「それはダメ」
受け止めてくれたアリアに突っ込んで意識を手離した。まあ、クレアが楽しいならそれで良いか。味見役は……うん、フェルを巻き込もう。回復要員として。




