ジャッキー=ニシムラ(エロス大帝)と極秘会議
合衆国首都ワシントン某所、異星人対策室が管理しているビルの一角に複数の国家の大使館職員達が集まっていた。
彼らは各国駐米大使より任命された調査員であり、次回行われるアードへ向けた外交団派遣に伴う情報収集を行うためにこの場へやって来たのだ。
外交団派遣に先立ち、異星人対策室が中心となって今現在判明しているアードの情報や注意事項を共有しておくために開かれた連絡会のようなものであり、会場には張り詰めた通気が漂っていた。
その大会議室へ、一人の青年が姿を現した。
美しい黒髪を七三分けにし、アジア的でありながら彫りの深い目鼻立ちは非常に整っており、青い瞳は西洋の血を感じさせた。スラッとした長身と身に纏う水色のスーツとネクタイは彼の爽やかさを際立たせた。
敢えて俗な言い方をするならば、爽やか系イケメンがそこに居た。そう、我らがジャッキー=ニシムラ(ガチ)である。
彼は居並ぶ各国の職員達を前に怖じ気付くこともなく、笑顔を浮かべた。
「皆様お揃いの様子、予定時間にはまだなりせんが、皆様多忙な立場であることは理解していますので、早速始めてしまいましょう。私はジャッキー=ニシムラ、異星人対策室の総合主任を務めさせて頂いているものです。
皆様は既にご覧になったかと思いますが、前回の使節団に同行してレポートを書き上げた者でもあります。何故か我々の見解を交えた方が好評を得たのは想定外でしたが」
ジャッキーは二種類の報告書を作成している。一つはありのまま、見たままの事実を淡々と書き連ねたもの、そしてもう一つはジャッキーやジョン達個人の見解を交えたものである。
前者は報告書として完璧なものであったが、実際に体験したジャッキー達の所見が記された後者もまた各国は重要視していた。
もちろんセンチネルについての情報は注意深く削除されているが。
「先ずは謝罪をさせていただきたいのです。本来ならば異星人対策室長であるジョン=ケラー室長が参加する予定でしたが、日々の激務により休養を必要としていましてな。今回は私が代わって皆様にご説明することとなりました。
とは言え、私もアードへ赴いていますし、レポートの作成者でもあります。不満はありますまい?」
一同を見渡しながら宣言したジャッキーは、一部の国の職員が異議を唱えようとした瞬間に言葉を続ける。
「ケラー室長はアードとの交流に必要不可欠の存在であることは、論ずるまでもありますまい?
それに、この会談もまたアードの監視下にあります。ケラー室長に無理をさせているのを見て、ティナ嬢の心情を悪くするのは悪手ですよ。ご理解頂けますね?」
再度釘を刺して異論がないことを確認したジャッキーは、深々と一礼する。
「ご理解に感謝を。では早速本題へと移りましょう。
既に私が仕上げて公表されているレポートには目を通して頂けていることを前提にお話します。
ああ、レポート内容に関するご質問は後程時間を取りますのでその時に。
アードへ人員を派遣する際の留意点、或いは心構えと言いましょうか。それは自らを無知の幼子と定義することです」
「幼子?」
ドイツの大使館員が首をかしげるのを確認して、ジャッキーは極めて自然な動作でネクタイを外しながら言葉を続ける。
「ええ、そのままの意味です。私のような素人とは違い、皆様は外交の世界に生きる猛者達であります。今更言うまでもありませんが、地球にも国や地域によって外交儀礼が異なるものです。
相手の文化や風習にリスペクトを示すのは当然として、場合によっては敢えて無視することもまた、外交テクニックの一つであると認識します。それは有史以来の歴史が証明していますな。
さて、アードは星が違いそもそも我々とは異なる生命体です。地球では程度の差はあれど国や地域で共通する常識は存在しますが、アードには一切存在しない。
つまり、我々からすれば完全に非常識な世界なのですよ」
「まさに未知との遭遇ですな」
相槌を打つブリテン大使館員に頷きを返し、とても自然な動作でシャツのボタンを外しながらジャッキーは更に言葉を続ける。
「幸いにしてアード社会は極めて寛容で、アード人も善性の塊と言える存在です。無知故の失敗も彼らは笑顔で許してくれるでしょう。そう、ただ一点を除いて。
それは、アードを統べるセレスティナ女王陛下についてです!」
恐ろしく滑らかな動きで上着をスタイリッシュに脱ぎ捨てるジャッキー。その下には、黄金に輝くアヒルパンツを穿いて仁王立ちするキング=ニシムラの肖像が描かれたシャツを着ていた。
「アードに於いて、セレスティナ女王は神聖不可侵の存在です。誹謗中傷は当然として、その決定に異を唱えたり疑問を持つことも禁じられています」
「まるで中世の絶対王政ですな、時代錯誤だ」
鼻で笑う中華の大使館員を一瞥したジャッキーは、まるでそれが当然のようにベルトを外し、無駄にスタイリッシュな動きでスボンを脱ぎ捨てた。
魂と書かれた赤いフンドシが優雅に揺れるが、幸いにして女性は居なかったので大事に至らなかった。
「今のような発言はくれぐれも避けていただきたい。セレスティナ女王との謁見が叶うかどうかは未だ不透明ですが、間違っても女王は会おうともしなかったとか、礼節に反する等の発言や記録を取ることもなさらないで頂きたい。
地球でも外交問題になりますが、アードの場合は外交問題をすっ飛ばして、全力で殴り掛かってくるでしょうな。
そして彼らは、地球には多数の国家が存在することを正しく理解していません。つまり、地球の総意と見なされるのです。その先にあるのは何か。それは論ずるまでもないでしょう」
ジャッキーの宣言に場が静まり返る。
「あなた方は、文字通り地球の命運を背負う人物を派遣するのです。人員については厳選に厳選を重ねることを強く推奨します。
大使であるティナ嬢は地球の事情にある程度の理解を持っていますが、彼女の善意を目当てにした行動は必ず露見して凄まじい報復を受けることになります。
その際我が国は決して擁護しませんのでそのつもりで」
ティナの影に潜む保護者の存在を仄めかして釘を刺したジャッキーは満足げに頷き。
「終わったか?じゃ、いこうか」
「ええ、私は逃げも隠れもしませんよ!」
待機していた警官達によって何処かへ連れていかれた。




