マコくん……頑張れ(白目)
時系列は少しだけ遡る。ティナ達がゼバ星系へ向けて旅立った頃、地球からやって来た勇気ある少年朝霧 誠は自分が今まさに遭遇している事態に幼い胃を痛めながらも懸命に笑顔を浮かべていた。
朝霧 誠です。早朝にティルちゃんから起こされて、それからティルちゃんとティナさんのお母さんのティアンナさんに呼び出されて、何度か経験した転位魔法で移動した先には、アードのセレスティナ女王様が居た。
……しかもティルちゃんは嬉しそうに女王様に抱きついているし、女王様も優しい笑顔を浮かべて抱きしめてる。
……アードへ到着する前に、父さんから強く生きろって言われたんだよね。
その時は意味が分からなかったけど、今なら良く分かる。
つまり、ティアンナさんは女王様の妹さんで、ティナさんやティルちゃんは姪っ子になるんだろうなぁ。
……あっ、考えたら頭が痛くなってきた。でも、失礼なことはしないように気を付けないと。
「朝霧 誠です!ティルちゃ……お姫様とは仲良く……」
「おひめさまじゃない!ティルだよ、マコー!」
「ちょっとティルちゃん……」
流石にそのまま呼ぶのは失礼だろうから、取り敢えずお姫様って呼んだらティルちゃんが怒って慌てちゃったけど、女王様やティアンナさんは優しげに笑ってる。
「これまでのように接してあげてください、マコくん。ティルは怒ると大変なのですよ?」
「あっ、はい……それは良く分かります」
ティルちゃんは……何だろう、活発なんだけど我が儘じゃない。地球の子供……少なくとも僕が通ってる学校の下級生達より落ち着いているし、素直で良い子なんだよね。ちゃんと大人の言うことを聞くし、騒いだりもしない。
なのに、僕が絡むと我が儘になるんだよなぁ。僕の都合は二の次で散々振り回されてるし。
それは地球でもそうだったし、再会してたった一日でいやと言うほど実感できた。しかも怒ると器用に翼を使って擽ってくるんだから堪らない。
「ふふっ、仲が良さそうで何よりですよ。さあ、こちらへ。
報告は受けていますし、ティアンナやティルからある程度は聞いていますが、マコくんの口から聞いてみたいのです。貴方の英雄譚を」
「そんな、英雄だなんて……わかりました。僕が体験したそのままをお話しますね」
女王様が持っている天秤みたいな形をした杖で優しく地面を叩くと、突然椅子と丸テーブルが地面から出てきた。ちょっとビックリしたけど、魔法なんだろうなぁ。
女王様とティアンナさんが座ったのを確認して、僕も向かい側に……って。
「ティルちゃん、何してるの?椅子はあっちだよ」
「ここ!」
当たり前のように、僕の膝の上に座ったよ。あまりにも自然体だからビックリしちゃった。
……まあ、何を言っても聞かないだろうなぁ。ご機嫌に翼と足をパタパタさせてるし、女王様やティアンナさんの微笑ましそうな笑顔が恥ずかしい。
仕方無く、僕はそのまま地球で体験したあの日の出来事を出来るだけ分かりやすく説明できるように頑張った。
プレゼンのやり方は父さんから聞いたことはあるけど、子供の僕が上手く説明できるわけ無いし、解り難いと思う。
なのに女王様は優しい笑顔を浮かべて相槌を打ってくれるし、ティアンナさんが補足してくれた。
だから、不思議とあんまり緊張せずにお話しできたかな。初対面だけど、女王様には相手を安心させる不思議な雰囲気があると感じた。
「その様なことが……怖かったでしょう?」
「……はい、とても怖かったです。でも、僕以上にティルちゃんは怖かっただろうし寂しかったはずですから」
これは本心だ。鉄砲を向けられて、しかも撃たれたんだ。正直泣きそうになったけど、一緒に居たティルちゃんのことを考えたら勇気が湧いた。この娘を絶対に護るんだって。
上機嫌にニコニコしてるティルちゃんを見ながら思い出していると、女王様がとても優しい声を掛けてくれた。
「マコくんの様な方こそ、勇者と呼ぶのでしょう」
「そんな、勇者だなんて」
僕はヒーローなんかじゃない。本当のヒーローは、父さんから紹介して貰った異星人対策室のジョン=ケラーさんみたいな人だ。
「ふふっ……いいえ、貴方こそが勇者です。何故ならば、勇者とは勇気ある方に贈られる称号なのですから」
「そうね、姉様の言う通りよ。マコくん、貴方は間違いなく勇者だわ」
「ゆうしゃー?あっ!マコ、顔真っ赤ー!」
「あっ、ありがとうございます」
何だか恥ずかしいな……。
「お礼として贈り物を用意しないといけませんね」
「お礼なんて頂けません!アードへ連れてきて頂いただけでも充分ですから!」
ずっと夢見ていた宇宙の旅をさせてくれたんだ。それだけでも充分すぎる。
「姉様、マコくんは無欲だから物的なものは喜ばないかもしれないわよ」
「では、マコくんに勇者の称号を授けましょう。アード限定ではありますが……そうですね、地球で言えば爵位のような権限が付与されますよ」
「しゃ、爵位……?」
え?それってあれだよね。貴族の階級みたいなものだよね……?前に本で呼んだことがあるぞ。
「ふむ、そうなるとマコくんだけでは不公平になりますね。勇敢なご子息を立派に育てられたご家族にも何か報奨を考えないといけません」
「じゃあ姉様、明日の謁見で朝霧さんを大使として任命したら?姉様が認めた大使になるんだし、充分な報酬になるはずだわ」
「流石はティアンナ、実に良い提案です。早速手配しましょう。パトラウス政務局長にお伝えすれば、万事取り計らってくれるはずです」
えっ?ちょっと待って。それって大事だよね!?だって父さんがアードの、それも女王様が認めた外交官になっちゃうわけで。
……あっ、なんだろう。胃がキリキリしてきたぞ。
「となると、瑠美にも何か欲しいわね」
「あの美味しい料理を作ってくれたマコくんのお母様ですね。彼女は宿泊施設を経営されていると耳にしました。ならばそこをアード公認の施設としましょうか」
「良い案ね。素敵な場所だし、姉様もきっと気に入るわよ。何時か一緒に行きましょうね」
「その日が楽しみです」
「たのしみー!」
「えっ?えっ!?」
旅館がアード女王公認の宿になっちゃった!?なんだかとんでもないことになっちゃったぞ!胃がキリキリする……。




