悩み多き年頃(?)
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ハイパーレーンでの日々は特に問題なく経過している。ジョンさん達は新しいメンバーになるフィオレと積極的に交流していたし、朝霧さんはよくばっちゃんと密談をしていた。どうやら今後の地球の方針や対応を協議していたみたいだね。
フィーレは相変わらず日本のロボットアニメに興味津々で、寝食を忘れて貪るように鑑賞してはそれを再現できないか研究してる。
まあ、無理がないようにちゃんとフィオレが手綱を握ってくれているから睡眠不足も解消されて隈も薄くなったかな。
そのフィオレも、ジャッキーさんが持ち込んでいたたくさんの野菜などの食材を使った魔法薬の研究に夢中だ。
ただ、例の新薬をそれなりの数用意していて全部フェルに持たせていたのは問題だけどさ。お陰で私の睡眠時間が一気に減らされたのが大問題なんだけど、フェルが嬉しそうにしているから何も言わないでおく。
だって地球に戻ればまた私は何度も無茶をして、フェルを心配させてしまうだろうからね。前払いだと思えば悪くないよ。何がとは言わないけど。
使節団の受け入れも済んだし、いよいよ本格的にアードと地球の交流が始まる。つまり、次のステップに進んだと言うことだ。地球からの交易品は大好評だし、ジャッキーさんが言うには今の数倍量を直ぐに用意できるくらいには余裕があるらしい。
ただし、それは私が生きていた頃と同じ先進国だけの話だ。昔に比べて食料生産の効率が飛躍的に上がって、高い栄養価の食品も次々と開発されているけど、それでも地球から飢餓は無くならない。毎年とんでもない数の餓死者が地球全体で出ている。何とかしたい。
談話室でばっちゃんがジョンさんと話し合いをしていたから参加してみた。
「栄養スティックを配るのはどうかな?地球の飢餓問題を解決できないかな?」
「確かに餓死者は居なくなると思う。しかし……」
「そして仕事を奪われた食品関係の人達から恨まれるようになるね☆」
むう。なら、トランクじゃなくて医療シートを大量に流通させるなんてどうかな? 医療の格差だって大問題だし、それは地球全体の問題でもある。
医療シートは病気に効果がないけど、外傷はどんなに深くても回復してしまう優れものだ。これが普及するだけで事故で亡くなる人を一気に減らせると思うんだけど。
「ティナらしい優しい意見ですね」
フェルは笑顔だ。
「確かに悪くないよ。でも今の地球で即死以外の外傷なら簡単に治せるようなものが普及したらどうなるかなぁ? 戦争が激化するだけじゃないかな?☆」
「えっ?」
ばっちゃんの言葉を聞いてジョンさんを見たら、悲しげな笑みを浮かべていた。
「ティナの提案は素晴らしい。間違いなく大勢の人が命を救われるだろう。でも、それ以上の血が流れてしまう可能性もある。
今の我々に医療シートは早すぎると思う。少なくとも、一般に流通させるのはまだ待った方が良い。今も横槍が入るんだよね」
進んだ技術は時に毒となる。それは人類の歴史を見れば一目瞭然だ。分かってはいたけど、やっぱり難しいなぁ。
ちなみに私が持ち込んだトランクや医療シートは国連、もっと言えば異星人対策室で厳重に管理されて災害時に限定して利用されている。
また貧富の格差を無くすために平時の利用には厳しい制限が必要だ。具体的には、重大な事故が発生して医療シートを使用しないと命に関わる案件だ。
ただ、現状だと合衆国内しか対応できないから幅広く拠点を作る必要があるんだよね。
そこで今回正式に親善大使に任命されたから一気に予算が増えて、医療シートだけでも三万枚を持ち込むことが出来るようになった。地球全体から見れば全然足りないけど、ジョンさんが言うにはこの三万枚を主要国の重要な病院に配布してはどうかなんて話が出る可能性があるんだとか。
それなら少しは不公平じゃ無くなるかな?不安はあるけどさ。
「間違いなく奪い合いになるし、適切に管理されるか疑問だけどそれはティナちゃんが考えることじゃないよ」
「ばっちゃん」
「最初はティナちゃんの好意だけど、今じゃ交易で地球へ持ち込まれた品だよ。あとどう使うかは地球人の責任。ティナちゃんに責任はない……と言っても納得しないって顔だね?☆」
「まあ、ね」
考えすぎてしまうのは私の悪い癖だとは思うけどさ。体に引っ張られて子供っぽいのは自覚しているし、別に直すつもりもない。でもサラリーマンだった頃の自分が待ったを掛けるんだよね。
気にし過ぎてたら何も出来ない。前世でもその性格が災いして決断できなかったことはたくさんある。今思えば、優柔不断だったな。勢い任せてしょっちゅう失敗する今とは正反対だ。
「ティナって基本ポジティブなのにナィーブになることあるよね」
所変わって、ここは植物園の隣にあった空き部屋のひとつを改修した女性専用のまったりルーム、通称『百合の園(ばっちゃん命名)』である。何で百合をチョイスしたのか小一時間問い詰めたい気持ちはあるけど、要は女性専用のリラックス空間だ。
部屋中に柔らかいソファーとクッションや可愛らしいぬいぐるみ、本などの娯楽品が集められている。大半は地球製で、更に言うなら美月さんからのプレゼントだ。結構な量なんだけどポケットマネーだそうだ。
部屋全体の装飾も可愛らしく、まさに女の子の部屋だな。若干気恥ずかしさはあるけど、こう言った類の娯楽なんかが少ないアード人やリーフ人からすれば新鮮みたいで皆よく利用してる。
ちなみに新加入のフィオレは興味無さそうにしてたけど、昨日ぬいぐるみの山に埋もれて見たこともない笑顔を浮かべていたからアリアにお願いして保存しておいた(鬼畜の所業)。
今は私と航海中はここに入り浸っているカレンと二人だけだ。女の子しか居ないとは言え、短パンとTシャツだけでソファーに横たわる姿は淑女とはほど遠い豪快さがある。まあ、カレンらしいけど。
「色々考えちゃうんだよねぇ」
「お父さんに丸投げすれば良いじゃない。取り敢えず何とかしてくれるよ」
「これ以上ジョンさんに負担を掛けたら胃に穴が空いちゃうよ」
「もう月面みたいになってるし、今更じゃない?」
この子、たまに容赦がない。いや否定できない私が悪いんだけどさ。
「それは……ごめんなさい」
「謝んなくてOKよ。お父さんは好きでやってることだし」
「そうなの?」
「嫌なら辞任してるわ。それだけの権限はあるみたいだしね。でもしないのは、お人好しだから。ワォ、私のプリティーな友達と一緒ね」
「何とも言えない……」
「まあ、ティナの好きにやれば良いんじゃない? お父さんとティナのコンビなら地球にとって悪いことにはならないだろうし」
「そうなのかなぁ?」
「そんなもんじゃない? ティナはやりたいことをやってお父さん達がフォローする。最後には皆幸せになってる。私が保証してあげる!」
「そうかな……ありがとう、カレン。ちょっと考えてみる。色々迷惑掛けちゃうけど」
「それが友達でしょ?」
カレンに元気付けられちゃったな。難しいことはばっちゃん達に任せてやりたいことを、か。
まだまだウジウジ悩むんだろうけど、それでも支えてくれる皆のために頑張っていこう。
 




