ゼバ5脱出戦
ティナ達がゼバ5の生存者達と共に隠れ家を出立して二時間が経過していた。幸いにしてゼバ5の民が利用している荷車は相応の速度が出せるため、フェルが作り出している魔法の道を先導する彼女達に遅れることなくついていけている。
また、方角を正しく把握できるアリアは目的地までの最短ルートを選択しているため、降下してから隠れ家へ辿り着くまでに要した時間に比べて遥かに短い時間で目的地へ辿り着ける事が可能となった。
だが、問題が無いわけでは無かった。
「フェル、大丈夫?」
「まだまだ大丈夫ですよ、ティナ。でも、他の魔法を使う余裕は無いかもしれません」
並んで飛ぶティナが心配するのも無理はない。フェルは二時間もの間魔法の道を作り出し続けながら飛んでいるのだ。如何に桁外れのマナを持つフェルであっても、疲労を感じないわけではない。
「アリア、目的地まであとどれくらい掛かる?」
「障害物等で多少の迂回があったとしても、一時間も掛かりません。間も無くです」
アリアの言葉を聞いて、後ろに続くフィオレが溜め息を漏らす。
「嫌な時間ね、益々薄暗くなってきたし」
「無理もない、間も無く夕暮れの時間だ。陽が完全に沈めば、ガルーダの大半は眠りにつく。その代わり、虫達が活発化する時間帯だ。出来ればそれまでに森を抜けてしまいたいが」
隣を飛ぶセシリアの言葉を聞き、フィオレは純粋な好奇心を口にした。
「聞けば聞くだけ嫌な星ね、良く生き残れたわね」
「普段は虫達とも上手く共生できているんだ。だが、ここ数日の虫達の様子は明らかに異常だ」
「だそうよ、ティナ。トラブルに事欠かないわね」
「お蔭様で愉しい毎日だよ、本当に」
ちょっとしたフィオレの軽口にティナが飛びながら肩を竦めた時、荷車の一つに便乗していたクレアが急に立ち上がった。
「クレア嬢……?」
隣に座っていたフレストが心配そうに声をかけるが、クレアはそれに応えず虚空を見つめる。
「精霊達が……怒ってる……!?警戒してください!何か来ます!」
クレアが叫ぶのと同時に、先頭を飛ぶアリアのセンサーもまた嫌なモノを探知してしまう。
「センサーに熱源多数を確認!申し訳ありません、ティナ。樹木と大気中のマナによって探知が遅れてしまいました」
「奇襲されるより良いよ!セシリア!」
「虫達が来たぞ!戦えるものは構えよ!」
セシリアの号令で荷車を囲むアード、リーフの男性達が魔法の準備を始め、ティナがシールドとビームランスを取り出す。
「クレア!魔法は!?」
「精霊達が呼掛けに応えてくれません!こんなのは初めて……余り期待しないでください!」
「じゃあこれを使いなさい!」
フィオレはビームガンをクレアへ投げ渡し、代わりにビームソード二振りを取り出して二刀流とする。
「アリアはこのまま先導して!フェルもそのまま道を!私達で防ぐから!」
「畏まりました、ティナ」
「分かりました!気を付けてください!」
アリアが荷車の限界速度ギリギリまで加速し、その後ろを追従するフェル達も同時に速度を上げた。
「来たぞーーーっっっ!!!」
それと同時にアード青年の一人が叫んで方角を指差した。この先には、木々を巧みに避けながら高速で接近してくる巨大なカマキリのような虫の群れが見えた。その異様さに誰もが圧倒される中。
「やぁあああっっ!!!」
翼を力一杯羽ばたかせたティナが真っ先に突っ込み、手にしたビームランスで先頭を突き進む虫の胸を貫いて焼き斬り。
「やぁっ!!!」
素早く引き抜いて、ビームランスを薙ぎ払うように振るい後続の一体を一文字に焼き斬って見せた。
「はぁあああっ!!!!」
遅れじとフィオレも飛び出して、両手に持ったビームソードで群れの中をまるで舞うように飛び回り、二刀のビームソードが煌めく度に虫が焼き斬られていく。
「ティナ!フィオレ!その意気は称賛するが、余り前に出るな!援護が間に合わぬ!」
二人を援護すべく愛用の弓を持ったセシリアが、魔法の矢を生成しながら次々と二人を狙う虫を射抜いていく。
「やっ!やっ!」
荷車の一つに便乗するクレアもフィオレから借りたビームガンで近付く虫を次々と打ち倒していき。
「子供だけに戦わせるな!」
「我々も負けてはいられない!」
妻子を護るためにアード、リーフの青年達もそれぞれ魔法を撃ち、虫を寄せ付けない。
「まだまだ来るよ!」
「ええいっ!鬱陶しいわね!纏めてやるわ!」
絶え間ない群れの襲撃に苛立ったフィオレが詠唱を始めた。
「待てフィオレ!」
「なによセシリア!この期に及んで森の心配とかじゃないわよね!?」
「いや、違う!合わせてくれ!」
アードとリーフの魔法は共通点もあるが根本的には異なる。だが、二つの種族の特徴を併せ持つセシリアは、究極的には双方の魔法を行使できるのである。
自分のマナにセシリアのマナがまるで織物のように重なり合うのを感じて、どんどん増加していく魔法を遠慮なく編み上げていき。
「「フレアーーーっっっ!!!」」
二人が同時に叫び、産み出された巨大な火球が放たれて、虫達や木々を巻き込みながら大爆発を引き起こした。
その爆発は凄まじく、軌道上の銀河一美少女ティリスちゃん号からも観測された程である。
「派手な花火だなぁ」
ティナは苦笑いを浮かべつつ、飛び掛かってきたカブトムシのような虫を薙ぎ払って焼き尽くした。
皆の奮戦もあり、全員が無事に目的地の開けた場所までたどり着けた。空は夕陽に照らされ、心配していた怪鳥ガルーダも見当たらずアリアは速やかに回復した回線を用いて軌道上の母艦へ連絡する。
「船が降りてくるよ!虫達に警戒して!」
「妊婦が先だぞ!」
方陣を敷いてその時を待つ一同であったが、そこにティナ達が着陸時に遠目に見た百メートル以上の巨大な象のような生物がゆっくりと近寄るのが見えた。
「セシリア!あれは危険な生き物!?それとも無視して良いタイプ!?」
周囲を警戒しながらティナが問い掛けたが、何故か返答が来ず不思議に思って振り返ると、困惑した表情を浮かべたセシリアが目に留まった。
「セシリア……?」
「いや……知らない!あんな生き物は見たこともない!」
「えっ?」
「あれは!?」
セシリアの叫びと同時に、その生物の巨体に大きな亀裂が走り、外皮が剥がれ落ちていく。
「センチネル反応探知!」
「嘘……でしょ!?」
アリアの叫びにフィオレが言葉を失い、巨大な生物だったものは、無機質な本体を見せる。
「センチネル……ウォーカー……!」
「まさか……まさか!奴は我々を探し続けていたと言うのか!?三百年もの間、ずっと諦めずに……!?」
長であるフレストが崩れ落ちながら叫び。
『知的生命体を発見、駆除する』
執念深い絶望が、その牙を剥く。




