ホワイトハウスにて
いや、前話ではたくさんのご感想ありがとうございます!予想通りの反響で嬉しいです(暗黒笑顔)
ティナ達がパリの地へ降り立った頃、使節団もまた地球帰還を果たした。大気圏内航行能力を持つ銀河一美少女ティリスちゃん号が直接合衆国北部に有る平地へ降り立ち、彼らを送り届けた。
この場所が選ばれた理由は、銀河一美少女ティリスちゃん号の巨体を下ろせる場所は少なくとも都市の近くには存在しなかったためである。無論飛行場ならば可能だが、一時的に閉鎖することになるので現実的とは言えなかった。
降下ポイントについては事前に連絡されており、既に軍ならびに警察組織によって厳重な警備体制が敷かれたが、同時に主要マスコミ各社も可能な限り集められた。
警備上の問題もあるが、銀河の彼方に有る別の惑星へ降り立ち現地の宇宙人と交流したと言う人類史上初めての快挙を広く世界に喧伝することでアードとの交流へ理解を深めて貰おうと言う狙いもある。
「あっ!今降りて来ました!遠い宇宙への旅を無事に終えた使節団の皆さんが、たった今地球の地へ帰ってきました!」
「突然発表された使節団騒動から半月以上、派遣そのものを疑問視する声や合衆国と日本のみで行われたことに批判はありました。しかし、先ずは彼らの帰還を喜びましょう。今回の使節団派遣によってアードとの今後の交流の加速に期待を寄せる声も挙がっています」
「合衆国と日本による横暴に対する批判は根強いものがあります。両国がアードから得られる恩恵を独占しているのは紛れもない事実であり、両国は独占を速やかに止めてアードに関するあらゆる情報を開示することが求められています」
「今回の派遣で政府のアードに対する弱腰な姿勢を疑問視する声もあり、政府にはより積極的な姿勢でアードとの関係構築を行うべきであると主張する専門家も居ます」
様々な憶測や反応が飛び交う中使節団の面々と同行しているティリスは、合衆国政府が用意したヘリコプターへ乗り込み厳重な警備の下ホワイトハウスへ向かうことになった。
「へぇ、これがヘリコプターかぁ。地球人も面白い乗り物を作るんだねぇ☆」
「場所を選ばずに垂直で離着陸出来ますからな。僻地への輸送や滞空時間を活かした救助活動に重宝されていますよ」
「ふーん?重力制御技術がまだ無いならこんなものが作られるのも分からないでもないかな☆」
「はははっ、更に言えば我々は空を飛べませんからな!」
「私達にとって空は身近だけど、地球人にとっては違うみたいだねぇ☆」
「ええ、自由に空を飛ぶ。誰もが夢見たことのあるロマンですよ」
「お父さんの場合は宇宙じゃない?」
「もちろんだよ、カレン。そしてその夢も叶えられた。ティナのお陰だよ」
和やかに談笑しながら束の間の空の旅を満喫した一行は、そのまま直接ホワイトハウスのヘリポートへ乗り込んだ。
「色々あったことは察せられるが、先ずは皆を労いたい。使節団の任務、ご苦労だった。ティリス殿、お世話になりました」
会議室で一行はハリソン大統領を含めた合衆国首脳陣から手厚い歓迎を受けた。
「楽しい旅だったよ☆」
「それは何よりでした。既に報告書は読ませて貰ったが、君たちからも直接話を聞きたい。長旅の疲れがあることは重々承知しているが、どうかよろしく頼む」
「無論です、大統領閣下」
それから手短ではあるが、ジョンと朝霧両名からアード訪問中の出来事が語られた。ジャッキーが撮影していた映像も同時に放映されて、まさに異世界と呼べる世界の映像の数々に皆が息を飲んだ。
「これは……凄いな。いや、失礼。あまりの光景に具体的な感想が出てこないよ」
「お気持ちは分かります、大統領閣下。直にこの目で見た私達も終始圧倒されていましたから」
