砲艦外交(軽め)
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ISS国際宇宙ステーションからの急報を受けた合衆国のヒューストンに本部を置く統合宇宙開発局は、大騒ぎとなった。
これまでの経験で良くも悪くも鍛え上げられた彼等は、受け取った情報を分析する時間も惜しいとばかりにそのまま上に伝えてしまったのである。
統合宇宙開発局は形式的には国際連合傘下の組織であり、アードとの交流が始まって以来出資している国の連絡員が常駐するようになっている。それはつまり、出資している各国政府にそのまま情報が共有されることを意味していた。
これまでと違い十機以上のスターファイターを艦隊周辺に展開させたままの来訪と言う報告を受けて、各国政府は上から下まで大騒ぎとなった。
合衆国のホワイトハウスでは。
「まさか、我が国やブリテンの不祥事が原因か?ティナ嬢を警戒させてしまったのか?」
「しかし、ティナ嬢に限ってこの様な威圧的な手段を講じるとは思えません」
「ううむ……何かがあった筈だ。ISSには至急続報を送るように伝えてくれ。それと、使節団の帰還を最優先に。ケラー室長達ならば事態を正しく理解している筈だ。可能な限り早く報告を聞きたい」
「畏まりました。それで、大統領閣下。残念ながら情報操作は失敗しました」
「なに?」
「どうやらまだまだ“ネズミ”が潜んでいるみたいですな。あっという間に主要メディアに情報がリークされました。報道規制は既に手遅れの段階です」
「それで、現状は?」
「今現在国民にパニックの兆候はありませんが、直ぐに対策を打たねばどう世論が転ぶか分かりません」
「ならば私も直ぐに声明を出そう。そして、マスコミ各社に要請を。今回の警戒はこれまで地球で発生した事件を省みれば、仕方の無いこと。我が国も悪いが、ブリテンはもっと悪いとな」
「そうですな、旧宗主国殿には責任を果たして頂きましょう。その様に手配します」
「頼む、マイケル。しかし、議会がまた騒がしくなるだろうな……今から頭が痛いよ」
「ティナ嬢に薬を頂きますか?」
「大統領がスー◯ーマンかね?まるでアメコミじゃないか。止めておくよ」
日本では、緊急国会が招集された。外遊などのため不在の議員を除いて、急な要請にも関わらず与野党の議員の大半が参加した。だが、議場は紛糾していた。
「柳田官房長官!何故首相が不在なのですか!いや、首相だけじゃない!政府閣僚の大半が不在では意味がないではありませんか!」
「えー、椎崎首相始め関係閣僚は総出で事態の情報収集に努めている最中でありまして。皆様方には私から今現在判明している情報の共有と、今後を見据えた対応を与野党問わず慎重に議論していく必要があると思い招集を実施しました。
えー、首相に関しましてはある程度の情報がまとまり次第参加することになりますので、皆様には今少しお待ち頂きたく」
椎崎首相の懐刀、柳田官房長官がいつものように淡々と説明すると、早速一部の野党を中心に非難が殺到する。
「何を悠長な!これは明らかにアード側による武力を用いた恫喝に他なりません!今すぐに断固とした対応を行う必要があります!」
「ただでさえ、首相はアード贔屓であり富を日本だけが独占しているとアジア各国から非難されているのですよ!」
「その通り! 今回の事態を受けて非難が更に増すのは目に見えています!速やかに誠意ある対応と、アジア諸国との共有を推し進めるべきではありませんか!?」
「えー、皆様からのご意見は真摯に受け止めて今後の対応に……」
首相官邸にある緊急対策室では。
「アジア各国って、お隣さんだけだろ。この言い方はズルいよなぁ」
「むしろ首相は積極的に親アード国家を増やすために頑張ってるのにな」
「仕方無いさ、首相を糾弾できるまたとない好機なんだから」
モニターに映し出されている討論の様子を見ながら閣僚達は暫し作業の手を止めた。広い室内を多数の職員が慌ただしく走り回り、怒号と紙が飛び交うその様はさながら戦場のように思えた。
統合宇宙開発局から回された情報は日本政府にも激震を与えたが、椎崎首相が音頭を取り先ずは情報収集を行いつつ国内に混乱が発生しないよう関係各所と連携しつつ対応している最中なのだ。
「柳田さんには後で臨時の休暇を出さねばなりませんな」
「個人的にボーナスも弾むわよ。正直、国会でのんびり討論をしている余裕は無いしね。外務省からは何と?」
「合衆国を始め、各国にも動揺が走っています」
「各大使には、邦人保護を最優先に。軽挙妄動を慎みつつ、現地政府と連携して出来る限りの情報を集めるように指示して」
「分かりました!」
ここでティナ達が直ぐに地球へ降りてくれば良かったのだが、ティリスの考えで一日軌道上で待機しているのだ。もちろん、警戒態勢を維持したままである。この事が各国でさまざまな憶測が飛び交う結果となった。
「首相はどう見ますか?」
「ティナちゃんが地球に牙を剥くことはない。それだけは私の政治生命を賭けて断言できるわ。理由は教えられないけどね」
「それならば一安心ですな」
「けれど、国を預かる身としては常に最悪を想定して動くべきと考えているわ」
「それはつまり?」
「状況の変化。例えば交流の主役をティナちゃんじゃなくてアード政府が主導することになった場合よ」
「外交的には良いことでは?」
若手官僚の言葉に、椎崎首相は困ったような笑みを浮かべた。
「ティナちゃん以上に地球の情勢を理解してくれるとは思えない。むしろ彼女の異常なまでの好意から対等な関係を維持できているのよ。一般的なアード人からすれば、私達は原始人ね」
「それほどまでに格差があるのですか!?」
「トランクに医療シート。今の地球じゃ絶対に実現できないような代物がアードじゃ旧い産物扱いなのよ。それだけでも充分ね」
「では?」
「ティナちゃんと言うクッションが無くなれば、良くてアードに隷属、植民地化でしょう。地球の歴史を見れば一目瞭然ね」
「…!」
椎崎首相の言葉に、周りに居た者達の背筋が凍り付く。
「だからこそ私達地球人はあの娘と交流を深めて、しかも交流の主役で居続けられるように支援しないといけないの。悲しいことは、こんな簡単なことを理解できない人が多すぎることかしらね」
「まあ、異星人との交流など前代未聞。皆手探りなのです。むしろあそこまでティナさんと親密になれた首相には驚かされましたよ」
「私とティナちゃんだけの秘密よ。そしてこの秘密を明かすつもりはないわ」
連邦、クレムリン。
「砲艦外交か。いや、地球相手には効果的かもしれんな」
「仰有る通りかと」
「しかし、どうやらあの国がまた一当てする腹積もりらしく気焔を挙げているとか」
「なに? 中華は?」
「黙殺していますな。どうされます?」
「我が国は静観する。その姿勢に変わりはない。まあ、来訪してくれたら盛大に歓迎するだけだ」
「宜しいので?」
「構わん。イワンはどうだ?」
「残念ながら復帰は不可能かと。まるでカルト信者です」
「これがアードの恐ろしさだ。軽挙妄動は慎め、友好キャンペーンを継続しつつ静観だ」
「はっ」
各国はそれぞれの思惑を胸にこの事態を見守っていた。
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