地球の大掃除
不安定で申し訳ありません……人が居ない……
同じ頃、地球の北米大陸にある荒野を一台のバンが疾走していた。それはまるで逃避行であり、事実その通り彼らは政府の手から逃れるために必死の逃避行の最中なのである。
「畜生!なにがどうなってやがるんだ!?昨日から急にだぞ!」
「ニュースを見ろよ!同志たちが次々と逮捕されてるぞ!」
「世界平和に対する反逆を企てたテロリストだと!?政府の奴等め、遂に本性を現しやがったな!」
「合衆国だけじゃない!これは世界中で起きてるみたいだ!」
バンを荒々しく運転しながら活動家クサーイモン=ニフーターとその一派は、政府からの追跡を逃れようと荒野をひた走る。
事の発端は先日国連本部にて急遽開催された国際首脳会議である。ここで日本と合衆国からアードに関する重大な情報が各国に共有されたのだ。
つまり、アード側は地球の乱立と表現するに等しい国家群に関して個別に対応する可能性はほぼ皆無で、地球で発生したあらゆる事案が地球全体の問題或いは意思として判断される可能性が非常に高いと言う予測であった。
そしてその予測は正しかったことが後に使節団の帰還で立証されるのであるが、ここで問題となったのは他国の不祥事が自国にまで振り掛かる可能性が極めて高いと言う危険性を、主要国の為政者たちが正しく認識したことにある。
政治外交の世界において他国の不祥事や不始末は格好の材料となるのが、それが自国にまで飛び火するとなればマトモな思考力を持つ為政者ならば座視できるわけがない。特に危機感を抱いたのが中東諸国である。
この時代、中東諸国は宗教や民族の問題を抱えながらも西洋東洋に次ぐ第三の文化圏構築を目指して『中東連合』を結成している。実態はEU連合のようなものであり、当然ながら参加していない国も存在し内部に抱える問題も少なくないがそれでも国際社会に大きな影響力を有した国家連合体である。
さて、この中東連合は宗教的な観点からアード問題に関しては距離を置いて静観している状態である。ただでさえアード人やリーフ人の容姿は、宗教関係に抵触する可能性がある。
またこれまでのティナの活動によって彼女達を神聖視する宗教団体が各国に現れ始めるなど、アード問題は宗教的にはあまり触れたくない案件であるからだ。
それ故に距離を取っていたのだが、アード側の事情により無理矢理巻き込まれた形となってしまったのだ。特に最近はどこぞの紅茶狂いの失態によりアード側に不信感を持たれているのだ。連帯責任として一緒に処されては堪らない。
会議の行われたその日の内に連合加盟国に招集を掛けて、翌日には大半の国家元首或いは重鎮が集められて事態を共有した。
「我々は無関係だとしたいが、そうもいかんようだ。引き続き干渉は極力避けるが、少なくとも我が地域に反異星人勢力は存在しないことを証明しなければならん。各国は風紀の引き締めを頼む。また、指導者の皆様方にはご迷惑をお掛けしますが宗教方面からの引き締めもお願いします」
首長による要請を受けて中東連合は速やかに反異星人思想の引き締めを開始。元々宗教の影響力が強いこともあり、引き締めそのものは大きな混乱もなく順調に終わった。これそのものは中東世界がそもそも距離を置いていたことも一因である。
中東連合が内部の引き締めを図っている頃、日本では。
「我が国では概ね好意的に受け止められていますが、それでも与野党の一部にアードとの交流に関して懐疑的な声があるのは確かですし、ネット上にも批判的な書き込みは存在します。今のところ、過激な団体の存在は確認されていませんが……」
内閣閣僚会議を開催し、日本の現状が補佐官より説明される。
「我が国でさえ批判的な意見があるのか……」
「それは事実だし、思想の自由は守られるべきよ。大丈夫、ティナちゃんはその辺りを理解してくれるし、今後交流が進めば批判的な意見も減ってくるわ。問題は過激な組織よ」
「先ほど申し上げた通り、今現在確認はされていませんが水面下で密かに動きがある可能性もあります。一部の右派、左派、そして宗教団体に不穏な動きがあります」
官房長官の言葉を聞いて、椎崎首相は意外そうな顔をした。
「左派も?リベラルな人達には受けが良いと思っていたけれど」
「公平性が失われるとかなんとか」
「最初から地球とアードの間に公平性なんて無いわよ」
「右派に関しては、恫喝に屈するとは何事かと」
「まあ、砲艦外交をされているようなものだから仕方無いわね。ティナちゃんはそんな自覚無いでしょうし、誰かの入れ知恵でしょうけど」
椎崎首相は苦笑いを浮かべつつ脳裏にティリスを思い浮かべた。
「各メディアには引き続き友好キャンペーンを展開させて。それと有力な動画配信者にもね」
「少数ですが、反対している配信者も居ますが?」
「監視しつつ放置で。ガス抜きは必要よ」
日本もまた方針を決めた頃、合衆国では。
「また国内でテロを起こされてはブリテンの二の舞だ。これを機に、各州で一斉に不穏分子を取り締まるのだ!」
ハリソン大統領の宣言により、FBIとCIA主導の下不穏分子の一斉摘発が行われた。
「証拠については心配無用だ。本作戦はX案件だからな。考えるだけ無駄だ」
この摘発は事前にアリアが収集した情報とFBIやCIAによる裏付け捜査により断定した不穏分子を狙い撃ちにするものであり、当然ながらクサーイモン=ニフーター等活動家も多く含まれていた。
「我々は御祓を終えたのだぞ!?何故だ!?」
「異星人対策室に手を出そうとした証拠は集まっているんだ!よりによって室長のお嬢さんの誘拐まで企てていたな!?恥を知れ!」
ハリソン大統領暗殺未遂で打撃を受けていたジャスティススピリッツにも再びメスが入り、幹部数名が逮捕される。
彼らはアプローチを変えて異星人対策室に影響力を持ち、間接的にティナを操ろうと画策。ジョンを傀儡にするためカレンの誘拐まで企てていたが、全てアリアに露見していたのだ。
今回の逮捕者には政財界の大物が含まれており多少の混乱は避けられなかったが、ハリソンは地球全体の利益を優先して断行。
ジャスティススピリッツはその影響力を大きく落とし、また同時に合衆国内部の反異星人活動家も大勢が逮捕されるに至った。
「とにかく暫くは鳴りを潜めるしか無いぜ。サイモン、我慢してくれよ」
「畜生!やっぱり政府の奴等は宇宙人の手先に成り下がったんだ!奴等はご主人様が戻るまでに綺麗にしておきたいのさ!だが、俺は諦めねぇぞ!」
だが、活動家であるクサーイモン=ニフーターと彼の一派は摘発を逃れた。これはアリアによる報復で機材などの大半が失われたが、それ故にネット上との繋がりが絶たれていて、更に荒野を拠点にしていたので上手く身を隠せたからだ。
だが、彼の支持者の大半が立場を追われた以上先延ばしに過ぎないことは誰の目にも明らかであった。
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