レガシーエピソード 幸せな日々
今より遥かに昔、増えすぎた人口及び深刻な資源問題に直面したアードはその魔法科学技術を存分に発揮して、遂に宇宙進出を開始。先ずはアード星系内の開発を推し進めたが、残念ながら星系内に存在する惑星は豊富なエネルギー資源を持つものの生物の生存に適した惑星は存在しなかった。
それ故にアードは先ず豊富なエネルギー資源を背景として宇宙開発を加速させ、別星系への進出を目指す。
同時に恒星のエネルギー採取を目的とした地球で言うダイソン球の建造も開始される。
そして宇宙開発開始から凡そ百年後、初期の超光速航行技術であるパルスドライブシステムが完成。対応する巨大な移民船なども同時に建造され、外宇宙への本格的な進出が始まる。
周囲にある星系の開発と移民が本格的に開始され、同時に発見された幾つもの未知のエネルギーは革新的な技術発展を促し、アードの宇宙開発を加速させていくことになる。
そして、アードは初の知的生命体との遭遇を果たす。姿形も自分達に類似した有翼人種、リーフ人との邂逅である。
リーフ人は独自の魔法文明を構築していたが、極めて排他的な種族であることは何度かの接触で判明しており交流は絶望的だと思われた。
アード側にとって幸運だったのは、当時リーフは女王の交代が行われたばかりであり、新女王であるフェルシアは閉鎖的な環境の改善に意欲を持つ開明的な人物であったことである。
宇宙から接触してきたアード人に対して並々ならぬ関心を寄せていたフェルシアは、アードとの交流を強く推奨した。
そんな最中、フェルシア女王の動きを察知したセレスティナ女王が単独でスターファイターを駆ってリーフ星へ乗り込み、フェルシア女王と電撃的な会談を果たしてしまうのである。
当然ながらアード側は一部を除いてセレスティナ女王の行動を一切把握しておらず、首脳陣は激しい胃痛に苛まれることになる。
奇しくもこの強すぎる行動力は姪に受け継がれて未来の為政者達を悩ませることになるが、それはまた別の話である。
その後もアードは広大な銀河で着々と勢力を伸ばし、またリーフとの交流を加速させる。特に魔法に関しては体系こそ違いはあるがリーフ側の方が遥かに進んでおり、このリーフの魔法技術を取り入れることでアードには更なる技術革新が促されることになった。
双方の交流も順調に進み、遺伝子解析も完了してアードとリーフのハーフとなる子供が生まれるようになったのもこの頃である。そしてアード側最大の変化は……。
「女王陛下はどちらに!?」
「置き手紙がありました!フェルシア女王へ会いに行くと!」
「またか!せめて一言仰有って頂きたいと申し上げているのに!」
セレスティナ女王がその行動力を遺憾無く発揮し、意気投合したフェルシア女王と会うため頻繁に神殿から抜け出すようになった事であろうか。二人の友情はアード、リーフ双方にとって強く交流を促す切っ掛けになっているが、少なくともアード側の為政者達は頭痛と胃痛に悩まされる日々を送っていた。
今日もまたセレスティナ女王は愛用のX型スターファイターのギャラクシー号へと乗り込み、お忍びで惑星リーフを訪れていた。リーフ側も慣れたもので、直ぐにフェルシア女王の居住区へ案内する。
豊かな自然に囲まれた綺麗な泉の側に建設された木造の宮廷が、フェルシア女王の住まいである。
当たり前のように部屋へ入ってきたセレスティナ女王を、リーフ人らしからぬ美しい金の髪を肩口で切り揃えた花の髪飾りが特徴的な女性が迎える。リーフのフェルシア女王である。
「シア、久しぶりです」
「セレス、また抜け出してきたの? お転婆さんなんだから」
互いにシア、セレスと愛称で呼び合うほど親しくなった二人は久しぶりの再会(地球時間で1ヶ月ぶり)を喜んだ。そこでふとセレスティナはもうひとつの気配を感じた。
