祝砲のお返し
あー!!イチャコラ書きてーーーーーー!!!(心からの叫び)
でも今章では地球側のお掃除がメインだから我慢します!
(注)作者はたまに別ベクトルで自重を失います。ジャッキーさんみたいに。
オーロラ号来訪から三日目。アナスタシア、近衛宇宙軍の将兵は地球へ下りること無く衛星軌道上に留まっている。一度に大量のアード人が来訪しても混乱を生むだけであるし、また地球上の治安が安定していないことが理由として挙げられた。
ただ、アナスタシアだけは地球産の食物に隠された効果を知っているため、艦内の風紀を保つために自制させているのが真の理由である。
「地球の食物は大変美味であるが、嗜好品としての意味合いが強い。現在我々は重要な任務に従事しており、醜態を晒して女王陛下の御威光に傷を付ける訳にはいかん。
よって土産として人数分を手に入れるが、これらは本星帰還後に分配する。各自、それを楽しみにして風紀を維持し任務に当たれ」
オーロラ号には、アード近衛宇宙軍の将兵が男女合わせて数百名乗っているのだ。その様な環境下で地球産の食物を口にしては大変な事態となる。
アナスタシアは自身も経験したからこそ、その影響力を重く見ての判断であった。
部下達からの不満は特に無い。彼らにとってアナスタシアはちょっと暴走する面はあるが、基本的には面倒見の良い上司なのだ。
彼女自身が率先して無味無臭の栄養スティックを食べて、地球の娯楽に見向きもしない。
その姿勢を示されては不満が出るはずもない。まして、任務後のご褒美が約束されているのだ。
「地球人に我が近衛宇宙軍の規律を見せつけてやるのも一興ではあるが、まあ自制しよう。任務を優先する。だが、パイロット達の訓練も急務だ。義姉上も理解してくれよう」
アナスタシアはオーロラ号の周辺にローテーションで常時三十機のスターファイターを展開させた。これは威圧目的ではなく、純粋な訓練である。
アードが本星へ引きこもって三百年以上、近衛宇宙軍の若手達は宇宙を知らないのだ。
もちろん精巧なシミュレーション訓練は充分に受けているが、それでも経験値の少なさはアナスタシアが危惧するレベルである。そして頼りとなるベテランパイロットも大半が戦死し、今となっては極めて希少な存在である。
現在も数少ないベテラン達と一緒に発艦した若手達が、少しでも経験を稼がんと熱心に励んでいるのだ。
一方セシル達は最新の地球の情報を調査して、その文化への理解を深めようと努力していた。
まだ時期は未定であるが、本格的な交流の先駆けとなる任務を与えられた彼女達が精力的に取り組むのは当然と言えた。新天地なのだ。地球人と良好な関係を維持するのが最優先である。
また、ラーナ星系の生き残りは女子供しか居ない。或いは地球人とアード人の夫婦が誕生するのではとティリスは密かに期待している。
故にオーロラ号はプラネット号、銀河一美少女ティリスちゃん号と艦隊を組んだまま軌道上で特にアクションを起こすこと無く静かに待機していた。側にあるISSと、たまに雑談として通信のやり取りを行う程度である。
だが、これを是としない国が存在した。某国である。かの国、正確には独裁者はこれまで二度もアード側によってメンツを潰されたと考えているのだ。
独裁国家は指導者個人の意思によって、非合理的な判断を下すことが少なくない。それは地球の歴史が物語っているし、メンツを潰されて求心力を失いつつあると言う危機感もあった。それ故に強気に出たのである。
『偉大なる将軍様はアードによる恫喝に屈すること無く、地球人類のために断固たる行動を行うことを決断されました!アード側に速やかなる謝罪と技術その他による賠償を求め、一両日中に回答が得られなかった場合は地球の主権を護るため、苛烈にして容赦の無い報復を行うと!』
来訪二日目に突如として某国が全世界に対して宣言を出し、各国を大慌てさせた。合衆国を中心に各国は某国へ制止を強く求め、同時に大使であるティナに対して駐米大使を通じて釈明した。
唯一日本政府だけはティナに釈明を行わなかったが。
「宜しいのですか!?」
「慌てなくてもティナちゃんは理解してくれるわ」
椎崎首相の読み通り、慌てる各国駐米大使を前にティナは。
「あー……はい、分かっていますよ。うん、他の国の皆さんが無関係だってちゃんと分かっていますから」
困ったような笑顔を浮かべるティナを見て、大使達は一様に首を傾げた。
当然ではあるが某国による要求をアナスタシアは無視。と言うよりは、地球側の軍事力を見聞したいと言う狙いもあった。
「この核ミサイルとか言う兵器か。地球人の最大火力だそうだな?」
「情報によれば、間違いはないかと。まあ小さな勢力のようですから、威力は最新式のものに比べれば劣るのでは?」
「ふむ、反撃も迎撃もするな。地球人の手並みを拝見しようではないか」
「はっ、恒星フレア程度の威力を想定しております」
「うむ」
オーロラ号のブリッジで交わされた会話をティリス経由で聞いたティナと側に居たジョン=ケラーは、二人揃って頬をひきつらせた。
「いや、想定が太陽フレアって……」
「……勝負にならんな」
ティナは大使達に対して反撃および迎撃は一切行わないと秘密裏に伝え、各国は不安を抱えながらもアードの実力を垣間見れると事態を静観することにした。
そして翌日。
『愚かにもアードは将軍様の慈悲を無下にされた。地球人類のため、我々は正義の鉄槌を下すであろう』
この宣言と同時に某国より核ミサイルが発射される。大気圏外へ飛び出したミサイルは何の障害もなくオーロラ号へ辿り着き、核爆発を引き起こした。宇宙に輝く核の光は全てを包み込むように広がり、そして光が消えた後には無傷のオーロラ号が鎮座していた。小揺るぎすらしていないその威容にISSの宇宙飛行士達は唖然として。
「アナスタシア様、終わりました」
「ふむ、それで?」
ブリッジでは観測されたエネルギー量が艦長によってアナスタシアへ伝えられた。その数値を耳にして、アナスタシアは口元に笑みを浮かべる。それは嘲笑ではなく、困ったような笑みであった。
「艦長、これは困ったな」
「ええ、まさかこれほどの低威力であるとは思いませんでした」
「些か地球文明を買い被りすぎたか?」
「はい。この程度で反撃しては、他の軍から大人気ないと笑い者にされてしまいます」
「仕方あるまい、まさか地球最大の火力が恒星フレアにすら及ばんとは思いもしなかった。
……よし、あの指導者のメンツを完膚なきまでに叩き潰してやるか。でん……大使殿も幾分仕事がやり易くなろう」
アナスタシアは直ぐ様アリアを通じて全てのメディアをハックし、声明を発表した。
『先程の祝砲は、地球側の歓迎の意として感謝させていただく。ただ、些か規模が小さく彩りが単調であると考える。地球の価値観に物を申すつもりはないが、必要ならば彩りを添える技術を提供する用意がある。大使殿を通じて要望されるが宜しかろう』
核兵器を祝砲扱いされた某国のメンツは完全に潰された。そして。
「お仕事増やさないで……」
ティナは密かに胃を痛めた。




