狂信者とウィリアムさん
さっ、三十分で書き上がった
(;゜Д゜)
今年もありがとうございました!皆様良いお年を!来年もよろしくお願い申し上げます、
「ここの怪我人達は撃たれているように見えるが、アンタがやったのか?」
最初に口を開いたのはウィリアムさんだ。周りで倒れている人達を見て、男性へ問い掛けてる。
「先ず最初に申し上げておきますが、爆発およびそれに伴う火災に関して私は一切無関係ですよ。そこは御安心ください」
「信用しろと?」
「私はそちらにいらっしゃるティナ様の信奉者。慈悲深いティナ様を悲しませるような真似が何故出来ましょうか?出来る筈もありません。
爆発は、クサーイモン=ニフーターの一派が画策したものでしょう。まさか、このような騒ぎを企んでいたとは」
「なんだと?」
クサーイモン=ニフーター?確か、反アードを唱えてる活動家だったかな。何度か放送を聞いたことはあるし、アリアから排除を提案されたこともある。もちろん断ったよ。地球にも色んな人が居るし、想いはその人の自由だからね。
まあ、内容は典型的な陰謀論だったから気にしない方が良いと思ったのも理由のひとつだよ。
地球にはこの手の陰謀論が溢れているし、日本も例外じゃないけど大半の人は気にもしないようなものだって知ってたしね。
……また失敗した。日本なら陰謀論は笑い話、都市伝説でお茶の間を騒がせて終わることがほとんどだ。でも、日本に比べて武器が手に入りやすい合衆国だと笑い話で終わらない。それを理解していなかった。
「で、この人達はアンタが撃ったんだな?」
「ええ、ティナ様の御慈悲により生かされている存在でありながら不敬極まる主張を繰り返す忘恩の輩です。
故に敬虔な信徒として、罰を下しました。もちろん急所は外しています。命を奪うような真似をすることは出来ません。
本来ながら罰を下すことも避けねばならないのですが、そちらの女性はマンハッタンでティナ様によって直接慈悲を戴きながらもその恩に仇を為したのです。敬虔な信徒として、我慢できませんでした」
は?何を言ってるのこの人!?罰を下す!?そんなこと、私は望んでいないのに!
「ティナ嬢のためにやったと言いたいのか?」
「誤解なさらないでいただきたいのは、これは私個人の独断でありティナ様は一切無関係であると言う事実です。
慈悲深いティナ様をご存知ならば、このような命を降されるようなお方ではないと理解していただけるでしょう」
私のためにやった!?そんなお願いしてないよ!?訳がわからない!頭の中がぐちゃぐちゃになってる!
「それだけを理解していただけたならば、喜んで自首しますし法の裁きを受けましょう。この場に居る不届き者達も二度と不快な真似をすることは無いでしょう。
クサーイモン=ニフーターを取り逃がしたことは悔やまれますが、ティナ様の聖なる行いを邪魔する輩を少し減らせただけでも良しとしましょう」
『ティナ、対象の速やかな排除を推奨します。この地球人を生かしていては、ティナに不利益となります』
考えが纏まらず呆然としている私にアリアが話し掛けてくれたけど、答える余裕は無い。この人達が撃たれたのは、たくさんの怪我人や……亡くなった人が出たのは、私のせいなの……?私がなにもしなければ、こんなことはっ!
……暗い考えが渦巻いていて、何かに引き込まれそうになった時、ふと頭に優しい感覚があることに気づいた。
見上げると、ウィリアムさんが優しい笑顔を浮かべて私の頭を撫でていた。他の隊員の皆さんも笑顔だ。まるで私を安心させるように。不思議と暗い考えが消えていく…。
「命を救う。俺はこれに勝る正しい行いは無いと思っている。少なくともこれまで君がやって来た人命救助は、正しい行いだ。レスキューの一人として、このバッジに賭けて君の行いを肯定する」
「ウィリアムさん……」
「だが、それを素直に受け取れない困った奴が居るんだ。それが地球人の複雑なところなんだが」
「おお!貴方もティナ様の聖なる行いを正しく理解されているのですね!私はここまでですが、貴方ならば喜んで後を託せそうです!」
「馬鹿野郎ッッッ!」
「ぶほぉっ!???」
足早に男性へ近付いたウィリアムさんが、おもいっきり殴り飛ばした!
そのまま彼の胸ぐらを掴んだ!
「アンタ、これはティナ嬢のためだと言ったな!」
「ええ!全てはティナ様のために!」
「そうかい!じゃあ見てみろよ!アンタが信奉してるティナ嬢を見ろ!嬉しそうな顔をしているか!?アンタに感謝しているような顔をしているのか!?」
ウィリアムに怒鳴られて、狂信者は初めてティナを直視した。そこには悲しげで、そして悲痛な表情を浮かべたティナが居た。
今にも泣き出しそうな彼女を見て、彼はようやく自分がとんでもない過ちを犯したことを理解した。
「嗚呼……嗚呼!!なんと言うことだ!私は、敬虔な信徒としてティナ様のためにも堪えねばならなかった!暴力に訴えてはいけなかった!
慈悲深いティナ様の名を貶めるような愚行をっ!!悲しませるような真似をしてしまった!」
「信奉者を名乗るんなら、ちゃんとティナ嬢を見るんだったな。アンタが見ていたのは、偶像としてのティナ嬢だ。
無関係な地球人を命懸けで助けようとするティナ嬢が、自分のために他人が傷付くことを喜ぶわけがないだろうが!」
「なんと言うことを……私は、どうすれば!?」
「罪を償うんだな。間違っても自殺なんかするんじゃねぇぞ。そんなことをすればティナ嬢の心にとんでもない傷を残すことになる。アンタ、マンハッタンで救われた口だろ?なら、これ以上恩人を悲しませるんじゃない」
「……はい。ありがとうございます……」
ウィリアムの言葉を聞き、ようやく狂信者は脱力した。それを見て隊員達が直ぐに救護活動を開始。
「これを使ってください!」
ウィリアムのお陰で少し余裕が出来たティナはポーチから医療シートを取り出して提供する。これにより手当ても迅速に行えた。
ただ一人、デモ隊の中心人物だった女性は医療シートやティナが近寄ることを強く拒否したので。
「落とせ」
苦渋の決断として失神させて治療を施した。
「ウィリアムさん、あの……」
「アイツのことは気にしなくて良いんだ、ティナ嬢。あんなのは極一部、大半の地球人は君に感謝している。また一緒に人命救助に携われて光栄だったよ」
ウィリアムはもう一度笑顔を浮かべてティナの頭を撫で、救助活動へ戻り。
『ティナ、緊急事態です。星系内にアード近衛宇宙軍旗艦が侵入しました』
「はぇ!?……あっ、痛い……」
狂信者との邂逅で衝撃を受けたのに、更なる追撃を受けたティナは胃を痛めた。奇しくもその仕草はジョン=ケラーにそっくりだったと言う。




