やっちゃった……
なんだろう、スッッッゴく嫌な予感がする。部屋を出てばっちゃんに謝った後直ぐに地球へ降りるのは時間が遅くなると考えて部屋へ戻ったんだけど、胸騒ぎがする。具体的にはいつものようにやらかしたような気がする。
そりゃフランスじゃ派手にやらかしたし、明日はハリソンさん達に謝りにいくけど他には何もやらかしていない筈。個人的にはフランスへ行って謝りたいんだけど、今いくのは私個人としても政治的にも危険だってばっちゃんに言われた。
政治的な面はよく分からないけど、ばっちゃんの忠告を無視して更にやらかしたら意味がない。ここは素直に従うことにしよう。
翌日、ジョンさんに連絡してハリソンさんと会いたい旨を伝えて、フェルと一緒に今回持ってきた贈り物を準備していた。医療シートは五万枚というとんでもない数を仕入れることが出来た。トランクも二百個だ。これは交易の成果とは別なんだよね。
これは親善大使になったことと、畏れ多いけど女王陛下からの個人的な餞別らしい。プレッシャーが半端じゃない。
だってアードじゃ神様みたいなお方だし、失敗したら冗談抜きで私の首が飛ぶ。比喩じゃなくて物理的な意味で。
尚、これら大量の贈り物はセレスティナ女王が可愛い姪のためにと溢れるマナに物を言わせて作り上げたのだが、同時に姪に多大なプレッシャーを与えている辺り実に血縁らしい。閑話休題。
「ティナ、医療シートは良いとしてトランクの運搬は大変だと思いますよ?」
「これまでと同じで、母艦で直接異星人対策室の本部へ運び込むつもりだよ」
母艦、銀河一美少女ティリスちゃん号は大気圏内航行能力があるし、北米大陸五大湖にある異星人対策室の本部へ降下して荷物を下ろせる。
本部側も専用の機材や運搬用の車、ドローンを用意してくれているから案外積み降ろしも楽なんだよね。トランクにトランクを収納できたら楽なんだけどねぇ。
フェルと一緒に貨物の整理をしてブリッジへ戻ると、ばっちゃんが仁王立ちしてた。何故かチャイナドレス姿である。いやなんで?
「ばっちゃん、それは?」
「地球の民族衣装なんだよね?☆ティリスちゃんのセクシーなプロポーションで地球人を悩殺してやろうかなって☆」
「セクシー(笑)」
「笑うな☆」
「随分と露出が多い服ですね。寒くないのかな?」
「いや、フェル。私達人の事言えないけどね?」
アードやリーフの服も滅茶苦茶薄いんだけどね。環境適応魔法があるから快適なだけで。
「ティナちゃん、地球へ降りたら謝るんだよね?」
「うん、先ずはジョンさんとハリソンさんに。これからも迷惑かけちゃうだろうし」
簡単に変われない。それは地球人もアード人も同じ。まして、やらかし癖がある私だからね。
「そっか。じゃあ、ティリスちゃんアドバイス☆」
「なに?」
「謝るなら誰も居ないところでこっそりと。間違ってもメディアの前で謝るようなことはしないようにね」
「えっ!?」
なんで!?
「何でかな~?☆」
むっ、先ずは自分で考えろってことかな。ん~……国はメンツが大切だって聞いたことがあるな。
「アードが舐められちゃうから?」
あんまりいい気分にはならないけど、アードと地球の間には絶対的な差があるのは事実だ。
「んー、別にアードが舐められるのは問題無いんだよね☆」
「いやいや、舐められちゃ駄目なんじゃないの?」
「舐めた真似してきたら叩き潰せば良いんだから☆」
「さらっと怖いこと言わないでよ」
まあ、そうなんだろうけどさ。
「ティナが軽く見られてしまうから、ですか?」
フェルだ。
「正解。まあ色んな意見があるのは事実だし、今回の件は私の失敗もある」
やっぱりフェルにフランスを勧めたのはばっちゃんかぁ。でも、これだけは言わないと。
「ばっちゃん。色んな事を考えてるのは分かるし、私のためにやってくれたことも理解してる。痛い思いをして色々気付かされたしさ」
「ティナちゃん?」
「でも、次からはフェルを巻き込まないで。それだけはお願い」
「ティナ!?」
分かるよ、全部私のためだって。渋るフェルを説得したのもね。
でも、それでフェルまで傷付いたのは見過ごせない。それだけは譲れない。
じっと見つめていると、ばっちゃんは。
「……色々気付いてたんだね?」
「私バカだけど、悲しそうな顔したフェルが分からないくらいアホじゃないよ」
フェルは怒ってた。でもそれは地球人だけじゃなくて、ばっちゃんの企みを受け入れてしまった自分にもだ。自惚れじゃなくて、フェルはそういう子だ。
「ごめんね、フェルちゃん」
「いえ、お話に乗ったのは私ですから……」
よし、ばっちゃんもフェルに謝ってくれたし暗い空気はここまで!
「それで、私が舐められちゃいけない理由は?」
「今回の失態はフランスにも責任がある。理由はどうあれ、自国民が起こした問題だからね。なのにティナちゃんが謝ったら誠意があると感心する地球人も居るだろうけど、何をしてもティナちゃん相手なら許されると勘違いする地球人も出てくる。それだけは避けたい」
「そうなのかな?」
「まあ、後はティナちゃんが謝っちゃったらフランスはより一層大変なことになるだろうしね」
ティリスの脳裏に、老獪なブリテン首相が浮かんだのは言うまでもない。
「分かった。でも影でこっそりと伝えるのは良いよね?」
「もちろん☆皆心配していたし、元気な姿を見せてあげれば良いよ☆」
「うん」
そうだよね、ジョンさん達にも心配を掛けちゃったし先ずはそっちの問題を解決しないとね。
『お話が終わったと判断します。ティナ、マスターフィオレからメッセージを預かっています』
「え?フィオレから?
……待って、フィオレとフィーレは何処……?」
物凄く嫌な予感がするんだけど!?
『お二人なら地球へ降りています。昨日正午過ぎでしょうか。場所は日本の地球外技術研究センターです』
「なんで教えてくれなかったの!?」
『熱心に調べものをされていたので』
そうだったーーーーーーっ!!
「今なにしてるの!?」
『現地の映像があります。こちらをご覧ください』
モニターに映し出されたのは、富士山を背景にしてズラリと並ぶロボット軍団。具体的には国民的SFロボットアニメの金字塔。ファーストからU◯シリーズ、更にアナザーまでの主人公機が勢揃いすると言うファン発狂ものの光景だ。あっ、こっそりとアッ◯イが紛れ込んでる。可愛い。
そしてその後ろにその威容を横たえているのは、ヤ◯トだった。どう見ても超有名な宇宙戦艦だよ、あれ。
で、お祭り騒ぎの職員さん達と頭を抱える美月さんが居た。
「ばっちゃん、これ私悪くないよね?」
「ティナちゃんは親善大使になったんだから、ティナちゃんの責任かなー☆」
「そっかー、私のせいかー」
……頭痛い。ついでに胃が痛い。




