楔の綻び
ちょっと休憩(  ̄- ̄)
センチネルウォーカー、それも通常ならば三十メートルほどの歩く要塞が規格外の百メートルを超える巨体。巨大な四つの足が地面を抉る度に局所的な地震を発生させる。
その圧倒的な存在感に皆が唖然と見つめる最中、センチネルウォーカーはまるで雄叫びのような機械音を轟かせる。
その轟音に呼応するように、森から無数の様々な巨虫の群れが姿を現し、更に怪鳥ガルーダも群れで現れた。
「ガルーダと虫の群れ!?まさか、奴が操っているとでも言うのか!?」
セシリアの驚愕も無理はない。本来捕食者と被捕食者の関係であるガルーダと巨虫達が、互いに争うことなく一直線に向かってくる光景。
まさに最近の異常が、この規格外のセンチネルウォーカーによって引き起こされたと言う事実を雄弁に語っている。
誰もが絶望したその時、ガルーダの群れで立て続けに爆発が発生。同時に四機のスターファイターが夜空を舞う。そして、希望の船が姿を現した。直接降下してきた銀河一美少女ティリスちゃん号である。
「ティナ!母艦とのデータリンク完了、状況の共有に成功しました!」
「ばっちゃんが来てくれた!アリア、ギャラクシー号とフィオレの機体も操作して迎撃!皆!あの船へ乗り込むよ!急いで!」
大気圏内へ突入した銀河一美少女ティリスちゃん号は、アリアを通じて速やかに情報が共有された。
「あんなセンチネルウォーカーは見たことがないっ!とにかく着陸してティナちゃん達を回収!速やかに星系を離脱する!」
「主砲は撃たないの?」
「敵とティナちゃん達が近すぎる!戦闘機部隊で迎撃して、足止めをする!本艦を出来る限り近い場所へ降ろす!」
『畏まりました。自立媒体(アンドロイド体のこと)とリンク完了、これより総合的な支援と迎撃を開始します』
「船の武装が使えないなら、試作品を使っちゃおう。アリア、八番ハッチ開けて~」
『畏まりました、マスターフィーレ』
ティナ達の直ぐ近くに着陸した銀河一美少女ティリスちゃん号を目指して、彼女達も急いで移動を再開。着陸と同時にハッチの一つが開いて、そこからなにかが一斉に吐き出された。
二つの車輪を持つその姿を遠目に見たティナは目を見開き。
「パンジャンドラム!?」
ブリテンが誇る迷兵器、パンジャンドラムである。
『試作品パンジャンドラムMARK Ⅱ改二セカンド、れっつご~』
「二が一杯ですね」
気の抜けたフィーレの通信にフェルが困ったような笑みを浮かべ、号令に合わせて吐き出された百台の試作品パンジャンドラムがブースターを点火させて急加速しつつ巨虫の群れへ突っ込む。
幾つかの試作品は脱輪したり、或いは明後日の方向へ迷走したり勝手に自爆したりと愉快な光景を見せたが、大半が加速したまま群れへ突入。虫達をなぎ倒し、大爆発を引き起こした。
その威力は絶大で、迫り来る巨虫の群れを一時的に消滅させてしまう程である。
空を舞うガルーダもスターファイターならオーバーキルも良いところであるが、センチネルウォーカーはその堅牢な装甲とシールドによって攻撃をものともせずにゆっくりと近寄ってくる。
「急いで!急いで!この際荷物は捨てなさい!ほら早く!」
「慌てないでください!妊婦さんには手を貸してあげてください!」
着陸した銀河一美少女ティリスちゃん号へ、次々とゼバ5の生存者達が荷車ごと乗り込んでいく。
ティナ達は生存者達に手を貸しながら収容作業を行っていたが、ふと一台だけ他から遅れてしまった荷車があることに気付いた。
「まだ残りが!」
「ティナ!?」
力強く翼を羽ばたかせて最後の一台へ向かうべくティナが飛び出したが、全く同じタイミングでセンチネルウォーカーが搭載している武器をチャージしているのが見えた。
目標は銀河一美少女ティリスちゃん号だと思ったが、明らかに違う。取り残された荷車を狙っていることに気付いたティナは。
「止めてーーーっっっ!!!」
悲痛な叫びを口にするしか出来なかった。無慈悲に発射されたビームは、ティナの目の前で荷車に直撃。乗っていた数人の妊婦と守っていた青年達を纏めて吹き飛ばしてしまう。
業火に包まれながらも互いに庇うように抱き合いながら消えていく影を見せつけられて、ティナの中の何かが千切れた。
「あっ……ひとつ、外れた……」
クレアの呟きと同時に、今まで感じたことがないマナを受けて手当てをしていたフェルが慌てて振り向いた。
その視線の先には、信じられない程濃密なマナを纏い、普段と違い二対の翼を大きく広げたティナがセンチネルウォーカーを鋭く睨み付けていた。
「よくもっ!やったなーーーっっっ!!!」
激昂と共にマナが吹き荒れながら集束し、凝縮されたマナは槍へと精製される。
その槍を手に持ったティナは、まるで古代の戦士のように大きく振りかぶり。
「くっ!たっ!ばっ!れぇーーーーーーっっっ!!!!!!」
この時、フェルは一瞬だけティナと重なるように背広を着たサラリーマンを幻視した。ティナの中に感じていた地球との魂の繋がりの意味が、何となく理解できた瞬間である。
怒号と共に投擲されたマナの槍は大地を抉りながら凄まじい速度で突き進み、センチネルウォーカーのシールドと装甲を容易く貫いてマナによる大爆発を誘発する。
それはまるで核爆発のように全てを薙ぎ払い、爆心地には巨大なクレーターが残された。幸いにして、銀河一美少女ティリスちゃん号周辺はシールドによって爆風から守られたが。
あまりの光景に皆が言葉を失うが、ティナが力尽きたようによろめく姿にフェルが反応。
「ティナ!!!」
倒れようとしていたティナを抱き抱える。翼はいつもの一対に戻っていたが、意識がない様子に焦りを覚える。
『マナ欠乏症を確認、医療カプセルによる静養を推奨します』
「わかりました!」
アリアの簡単な診断を聞いて安堵し、二対の羽を広げてそのまま艦内へ飛び込んだ。
新たな群れの接近を察知したティリスは長居は無用と決断を下し、生存者達を収容して直ぐ様ゼバ5を脱出。そのままゲートへ飛び込んで星系を後にした。
短くも濃密なゼバ星系での出来事は、ティナ達に様々なものと経験をもたらすこととなる。




