説明会
今年も終わりますな。この一年拙作を御愛読くださった皆様に最大限の感謝を表明すると共に、皆様の新たなる一年な幸福があらんことを切に願います。良いお年を!
地球北米大陸、エリー湖周辺に存在する異星人対策室本部。広大な敷地は高い塀と堀、有刺鉄線によって厳重に護られていた。
それだけではなく、直ぐ近くにはいつでも駆け付けられるように小規模な米軍基地が存在し、敷地内には連邦警察の専用駐屯地が設営されている。
更に言えば、敷地内及び外周をフィーレが持ち込んだアードの警備ドローン数機が警戒している。サッカーボール程度の大きさを持つこの黒い球体は、ふわふわと周辺を漂っている。ただその機体に装備されているセンサーの性能は脅威的である。
ネットワークセキュリティ面ではアリアが統制しており、地球に存在するあらゆる電子技術を遥かに上回る鉄壁の防御を誇る。
ここまで厳重に護られている理由は、言うまでもなくティナがこれまで地球へ持ち込んだアードやリーフ由来の産物の大半が保管されているためだ。
これらの物品は、下手をしなくても地球のパワーバランスを崩壊させてしまうような代物も含まれているのは言うまでもなく、外部への流出を避けるためにここまで厳重な警備体制が敷かれているのである。
当初アード側は、これほどの警備が必要なのか疑問視していた。
しかし、親善大使であるティナ本人が強く主張し、更にジョン=ケラーも強く推薦したのでアードの技術を使った経緯がある。
ティナは地球の事を他のアード人より良く理解している。それはもちろん良い面でもあり、そして悪い面も理解しているのだ。
悪意と言うものを正しく理解できないアード人にとって、悪意をそれなりに理解できているティナの存在は交流にとって重要な存在であることは言うまでもない。
さて、その異星人対策室本部敷地内には、新たに建設されたドームがある。内部には真っ白なタイル張りの空間が広がっており、そこへ二人の男性が足を踏み入れた。初老の白衣を纏った男性は、異星人対策室の研究主任であるエドワード博士。
もう一人は補佐役として正装した我等がジャッキー=ニシムラ(バニーボーイ)である。
二人は部屋の中央で立ち止まると、ジャッキーが持っていた端末を起動する。
すると室内が暗転して代わりに二人を囲むように無数の仮想モニターが出現した。映し出されているのは人種も様々な老若男女、共通点は全員が参加者の証である白衣を身に纏っている点である。
彼等彼女等は、今回の会議に参加することが認められた各国の様々な分野の有識者達である。
「お歴々、先ずは今回の会議へ参加して頂いたことに感謝を捧げたい。一応会議と名乗っているが、此度は情報共有の面が強い。
ご質問には可能な限り答えさせていただくが、ご覧のように参加者も多い。全ての質問に答えることは物理的に不可能であることはご理解頂きたい。
また、質問時間が足りなかった場合文書による質問を受け付けている。より確実な回答を得られたい場合は、そちらによる質問を推奨したい。さて、前置きは此処までにして早速始めよう」
今回の国際会議は、これまでティナ達が持ち込んで異星人対策室に保管されているアード、リーフ由来の品についての情報共有が目的である。
これらの品は基本的に合衆国の異星人対策室か日本の地球外技術研究センターにしか存在しない。
その情報を各国と共有して解析や開発に役立てたいと考える科学者達と、政治的な意味合いを重視する政治家達の思惑が一致した結果実現したのである。
エドワード博士は助手係であるジャッキー=ニシムラ(薔薇)が“トランク”から取り出したアードやリーフ由来の品々を一つ一つ説明し、今現在判明している点も注意深く詳細に説明していく。
その最中、周囲を埋め尽くす仮想モニターの幾つかが唐突に消えていく。だが、この事態に気付いているのはエドワード博士とジャッキーだけである。
他の参加者の画面にはエドワードとジャッキーしか映らず、他の参加者を確認できないようにしているためだ。
今回の会議、或いは説明会を開催するに辺り合衆国政府より参加者に制限を課さないことが通達されているのだ。参加するには何らかの博士号を提示するだけで良い。セキュリティに関しても極めて緩いと言える。
この方針を聞いたジャッキー=ニシムラ(廻し装備)は、「ネズミ取り」と称した。合衆国政府は不穏分子を片付けるための罠を仕掛けたのだ。
現にこの期に悪さをしようと身分を偽った者達が紛れ込み、不正アクセスを試みた。
結果は全てアリアによって察知され、背後関係を含めて全ての情報を引き抜かれた挙げ句に偽装されたデータで埋め尽くされたエリアへ誘導されるのだ。これらの情報はそのまま合衆国政府へ共有されることになる。
もちろんこれを罠であると察知する勢力も存在し、それらは参加を見送ったがそれは同時に最新の情報を得られないことを意味していた。
この説明会の記録は全てアリアが監視しており、拡散しようとした瞬間に察知されるようになっている。
「幾つ消えたかね?」
説明会を終えて、真っ白な室内に二人だけとなったのを確認したエドワード博士の問い掛けに、ジャッキー=ニシムラ(常識的なスク水)は端末を取り出す。
「……少なくとも三十件以上はありそうですな」
「嘆かわしいものだ。アードの技術について見識を得るための場であるのに、政や謀を優先するとは」
「残念ながら、これが地球の現実です。そして今回警戒して参加を見送った不穏分子も少なくはありますまい」
「地球存亡の危機が迫っていると言うのに、それでも我々は内輪揉めを止められぬか。アード人達に呆れられぬ事を願うばかりだ」
「そのために私達が居るのです、ドクター。ティナ嬢とケラー室長が諦めない限り、橋渡しとして諸問題へ対処していくだけです」
「……そうだな」
二人が静かに溜め息を漏らした直後、合衆国では珍しい地鳴りと揺れを感じた。二人は直ぐに異変を確認するために屋外へ向けて駆け出した。
大勢の職員達が異変を感じて屋外へ飛び出していた。警備員達も慌ただしく行き交う中、人混みを掻き分けて異変の発生源へ向かうとそこには我等がジョン=ケラーが居た。
「室長!ご無事でしたか!」
「ジャッキー、それにドクター。いや、申し訳ない。騒がせてしまったね」
なぜか困ったような表情を浮かべたジョンと。
「ほらほら!野郎共はあっち向いて下がりなさい!見たらぶっ叩くわよ!?」
メリル=ケラーと女性職員達が壁を作って、男性を遠ざけていく様子が見えた。何事かとジャッキーが視線を向けるとそこには。
「ほどけないよ~!助けてー!」
巨大化したカレンがあられもない姿を晒していた。いつものように拡張工事を手伝っていたのだが、張り巡らされた無数のケーブルに絡まってしまったのだ。
両足を大きく広げ、締め上げられてスタイルが強調される姿は年頃の女の子がするものではない。
今すぐ巨大化を解除すれば容易く解放されるのではないか。そんな常識的な疑問が生じたが、ジャッキーは紳士としてあるべき姿勢を示すことを優先した。
背筋を伸ばし、笑顔を浮かべて右手を突きだし、親指を立てた。
「ナイス☆亀甲縛……!」
「見るなって言ってるでしょうが!」
「ヴォ!?」
メリルのボディーブローによって沈められたのである。