「ううむ、この映像を見れば納得だ。しかし、アードの海は地球以上に危険な場所の様ですな?ティリス殿」
「まぁねぇ、お陰で海に関する技術は地球より遥かに遅れているのは否めないかなぁ?☆」
悪戯っぽく笑みを浮かべるティリスの真意を直ぐに悟ったハリソンも笑みを浮かべた。
「となれば、地球人として親愛なる隣人であるアード人の海洋開発を支援させていただかねば信義に反しますな?」
「んふふっ、ハリソン君は話が早くて助かるよ☆」
海洋の開発。それはアードにとって悲願であるが、海洋生物が余りにも危険な存在であるため諦めた分野である。
そのためアードは海洋ではなく宇宙へ活路を求め、代わりに船舶など含めて海洋技術の進歩はほとんど果たされていない。沿岸部で小さな釣り船が使われている程度である。
だが、海洋惑星であるアードの広大な海とそこに眠る海洋資源が手付かずのままなのは明らかに勿体無い。
「はいこれ、アードの海に関する詳細な情報だよ。海底も観測できる範囲は限られているけどね?☆」
ティリスが差し出した地球製のデータチップをハリソンが受けとり。
「我が国は地球でも最高の海軍を保有しています。ご期待に添えるものを用意できると確約しましょう」
そのままハリソンはデータチップを同席していた海軍大将に手渡し、受け取った海軍関係者は深々と一礼して足早に会議室を後にした。
地球の海洋技術の提供、その対価としてアードから宇宙開発を含めた様々な技術の協力が模索されることになる。
「政治のお話は今後も私が請け負う。ティナちゃんの活動についてだけど、進捗は?」
「ご安心を、主要国で協定を結びました。連邦が真っ先に賛成したのは意外でしたが」
「おいたが過ぎたからね、お仕置きしただけだよ☆」
ハリソンは先の国際会議の後、主要国を集めてある協定を結んでいた。それは今後ティナが急に訪問することがあるかもしれないが、その場合は速やかな受け入れと不法入国等の罪に問わないと言うものである。
これまでは合衆国を介してティナの訪問先を調整していたが、紹介した矢先に発生してしまったブリテンでの騒動により合衆国にも責任問題が及んだ事が切っ掛けとなった。
責任をこれ以上負いたくない合衆国と、ティナを自由にさせたいティリスの思惑が一致した事による提案である。
各国としても合衆国を介さずにティナ、もっと言えばアードと交流する機会を得られるメリットがあった。
しかし、この提案は各国で物議を呼んだ。つまり、国家としての主権を蔑ろにされる危険性があるためだ。
この提案に真っ先に賛同したのは何と連邦である。当然ながら連邦内部にも疑問視する声や反対する声もあったが、何故か論者達が揃って行方不明になると言う悲しい事件が発生したため全会一致となったのである。
次に失態を挽回したいブリテンが続き、渋々ながらフランスを始めとした主要国も参加を表明したのである。以後ティナの行き先に関しては、主要国に限り完全にランダムとなることが確定したのである。
「これでティナちゃんはこれまで以上に自由にやれる。ありがとう、ハリソン君」
「何の、交流に弾みがつけば我が国としても利益がありますからな」
とは言え、ティナの拠点となる異星人対策室は合衆国にあり彼女が頼りとする地球人のジョンも合衆国人なのだ。合衆国の優位性は依然として変わらない。その様な打算も当然ながら存在する。ジョンは胃を痛めたが。
和やかに報告が終わりかけていた頃。
『緊急報告!ティナがフランスにて現地人による攻撃で負傷、マスターフェルによって母艦へ戻されました!』
突如として知らされたアリアの報告に皆が顔を青ざめさせて。
「……はぁ~……」
ティリスは深々と溜め息を吐きながら天を仰ぎ。
「アオムシはミドリムシ以下かぁ……」
底冷えするような彼女の言葉が会議室に響いた。




