緊急事態
唐突に始まる急展開
誠少年が幼いながらも自身が開いてしまった運命に直面して胃の痛みに襲われている頃、惑星アードでは夜明けの時を迎えていた。
夜空を照らしていた星空と二つの月が姿を消し、代わりに地平線から地球よりも大きな恒星が姿を現して陽光で惑星を照らしていく。そんな最中、自宅にて穏やかな眠りを満喫していたティナの端末が鳴り始めた。
決して大きな音ではないが、持ち主の素早い覚醒を促すそれは宇宙開発局からの呼び出しを意味しており。
「緊急アラート!?」
その意味を正しく理解しているティナは文字通り飛び起きて身なりを整え、一緒に眠っているフェルを起こさないように細心の注意を払いつつ、自宅を後にして転送ポートと軌道エレベーターを経由して軌道上の宇宙ステーションにある局長室へ飛び込んだ。
そこには既にザッカル局長が待機しており、部屋から一望できる広い管制室では数人の職員達が慌ただしく行き交っていた。
「朝早くに済まない、ティナ。手短に説明する。つい先ほど救難信号をキャッチした。場所はゲートを介して凡そ五時間の位置にあるゼバ星系だ。彼処は既に壊滅したとの記録があるのだが……」
「直ぐに行きます!アリア、準備をお願い!」
ティナはザッカル局長の言葉を聞いて即答し、直ぐ様端末を起動して相棒を呼ぶ。
『畏まりました、ティナ。皆さんへの連絡もお任せください』
「重要な任務の最中に済まない。こちらも宇宙艦隊の再稼働を進めているが、残念ながら即応できる戦力が無い。救援を送り込むにしても、どんなに急いでも半日は掛かる」
「私達が先行して調査します。もしかしたら、センチネルが罠を仕掛けているかもしれないから」
「うむ、その恐れは充分にある。故にこの信号を無視することも考えたが」
「私達だけなら、罠でも直ぐに逃げられますから!出発準備を始めます!」
「済まない。お客人達はどうする?」
ザッカルの言葉にティナは一瞬だけ考えを巡らせて。
「大事なお客様の朝霧さん達を危険なことに巻き込みたくはありません。ザッカル局長、お願いして良いですか?」
「承ろう。後顧之憂無くいきなさい」
「はい!」
そこからの準備は早かった。三十分以内にフェル、フィオレ、フィーレ、ティリス、クレアが銀河一美少女ティリスちゃん号へ乗り込み、ティナは朝霧達のことを両親に任せる旨を伝える。
「このボディの初陣に相応しいイベントです。あらゆる面で皆様をサポートさせていただきます」
「頼りにしているよ、アリア。センチネルの罠かもしれないけど、生存者が居るかもしれない!私達はそれを確かめに行く!
危険は承知の上で、行かないって選択肢は無い!いくよ、皆!」
「「「おーっ!!!」」」
斯くしてゲストである朝霧達を任せて、ティナ達は通報から一時間後にゲートへ飛び込んだ。行き先は数千光年離れたゼバ星系。
リーフ会戦直後に壊滅したとの記録がある星系である。
到着までの五時間、ハイパーレーンを突き進む銀河一美少女ティリスちゃん号の艦内ではティナ達が慌ただしく準備を進めていた。
すべての医療ポットを起動し、空いている部屋を準備して受け入れ態勢を整えるのと平行して、搭載されている十機のスターファイターの出撃準備も進めていた。
「ティナ姉ぇとおねーちゃんが乗るとして、残り八機はどーするの?」
「一緒に発進させて、警戒と母艦の護衛をさせて欲しい。その辺りはばっちゃんに任せるよ」
「任された☆」
行動方針として先ずティナとフィオレが発信源を特定、現地へ降り立つ。それと同時にフェルがクレア、アリアを伴って現地へ直接転移する。
母艦や他の指揮はティリスが行い、フィーレは全般のサポートをすることが手早く決められた。
生存者が居る場合は速やかに救助、人数が多い場合は増援を要請して現地の確保。センチネルの罠であった場合は速やかに離脱。
また罠でなくてもセンチネルと遭遇した場合は、救助活動の最中であろうと切り上げて星系から離脱する。
ティリスが提示したこの方針をティナが了承し、準備が為された。
そして、五時間後。ゲートを抜けて星海へと飛び出した銀河一美少女ティリスちゃん号は、素早く星系内の広域探知を行う。
ゼバ星系は巨大な恒星に従う七つの惑星から構成された短命の星系であり、宇宙規模で言えば近い将来超新星爆発で吹き飛んでしまう星々でもある。
『星系内にセンチネル反応はありません。ですが、活動を休止している場合は反応しませんのでご注意を』
「ありがとう、アリア」
愛機ギャラクシー号のコクピットでアリアからの報告を聞いたティナは、計器類をチェックしつつその時を待つ。
『ただ、疑問点もあります。ゼバ星系は前回のマルス星系と同じくハブ星系であり、中継地点として宇宙ステーションが設置されていました。しかし、星系内に宇宙ステーションは存在していません』
「救難信号の発信源は?」
『ゼバ5、星系内最大の惑星です』
アリアの言葉と共に、目の前に現れた非実体ディスプレイに緑の大きな惑星が映し出される。
『生命反応を多数確認。記録によれば、昆虫に分類される原生生物による巨大な生態系が形成されており、居住には適していないとされています』
『つまり、虫だらけって事ね』
『はい、マスターフィオレ』
「そんな場所から……」
『どうしますか?ティナ。私はティナの決断を尊重しますよ?私だけじゃなくて皆です』
フェルの言葉を受けて、ティナは静かに口を開いた。
「色々不安要素はあるけど、確認だけはしておきたい。いつでも逃げられるようにしつつ、ゼバ5へ行こう」
『はい、ティナが好きなように』
『任せて☆』
『りょ』
『さっさと行って帰るわよ。マコ達が心配だし』
『初めてですが、微力を尽くします』
『ティナの意思のままに』
「ありがとう!ティナ、行きます!」
『フィオレ、出るわよ!』
皆の言葉を背に、慌ただしくティナとフィオレのスターファイターが宇宙へ飛び出し、同時に残る八機も宇宙へ打ち出された。
「第一小隊は本艦の護衛、第二小隊は星系外縁部に展開してセンチネルを警戒せよ!我が艦はゼバ5の軌道上で待機する!戦闘用意!」
銀河一美少女ティリスちゃん号のブリッジではティリスが次々と指示を飛ばして、有事に備える。
そしてティナ達はゼバ5へと突入し。
「凄い……これがゼバ5!」
『探すのに苦労するわよ、これは』
眼下に広がる巨大な大陸と大地を覆い尽くす熱帯雨林。生命力に溢れたこの星で、ティナは新たな出会いを得ることになる。




