パリ訪問と深刻な問題
ちょっと不穏な感じに……いや、調べれば調べるだけ闇が深い問題山積みですなぁ。
悲報、フェルと一緒に転移した先はまさかのパリ。フランスの首都で、前世でも花の都や芸術の都なんて名前で呼ばれていたのを覚えている。そして私達が立っている場所は、いわゆる凱旋門と呼ばれている建物の上だ。
『正確にはエトワール凱旋門と呼ばれ、ここを中心に有名なシャンゼリゼ通り等十二本の通りが放射状に延びています。その形が地図上で光り輝く星のように見えることから、この広場は“星の広場”と呼ばれていたと記録にあります。
現在はシャルル・ド・ゴール広場と呼ばれているのだとか』
「へぇ」
アリアが調べてくれたみたいだ。来ちゃったものは仕方ないし、このままじっとしてるのも何だしね。取り敢えず。
「下へ降りよっか、フェル。多分現地の人がたくさん居るとは思うけど」
「分かりました。それとティナ、早速動画を撮影してみてはどうですか?」
「あっ、そっか」
アードの風景なんかを撮影した動画についてはジャッキー=ニシムラ(モザイク処理はプロ並み)さんに任せているし、私には地球滞在中含めて適当に撮影してアップするようにアドバイスされた。まさか自分が動画配信者みたいなことをする事になるとは思わなかったけど、意外と楽しくてハイパーレーン航行中にそれなりの量を撮影してある。
「アリア、撮影を始めて」
『常に撮影していますのでご安心ください』
「……つまり?」
『具体的には就寝時以外は全て撮影しています。これはティナを護るためですので、後程適した部分を編集してニシムラ氏へ送信します』
「あっ、うん。じゃあそれで」
四六時中監視されてることが発覚したけど、まあ別に良いかな。ブレスレットを着けてるからいつでもアリアと一緒だしね。さて、降りるか。
「おいあれ!」
「まさか、噂の宇宙人か!?」
「もしかしてコスプレ?」
「そんなわけ無いじゃない!飛んでるわよ!」
私達は翼と羽根を広げてゆっくりと凱旋門の下へ降りていく。パニックを避けるために変装してお忍びで観光してはとハリソンさん達から提案されたことはあるけど、先ず無理なんだよねぇ。翼を消すことなんて出来ないし。
お母さんが使ってるようなブカブカのローブがあれば良いけど、あれはあれで翼がムズムズするから長時間は使いたくない。そもそも畳んだままだと痛いし。
幻視魔法の応用で隠す技術もあるみたいだけど、あまり使われていないし当然ながら私には無理。ついでに言えばこの翼はアード人のアイデンティティー。隠す道理もないって考えだ。
フェルも同じ考えで、結局私達は下手にコソコソするより堂々と振る舞う事を選択した。ハリソンさんは苦笑いしてたけど。
ゆっくりと地上へ降り立つと、周りには大勢の人が集まっていた。観光客さんは勿論、地元の人もどんどん集まってるような気がする。
「フランスの皆さんこんにちは!ティナです!友達のフェルと一緒に遊びに来ました!」
「こんにちは、皆さん」
アリアが同時に翻訳してフランス語になっている。言葉の壁が無いのはとても有り難いね。
「ティナちゃんフェルちゃん!?」
「本物なのか!?」
「それに流暢なフランス語だなぁ。これもAIなのか?」
「やっぱり映像で見るより可愛らしいなぁ」
「そうか?不気味に見えるんだが」
「おいおい、それは言わない方がいいぞ」
「遊びに来たって、許可は取ってるのか?」
「地球の法に従う道理もないだろ。悪いことしてる訳じゃないんだからな」
うーん、やっぱり否定的な意見もあるなぁ。まあ、この辺りはこれから交流を深めて少しずつ理解してくれたら嬉しい。良く分からない宇宙人より身近な宇宙人の方が親しみ易いと思うし。
取り敢えずこれ以上人が集まる前にパリを観光しよう。前世じゃ実は汚い町なんて話を聞いたことがあるけど、見渡す限り綺麗な町並みが広がっている。もちろん裏通りとかまでは分からないけど、そこまで見るつもりはないし。
「フェル、ちょっと飛ぼっか。行きたい場所があるなら一緒に行こう」
「はい、ティナ」
「とっ、飛んだーーーっ!!」
「さっきも見たけど、本当に飛べるのね!」
「まるで天使と妖精だなぁ」
「ずるいなぁ。俺も空を飛んでみたいよ」
「魔法の独占を許すな!」
「私達にも魔法の恩恵を与えるべきよ!」
「社会的弱者である移民へ最優先に魔法の道具を支給せよ!」
フェルと一緒に空へ飛び上がる。ただ、ちょっと不穏な言葉が聞こえたのは心配になるけど。まあ、何処にでも色んな考えの人は居るよね。少しずつ理解を深めていけばいっか。
ティナの前世は地球人、更に言えば日本人である。そして超絶ブラック企業勤務の地方都市に住んでいた底辺サラリーマンであり、海外旅行の経験は一切無い。
また同時に外国人と接する機会もほとんど無く、テレビやネットの情報を少し知っている程度である。
そんな彼女にとってパリは美しい町に見えた。事実パリは美しい町であり、歴史的な建造物も数多く存在する世界的な観光名所である。だが、フランスに限らず大半の国が抱える問題をティナは全く理解していなかった。
人種宗教移民。これらの問題はティナが生きていた頃に比べて、より深刻となっている。確かに技術は目覚ましい発展を遂げて、食料生産効率も飛躍的な向上を見せている。
だが同時に最早座視できないレベルの環境破壊による気候変動は地球全土を蝕み、世情の不安は更なる難民を産み出しているのだ。
人が住めない土地も増え続け、故郷を追われた難民を受け入れれば、文化価値観の衝突が起きるのは必然と言える。
多様性は最も尊い思想であるが、人間ならば誰もが絶対に許容できないラインを持つ。
そして価値観や文化、宗教の違いはこのラインをあっさりと越えてしまうのは歴史が証明している。
そんな中に、善意の塊であるティナがフラりとやって来た。しかもアードには遥かに優れた技術や未知の力である魔法が存在する。
そして現に彼女はこれまで合衆国や日本、そして東南アジアの小国で現地の人々を救った。救ってしまった。その意味を彼女が正しく理解するのは、間も無くの事である。
何故ならば、ここはある程度交流して理解を得られた合衆国や日本では無いのだから。




