日本の反応
シリアス以外は我慢すると言ったな。あれは嘘だ(今更)
オーロラ号の来訪は各界に衝撃を与えたが唯一別の意味でお祭り騒ぎとなった国がある。ジャッキー=ニシムラ(家宝は大和魂の籠ったスク水)の父祖の国、日本である。
来訪初日から特番が組まれて突然の巨大戦艦の来訪を報じた。更に丁度夜だったこともあり夜空を彩った美しいビームの閃光や巨大な宇宙花火は、壮大な天体ショーとして国民に受け入れられた。良くも悪くも適応力が他の民族に比べて高過ぎる日本人らしい反応であった。
もちろん危機感を煽る声も存在したが、ティナによるこれまでの活動は大半の日本人にとって好意的に受け取れるものであったため、大勢を動かすには至らなかった。
『天然の天体ショーだったな!』
『ああ、まさにロマンチックな夜だったよ。残念ながら喜びを分かち合う人は居なかったが』
『涙拭け、同志よ』
『でも二キロかぁ。思ったより小さいな?』
『漫画とかじゃ数十キロサイズがゴロゴロ居るからなぁ』
『まあ、漫画は空想だしなぁ。なにか理由があるんだろ』
『軍艦と言う観点から見れば、必ずしも大きいことは良いことになら無いしな』
『メリットもあるんだが、被弾面積は確実に増えるし、機動性も悪そうだ』
『兵器はコンパクトに限るってエロい人も言ってるしな』
某国による核攻撃に対する反応も冷めたものであった。
『あいつらまたやらかしてくれたなぁ』
『下手をすれば地球滅亡だぞ。滅びたいなら勝手に滅べって!』
『ティナちゃん達がちゃんと理解してくれて良かったよ。一括りにされちゃ堪らねぇからなぁ』
『あれ?アードは一括りにして対応するって話じゃなかったか?』
『ティナちゃんが理解してくれて動いてくれたらしい』
『天使かな?天使だったわ』
『またティナちゃんに救われたなぁ』
『クサーイモン=ニフーターも捕まったし、これから交流も一気に加速するんじゃないか?』
『無理だろ、変な奴は日本にだっているんだから』
『世界融和党かぁ』
『なんかヤバそうな噂はあるよな』
『ネットの噂はあんまり当てにならんが、アイツらが好き勝手やるのは総理も困るだろうなぁ』
『ティナちゃんとの関係がご破算になるかもしれないんだろ?』
『最悪だな、それ』
『あいつら、アードを侵略者と呼んでるからなぁ』
『今更か?散々助けて貰って侵略者認定できるのか?』
『度し難いよなぁ、俺達。ティナちゃんが呆れなきゃ良いが』
ホテルの一室でベッドに寝転がり、端末でスレを流し見していたティナは笑みを浮かべた。
「呆れたりはしないよ。だって、色々あることはちゃんと分かってるから」
「地球人には色んな人が居るんですね」
ベッドの側に置かれた椅子に腰掛けてサンダルを編んでいたフェルが、端末を見て笑みを浮かべる。
「好意的な人はたくさん居るけど、やっぱり色々抱え込んでしまっている人も居るんだよ」
「はい。まさか日本にも反対勢力が居るとは思いませんでした」
「日本にだって色んな人が居るからね。でも誤解しているだけなんだ。少しずつ理解してくれればそれで良いよ」
ティナは元地球人だけあって本質も理解しているが、同時に人間の可能性に期待しているのだ。
それがどれだけ甘いことか理解はしているが、どうしてもそれだけは譲れない。ただ、この甘さが隔絶した地球とアードの交流を緩やかに進められている所以であることも確かである。
ただ、ティナも生き物だ。まして前世の記憶がある分地球人としての感性も残っているので、アード人らしい生き方と言うのは疲れるものなのだ。
本人に自覚は無いが、幸いにしてティナの疲れを察知して癒してくれる存在が側に居る。
「でも、そのために頑張りすぎていませんか?」
「まあ、ちょっと疲れたかなぁ」
ワシントンプラザの事件とその後始末に協力し、更にオーロラ号来訪に伴う混乱を抑えるために奔走したのだ。ティナも疲れを自覚している。
それを察したジョンは、フェルとの二人部屋を用意したのだ。ティナを癒せる存在はフェルしか居ないと判断しての事である。
フェルはティナの答えを聞いて編み物をテーブルへ置き、ゆっくりとベッドへ上がる。そして後ろからティナを優しく抱きしめた。
「フェル?」
「色んな人がいます。ティナに感謝するような人もいれば、批判するような人も居ます」
「……そうだね」
「でも、例え皆がティナを否定しても、私はずっとティナの味方です」
「フェル……」
「確かにティナには無鉄砲なところがありますし、もう少し慎重にしてほしいところもあります。でも、そんなティナに私は救われました。私だけじゃない、たくさんの人がそんなティナに救われました。
もしティナが慎重な性格だったら、私は生きていません。マンハッタン、アジアの国、そして日本でも。ラーナ星系の皆さんだってそうです」
椎崎首相もその一人。フェルはそう口にしようとして、止めた。いつかティナが教えてくれることを祈って。
「ありがとう……フェル」
「感謝しているのは私ですよ?」
「ううん、違うよ。フェルが居てくれるから、私は頑張れるんだよ?」
ティナは自分を優しく抱きしめるフェルの腕にそっと手を添えた。そのまましばらく互いに無言であったが、親友の暖かさと優しさに包まれて、親善大使を務める少女は静かに眠りにつく。
「~……~……」
フェルはティナの安らかな眠りを願い、優しげな歌を口ずさむ。古代リーフ語の歌はアリアも解読できなかったが、それはフェルが幼い頃に母から毎晩聴かせて貰っていた安らぎの歌である。
古代リーフに於いて歌は最高位の魔法であり、フェルの保有マナによってその影響力はワシントン市内全域に及び、眠るものには安らかな睡眠を。起きている者に安心感と活力を与えた。
ただし、同じリーフ人には特に効果が強く作用してしまう。
「なんかやる気出てきたし、取り敢えず造るか~」
ちょうど姉であるフィオレが眠ったこともあり、活力が増したフィーレを一晩野放しにしてしまう。
その結果、翌朝ティナ達がホテルの前の広場で見たのは。
「ザ◯じゃん」
「◯ク?」
「しかも旧ザ◯じゃん」
そこに鎮座していたのは、まさに旧ザ◯である。
「モビル◯ーツを語るなら旧ザ◯は必須だってスレ民が言ってた」
「また悪ふざけしてフィーレに変なこと吹き込んだなーーーーー!!!」
合衆国の地に、旧ザ◯降臨。ネット界隈はお祭り騒ぎとなり。
「ティナ嬢!これは一体!?」
「頭痛い……」
ティナに頭痛が追加されるに至った。




