今後の方針(一部胃痛付き)
七日間の旅を終えた私達は、間も無く太陽系へ戻ってくる。皆がブリッジに集まってその瞬間を待っていると。
『目的地へ到着しました。ゲートアウト、星間航行へ移行します』
アリアのアナウンスにあわせて極彩色の空間が途切れて、視界一杯に星の海が広がる。何度体験してもこの瞬間は感動してしまうのは、宇宙が大好きだからなんだろうなぁ。
ん、最初に比べたら太陽が近い。凄く遠いけど、微かに光が見える。最初は太陽系へ辿り着くまでギャラクシー号で数時間は掛かった筈なんだけど。
「知的生命体を確認してティナちゃんが頻繁に出入りしてるからね。ゲートも自動的に星系内へ移動しているんだよ☆」
「そんなものなのかな?」
「間違いありませんよ、ティナ。現在地は地球側呼称冥王星の軌道上です」
「冥王星!?」
「今では惑星に分類されていないけど、太陽系の外縁部であることに変わりはないな。ここから地球まで光速で五時間は掛かることになるんだけど……」
『地球軌道到着まで一時間弱です。到着後は地球の衛星軌道上にて待機。異星人対策室本部にある転送ポートと接続し、お客様を地球へ降ろします』
「私の気のせいですかな? 朝霧氏。今さらっと光速の五倍の速度を発揮すると宣言されたような気がするのですが?」
「考えてはいけません、ジャッキーさん。感じるんです」
「なるほど、あるがままを受け入れるのが最上でしょうな。童心に還るとしましょうか!」
朝霧さんとジャッキー=ニシムラ(脚力はボルト並み)さんが半分諦めたような会話をしてる。
まあ、星間航行はパルスドライブシステムを採用してるし、光速より速い。これでも加減しているんだから恐ろしいよね。
「そうだ。火星だっけ? あの惑星の辺りで一旦停止して貰えないかな?☆」
「何かあるの?」
「ちょっとねー☆」
「まあ良いよ。アリア、お願いね」
『畏まりました』
ばっちゃんの事だからなにか意味があるんだろうし、急ぎの用事も無いから言う通りにすることにした。その間ジョンさん達は下船に備えて準備に勤しんでる。まあ荷物そのものは今回持ち込んだトランクがあるから収容は簡単なんだけどね。
ジョンさん達にはお土産として、パトラウス政務局長から個別にトランクを一つずつ貰うことが出来たからね。
火星軌道で静止した私達は、ばっちゃんを中心に会議を開いた。と言ってもブリッジでお喋りの延長みたいな感じだ。
「ティナちゃんが正式に親善大使に任命された訳だし、今後の方針を決めておくよ☆」
「今後の方針?」
「まあティナちゃんには今まで通り交流して貰うとして、今後はそれと別に政府間のやり取りが必要になってくるんだよね。そして問題なのは、今現在地球側がアードへ連絡を取る手段がないと言うことな」
「確かに」
私達が来訪するのを待つだけだからね。ハリソンさん達もやり難いみたいだし。
「フィーレちゃん、例の開拓地の進捗はどんな感じ?☆」
「んー……半分くらいかなぁ」
フィーレは月面に開拓地と言うか入植地を建設中だ。正確には彼女が指示を出して建設用のポッド達が基地を建設してる。
「よろしい。その開拓地に、大使館を設置するんだよ☆」
「たっ、大使館!?」
「だってティナちゃんは親善大使なんだよ? 大使館くらいあるべきだし、アードと地球を繋ぐ窓口の開設は急務でもある。今後も交流を続けるつもりならね?☆」
「それは……まあ」
ここで手を挙げたのは、やっぱりジョンさんだ。
「確かに、大使館を作るなら月面が良いでしょうな。地球上には真の意味で中立な土地は存在しませんし、間違いなく設置場所で各国が揉めるでしょうから」
「ケラー室長に同意します。日本政府としても月面に設置することを望みます」
「朝ギリー、勝手に決めちゃって良いのかな?☆」
「首相ならばティナさんの為される事に反対しませんよ。少なくとも間違っていない場合は」
「朝霧さんの責任になっちゃうから、私から美月さんにお願いしてみる」
朝霧さんは外交官、美月さんの了承があっても勝手に決めたなんて事になったら立場が悪くなっちゃうかもしれないからね。
「ありがとうございます、ティナさん」
「ティナちゃん、反対はしないんだね?☆」
「私は外交とか良く分かんないし、ばっちゃんを信頼して任せるだけだよ。でも、大使館に常駐なんてしたら交流できないけど?」
「その辺りは大丈夫。基本的には無人にするし、大使館にはアードへ通じるゲート通信システムを設置しておくから、仮に私達が太陽系に居なくてもメッセージをアードへ送れるようになるよ☆端末を直接操作する必要はあるけどね☆」
「ん、それなら三日あれば作れる。地球人でも扱えるようにする」
「大使様ね。大出世じゃない、ティナ」
「あんまり実感無いけどね? フィオレ。ばっちゃんの提案に反対はないよ。フェルは?」
「もちろんありません。でも、どうやって大使館へ?」
「それは大丈夫、地球人は大使館まで来ることが出来るよ☆」
地球からの通信機を経由したら変なメッセージまで紛れ込むだろうし、大使館へ来て直接端末を操作するのが一番だ。
で、この時代月面には小規模だけど基地がある。つまり、地球人は大変だけど月へ来ることが出来るし、月面基地に滞在している宇宙飛行士さんが大使館へ来て端末を操作することだって難しくはない。
「フィーレ、大使館内の大気は地球と同じにして。場所も地球人の基地の側に」
「いーよー」
「決まりだね☆タイムラグはあるけど、これで地球はアードと連絡を取り合う手段が出来たわけだよ☆」
「交流が加速するね」
「はい、ティナ。とても楽しみです」
少女達は笑みを浮かべるが、ジョン達は胃の痛みを覚えた。確かに地球からメッセージを送れるが、それは同時にアード側からも直接地球の為政者へメッセージが届くことを意味する。
そしてそれはこれまで緩衝材として機能していたティナと言う地球に理解がある少女を介さないことを意味し、地球の政体などを正しく理解していない彼らがどんな無理難題を提示してくるか分かったものではない。
アード人は基本的に善性の塊のような種族だが、それ故に善かれと思ってとんでもない提案をして来る可能性もあるのだ。
「ジャッキー、胃薬は?」
「抜かりはありませんぞ! ささ、こちらを」
ジャッキー=ニシムラ(ナースコス)から胃薬を貰いつつ、ジョンは地球の為政者達に同情するのだった。




