新たなる問題
オーロラ号の来訪は為政者達を震撼させて一部の過激派をより先鋭化させてしまう効果を生む。
クサーイモン=ニフーターは投獄され、更に彼の一派も大半が逮捕されて壊滅的な打撃を受けたが、扇動者は彼だけではなかった。
テキサス州を中心に個人でラジオ番組ラジオ・フリーダムを放送する活動家、チャーオ=ニゴースである。
様々な陰謀論を唱えて政府を批判する、言ってしまえばありふれた活動家である。これまでアード批判を一切行わなかったことから、当局に睨まれること無く今も活動を続けている。そんな彼が、遂に動き始めた。
『ラジオ・フリーダムのチャーオ=ニゴースだ。先日発生したワシントンプラザの大事件は衝撃的だった。大勢の死傷者を出した大惨事であり、政府の初動の遅れによって犠牲者が増えたのは否めない。
だが、先ずは死者を悼もう。
さて、ワシントンプラザについては何度も話をしてきた。あそこは立地が良い場所であるが、店舗の大半が政府機関の子会社であることは有名な話だ。政府にとって不都合なものを合法的に隠せる場所として使われていたのは間違いない。
だが、ここで気になる話がある。何故、政府の奴らより先に客人である筈のアード人が真っ先に現場へ駆けつけたのかと言う点だ。
報道を見る限り政府が正式に支援を要請したみたいだが、それもおかしな話だ。相手は親善大使、それも正式に訓練を受けた訳じゃない子供だ。
確かにマンハッタンの奇跡、そしてアジアでの大使の活躍はよく知っているが、ここで疑問が残る。何故重要な現場に彼女達が必ず現れるのかだ。
皆はクサーイモン=ニフーターを覚えているか?あの猜疑心の塊だった男だが、確かな筋の情報としてワシントンプラザの事件が発生したと同時に現地で逮捕されたって話だ。これは単なる偶然か?
奴は政府はもちろんアード批判を繰り返していた男であり、政府としては目障りな存在だった筈だ。そして奴がワシントンプラザに居たのは偶然なのか?
そんな筈はない!偶然にしては出来すぎているからな!アイツはイカれた男だったが、ただひとつ正しかったことがある。それはアードと政府が結託した陰謀を暴いたことだ!
俺はいつも警告していた。政府の奴等は俺達の自由を奪い去り、苦痛を与えながら虐げる準備を着々と進めているとな!それと数か月前から発生した異星人問題は不思議とリンクする。考えても見ろ。銀河の反対側にある文明が何万光年も彼方の地球を見付けて、わざわざ友好のための活動をする?
これを偶然と言える奴は考えの足りないバカだ。いや、アンタは悪くないんだ。真実をひた隠しにする政府が悪い!
つまり政府の奴等は巧妙に隠していやがるが、宇宙人を呼び寄せたのはアイツらだ!昔から言われてきたよな。宇宙人と政府の繋がりの数々!単なる陰謀論だとバカにしてきた奴等は今口を閉じてやがる!当たり前だ!
現実として宇宙人はやってきて、我が物顔で地球を闊歩していやがる!そして政府はまるで忠犬のように奴等のやることなすこと全てを肯定している!いいか!?全てだ!合衆国憲法は、法の秩序は何処へ行った!?
その観点から見れば、不思議と分かることがある。マンハッタンの奇跡をはじめとした宇宙人の活動は、全て政府が結託した自作自演だとな!奴等は国を売り渡すために、俺達国民を騙すために盛大なペテンを繰り広げているんだ!これまでと同じようにな!
それは同時に俺達の自由が永遠に失われることを意味している!だが、奴等の企みは失敗に終わる。俺達は戦士だ!奴等が権力を行使する自由があるように、俺達にも自由を護るために立ち上がる権利がある!
俺達は飼い犬じゃない。騙して思い通りに出来ると勘違いしている政府の連中に噛みつく牙を持っている!
陰謀論だと笑うなら笑え。だが、その時は確実に迫っている。その時になって行動しなかったことを嘆いても手遅れだ。東洋には備えあれば憂いなしと言う言葉がある。備えろ!政府の奴等を信じるな!自分の権利は自分で護るんだ!
ラジオフリーダムのチャーオ=ニゴースだ。真実から目を背けるな』
放送を聞き終わったハリソン大統領は深々とため息を吐いた。
「クサーイモン=ニフーターを捕えたと思えば、次が現れたか」
「ええ。更に言えば彼を支持する人間はクサーイモン=ニフーターより多い様です、大統領」
「まさに悪夢だな、マイケル。頭が痛いよ」
「取り締まりますか?」
「アードへの直接的な批判を巧妙に避けて、政府を批判しているだけだ。彼を取り締まれば、この問題と無関係な団体まで刺激する可能性がある。監視を強めて、キャンペーンを継続して行うしかないだろうな」
チャーオ=ニゴースのラジオは政府批判が主である。アードへの直接的な批判を避けている現状で取り締まれば、政府への批判を許さない圧政であると騒ぎ始める勢力が必ず現れる。
アードへの対応は合衆国内部でも疑問視する声が少なくない。議会にも反対勢力が存在する以上、これ以上の反政府勢力の台頭はハリソンとしても避けたい案件なのだ。
「では?」
「FBIに要請して監視を強めることしか出来ないだろう。彼らには負担をかけてしまうが」
FBIを初めとした合衆国治安当局はこれまでと比にならないほどの厳戒態勢を敷いており、過激な活動家の監視や調査に全力を投じている。その多忙さは、日本以外で過労死が大量発生するかもしれないと危惧されるほどだ。
「分かりました、要請を出しておきます」
「頼む。とは言え、戦艦は数日中にアードへ戻るが月にはアード人が二百名か……予定を繰り上げる必要があるな」
「周知も徹底しなければなりません。ティナ嬢が言うには、当分居留地から出ることはないとこの事でしたが」
「鵜呑みには出来ないぞ、マイケル。アード側に予定通りの行動と言うものを期待しない方がいい」
これまでの経験でアード側の急な予定変更に振り回されて胃を痛めてきたハリソン大統領は、深々と溜め息を漏らしながら答えた。
地球の抱える問題は山積みであり、合衆国も国内で新たな火種が燻っている現状に頭を痛めて。
突如部屋へ駆け込んだ職員の言葉が止めを刺した。
「たっ!大変です!またしてもあの国が!北がやらかしました!」
「何度やれば気が済むんだあの国はーーーーー!!!」
「大統領!落ち着いてください!大統領!大統領!ハリソン落ち着けーーーーー!!」
ハリソンは叫び声を挙げて、マイケル補佐官が慌てて諌める珍事が発生した。




