脱出への道
救助活動に取り掛かろうとしたティナ達であったが、思わぬ足止めを受けることとなった。
「軌道上の母艦と交信することが出来ません」
「交信できない!?なんで!?」
アリアの報告に驚愕するティナであったが、答えはゼバ5の長であるリーフ人の老人フレストが教えてくれた。
「この森は、あらゆる通信や探知手段を阻害する効果があるのじゃ。無論完璧ではないが、センチネルから姿を隠すことは出来る。故に三百年前我が一族の故郷を巡る戦いの後、我らは宇宙ステーションを放棄してここへ移り住んだのじゃ」
「センチネルから身を隠すために……」
「うむ。無論森から出れば受ける妨害も最小限となるが」
「森の上を飛ぶことはお勧めしないぞ、ティナよ。何せ、空には奴が居るんだからな」
セシリアが指差した先、僅かに木々の切れ目から見える空には。
「嘘でしょ!?」
「鳥!?」
体長百メートルはありそうな、巨大な怪鳥が空を飛んでいる姿が見えた。
「怪鳥ガルーダ、ゼバ5の空の王者。この星は無数の昆虫類と、それを餌にするガルーダによって生態系が構成されているのだ。
ガルーダの死骸はその巨体故に膨大なエネルギーを大地へ還元し、森を育み虫達を繁栄させる。そしてその虫をガルーダが喰らう。それがこの星の生命の循環なのだよ」
「あんなに大きな鳥、さっきは見かけなかったのに!」
「ガルーダは警戒心が強いんだ、フィオレ。君達が乗っていたと言う乗り物に警戒していたのだろうさ」
「なら、仕方無いか。フェル、負担を掛けてしまうけどお願いできるかな?」
「ティナのお願いなら喜んで」
見渡す限り、生存者の数はそこまで多くない。そこでティナはフェルの転移魔法で直接銀河一美少女ティリスちゃん号へ送る案を考えたが。
「ティナ、マスターフェル。お二人が考えている案の実行は推奨しません」
待ったを掛けたのはアリアである。
「アリア?」
「端的に申し上げれば、リスクが高すぎます。生存者には多数の妊婦が含まれているのです」
「あっ」
妊婦は転移魔法を使用してはならない。これはアード、リーフ双方の教訓である。
これまでの歴史で妊婦を転移魔法で転移させた場合、高確率で地球人で言うところの子宮に該当する器官内の胎児が喪失することが判明している。つまり、極めて高いリスクが付き纏うのだ。
もちろん今は緊急時であるので、非情な決断をするべきという考えもあるだろう。
だが、アード人がその様な決断が出来るような種族ならばリーフ会戦は起きていない。当然のように、ティナの思考にも妊婦に子供を諦めさせると言う選択肢は存在しない。
「長さん、森の外なら交信は出来ますよね?」
「それは可能じゃが……」
「あの場所ならば交信は可能と判断します。ついでに、あの広さならば母艦を直接着陸させられます」
「じゃあ、整理するわよ。今のままじゃ軌道上の母艦と連絡が取れない。妊婦さんがたくさん居るから、フェル頼りの転移も無理。
だから私達が降り立ったあの開けた場所に移動して母艦と連絡、母艦を着陸させて生存者達を収容してさっさと逃げる」
「お前達がどこに降りたのかは分からないが、開けた場所へ行けばガルーダの注意を引くことになる。下手をすれば群れを相手にすることになるかもしれない」
「分かってるよ、セシリア。それでも皆を助けるためだから」
「この辺りの木を纏めて薙ぎ払えば話が早いんだけど」
「フィオレさん、それは止めてください。精霊達を刺激したら、どんな災いが起きるか分かりません。少なくともここの精霊たちは友好的じゃありませんから」
「私達が降りた場所も問題ですね。結構距離があったような気がします」
「つまり、移動するだけでも大変って事ね」
うんざりしたように肩を落とすフィオレ。
「道があれば、使える道具はある。馬車のようなものだと思ってくれ」
「道が無い森の中を突っ切れるようなものじゃないのは理解したわよ」
「道に関しては、私がどうにか出来るかもしれません」
「フェルに考えがあるみたいだよ」
「じゃあフェルに任せましょ。纏めるわよ、転移はダメ、飛ぶのもダメ。というか妊婦さんたちは飛べない。
だから私達は虫みたいに森の中を進んで着陸地点へ移動、邪魔してくる存在を片っ端からなぎ倒しながら母艦へ乗り込んで脱出。最高ね」
「縛りプレイも良いところだよね……」
「しばりぷれい?」
「あっ、いや。地球の言葉だよフェル」
慌てて弁明するティナを尻目に、セシリアが口を開く。
「脱出……故郷を捨てよと言うのか!?それは……」
「セシリア、最早これまでじゃ。数多の同胞が命を落としたが、それはこれから生まれてくる次の世代を護るため。そなたも戦士ならば、何を護るべきか。決して間違ってはならぬ。
天外の同胞よ、どうかお頼み申す」
激昂しかけたセシリアをフレストが諭し、改めてティナ達へ頭を下げた。
「任せてください!」
話は纏まり、直ぐ様移動の準備が行われた。用意されたのは牛ほどの大きさのカブトムシのような生き物が牽く荷車である。
荷台に妊娠している妊婦達が乗り、それを護るようにアード人やリーフ人の夫達が周囲を固める。生存者の総数は三十名弱。その半数が妊婦であり、長であるフレスト以外は若い世代だけだ。
またここでティナ達が気付いたのは、アードの進んだ科学の産物がまるで存在しないことである。
これはつまり、ゼバ5の生存者達はリーフ会戦以後、この星で原始的な暮らしをしながら隠れていたことを物語っている。
「では、先導します。こちらへ」
「頼りにしてるよ、アリア。フェル、お願い」
「分かりました。道標となり、迷える人々と共に!ウイングロード!」
アリアを先頭にティナ、フェル、フィオレ、セシリアがた翼や羽を羽ばたかせて飛翔。
それと同時にフェルの後ろに若草色に輝く光の道が出現し、彼女が通った場所に沿って延びていく。
「ウイングロード……古代の魔法……まさか今一度お目にかかれるとは……ご立派になられて。さぞや陛下や殿下もお慶びでございましょうな……」
妊婦達と共に荷車に乗ったフレストの呟きを、同じく単独では飛べないため同乗しているクレアが聞いて首を傾げた。
一方軌道上の銀河一美少女ティリスちゃん号では。
「フィーレちゃん、降下の準備だけしておいて。もう少し待って連絡がない場合は降下してティナちゃん達を探す!」
「あーい」
連絡が途絶えたティナ達を探すためにティリスも準備を開始していた。
ゼバ星系の救出劇は山場を迎えつつあった。




