乙女の花園にて
新年明けましておめでとうございます。御愛読下さる皆様の一年が素晴らしいものになることを祈りつつ、本年も拙作を宜しくお願い申し上げます。
ただ、仕事の関係で今月は極めて不定期となる可能性が高いのです。どうか気長にお待ちくだされ!
皆と別れてアードを離れた私達は、そのままゲートへ突入してハイパーレーンへ入った。いつもは極彩色の空間に一隻だけなのに、今回は合計十二隻の艦隊だ。ハイパーレーンを進む姿にもロマンを感じるよ。まあ、目に悪いから長く眺めるつもりはないけどね。
個人的に気になったのは、見送りにお母さんが居なかった事だ。
大事な用事があるってお父さんに言われたけど、お母さんは愛が深い人だ。余程の事が無い限りは見送りを優先しそうなんだけど。
「ティアンナちゃんにも色々あるんだよ☆危ないことじゃないから安心してね☆」
どうやら事情を知っているらしいばっちゃんからこう言われたら、信じるしかない。まあ、危ないことならお父さんが見送りに来るわけ無いか。あんまり気にしすぎてもアレだし、信じることにしよう。
さて、これから一週間の長旅だ。妊婦さん達にはゆっくりして欲しかったんだけど、何かをすることも大事だってことで地球の資料やこれから行く月の情報、住んでいるラーナ星系の皆さんについて調べていた。
夫婦仲良く勉強されている姿は、見ていて和む。そしてなにより。
「良かった……本当に」
「はい、ティナ」
危険を犯して、命を懸けて助け出してよかったと心から思える。私はアード人らしく随分とお人好しになったみたいだ。いや、これは前世から変わらないかな。
さて、片道七日の長旅だ。折角だから皆と交流を深める時間にしたい。
ゼバ星系の人達や新しく仲間に加わってくれたセシリア、不安定になってるクレアにも寄り添ってあげないといけない。
もちろんフェルやフィオレ、フィーレ姉妹も放置するわけにはいかない。ばっちゃんに政治や外交を丸投げしてるんだから、皆のメンタルケアは私の大切な仕事だ。
「気負いすぎて、ティナが倒れないように気を付けてください。マスターフェルも悲しみますから」
「分かってるよ、アリア」
アリアは艦内じゃアンドロイドボディを使わないかと思っていたら、普通に使ってる。それでいて船の管理や皆のサポートをしてるんだから相変わらず別格だ。
取り敢えず皆が集まってる専用の憩いの場、ばっちゃん曰く乙女の花園へやって来た。アード由来の家具はもちろん、地球から持ち込んだ家具や小物がたくさん置いてある。
特にたくさんのぬいぐるみ達は、それなりに広い室内をまさにファンシーに彩った。まあ、ストレートに言えば女の子っぽい部屋だね。
「あ~……あぁ~……」
「ティナ姉ぇ、セシリア姉ぇが溶けてる」
「溶けてるねぇ。流石人をダメにするクッションだ」
いつもはキリッとしてるセシリアを駄目にしてるのは、地球から持ち帰った人をダメにするクッションだ。前世でも似たようなものは聞いたことがあったけど、あれから数十年で更に進化したみたいだ。
これに抱き付いて寝ると、もう駄目だ。動きたく無くなる。ずっと埋もれていたくなる。そしてこの効果は種族を問わない。
「あ~……ふぁ~……」
「クレア姉ぇも溶けてるよ」
「色々あったからね、存分に癒してくれたら良いよ」
シリアスモードだったクレアも、ダメにするタイプのぬいぐるみを抱きしめてご満悦だ。色んな種類があってビックリしたよ。
「ティナ」
「ん」
部屋には大きなベッドが幾つか用意されていて、その一つに座っていたフェルが手招きしたからそのまま隣に座った。あ~……私にクッションは必要ないかな。フェルが傍に居るだけで心が安らぐし。
ちなみに、瑠美さんもたまに部屋を利用してる。女将さんとして気苦労が絶えないだろうし、少しでも精神的な疲れを癒せれば良いんだけど。これからもお世話になるからね。
「フィオレは?」
「フィオレちゃんは研究室に居ますよ。地球の植物とアード、リーフ由来の植物を掛け合わせる実験をするって聞きました」
「それ危なくないよね?」
「フィオレちゃんだから大丈夫だと思いますよ?植物関係ならフィーレちゃんも関わりませんから」
困ったように笑うフェルを見て、私も苦笑いを浮かべた。フェルも良く分かってるよ。フィーレが絡まなきゃフィオレは常識人枠だ。まあ、リーフ人としてはだけど。
尚、自覚はしていないが地球の常識を一番理解しているのに一番非常識な振る舞いが多いのはティナである。為政者の皆さんに幸あれ。閑話休題。
「少しは落ち着きましたか?ティナ」
「フェルにはお見通しみたいだね。まあちょっと緊張してるよ」
任命式でまさか女王陛下から直接名指しでお声かけを頂くなんて。そりゃ緊張もするよ。
ただ、私には前世の記憶があるからか一般的なアードの皆みたいな狂信?は無い。感覚としては皇室と同じくらいかなぁ。敬意を払って敬うのは当たり前だけど、それ以上でもそれ以下でもない。
それに……あの声は、ドルワの里で私を助けてくれた人の声と一緒だ。つまり私達を助けてくれたのは……いや、気にしないようにしよう。知らぬが仏って言葉もある。
前世じゃ色んなものから目を逸らすために使っていたけど、今は違う。ちょっと地球と交流して実感したけど、世の中には知らない方が良いこともたくさんある。これは今世で学んだ大切な教訓だ。
知らなきゃいけないこともたくさんあるけど、その逆もたくさんある。その辺りはばっちゃんに丸投げしてる。
「護られてばっかりだなぁ……」
「ティナ?」
「ううん……なんでもないよ、フェル。大丈夫だから」
つい言葉が漏れちゃった。いつも心配かけてばっかりなんだ。フェルを困らせちゃいけない。
「フェルはどうかな?ゼバ星系の皆さんのために頑張ってくれてるよね?疲れてない?」
フェルはチート級のマナを活かして皆さんの健康管理やケアに余念がない。アリアからはちゃんと休んでるって聞いてるけど、フェルも無茶するからなぁ。
「私は大丈夫ですよ。むしろ私を異端として扱わない皆さんにビックリしました」
「まあ、そうだよねぇ」
助けた人達の半分はリーフ人だけど、アードに居るリーフ人と違ってフェルを異端扱いはしていない。普通の女の子として歓迎してるんだよね。
ばっちゃんやフレストさんの反応を見るに、これが普通なんだ。やっぱりアードに居る人達は異常だ。具体的には、ばっちゃんがミドリムシって蔑んでる人達。私も大嫌いだ。妹まで狙った。許せない!
……っと、いけない。折角休みに来たんだから嫌なことは思い出さずにフェルと一緒にのんびり過ごそう。
「はい出来た、どこで◯ドア」
「ちょっと待って!?」
フィーレがまたヤバイもの作っちゃった!?