直ぐ近くにあった柔らかいベビーベッドへ視線を向けると、そこには可愛らしい赤ん坊がすやすやと眠っていた。
「シア、もしかして」
「ええ、七日前に生まれたの。元気な女の子ですよ」
「女の子! それはおめでとうございます」
「ふふっ、ありがとうセレス」
フェルシアには既に三人の子供が居るのだが、息子ばかりである。リーフは女王制であり、世継ぎ問題に頭を悩ませていたが女の子が生まれたことでそれも解消されたのである。
「セレスなら女の子が生まれる未来が見えていたのでは?」
「いいえ、私が見た未来では男の子だったんです」
「それならこの娘は貴女の未来視から逃げた事になりますね。今から将来が楽しみだわ」
「ふふっ、そうですね。名前は決めているのですか?」
「ええ、フェルトよ」
「フェルト、良い名前です」
セレスティナは赤ん坊を優しげに見つめた。
それから年月が流れ。
「こんにちわ! セレスティナ様!」
「こんにちわ、フェルト。随分と大きくなりましたね。シア、久しいですね」
駆け寄ってきた幼い少女に笑顔を浮かべて頭を撫で、親友と挨拶を交わすセレスティナ。
「ごきげんよう、セレス。貴女からも注意してください。この娘ったらお転婆で手を焼いているのよ」
「子供が元気なのは良いことですよ、シア」
「またそうやって甘やかす」
「セレスティナ様! セレスティナ様! また宇宙のお話を聞かせてください!」
「ええ、もちろん」
フェルトは好奇心旺盛でセレスティナに良く懐き、フェルシアを良く困らせてはセレスティナへ助けを求める。そんなフェルトをセレスティナも可愛がっていた。
だが、そんな幸せな日々も突如として崩れた。
「正体不明の敵勢力……便宜上センチネルと呼称しますが、奴等の圧倒的な物量を前に我が軍は苦戦を強いられています」
「ティリス提督、対話の道は無いのですか?」
「残念ながら、ありません。奴等は問答無用で襲いかかりますが、何故か原生生物には攻撃しないのです。情報部の推測では、知的生命体の排除のみを行動基準にしている可能性があると」
「……この様な未来は無かったのに……」
「女王陛下、長らく武官としてお仕えさせていただきましたが、軍令部の要請を受け私も軍務へ復帰します」
「そうですか……皆を、頼みます。ティリス」
「この身に代えましても」
ティリス提督は自らの部下達を集めて特務艦隊を編成。各地を転戦し、敗勢だった戦局を膠着させることに成功する。
その様な情勢の中。
「まあ、開拓団へ?」
「はい、セレスティナ様。センチネルがいつ私達の母星を見つけるか分かりません。それに備えて新天地を探すために開拓団へ参加します」
美しい女性へと成長したフェルトは開拓団に参加するためリーフを離れることになった。
「そうですか……寂しくなりますね」
「私もです。でも、きっと素晴らしい星を見付けてきます。そしたらお母様と一緒に探検しましょう!」
「その日を楽しみにしています、愛しいフェルト」
「ただ、出発する前にお願いがあるんです」
「何でしょう?」
するとフェルトは恥ずかしそうな笑みを浮かべて自らの下腹部を撫でる。
「この娘の名前を付けてあげて欲しいんです」
「私で良いのですか?」
「むしろ、セレスティナ様以外は嫌です。治癒術師が言うには女の子みたいですよ?」
「女の子……未来の女王の名付け親ですか」
「だめ……ですか?」
「いいえ、他ならぬフェルトのお願いなのです。そうですね……フェラルーシアでどうでしょう?」
「フェラルーシア……うん、良い名前です。愛称はフェルかな? ありがとうございます、セレスティナ様!」
「旅の無事を願っています。必ず一緒に戻ってきてくださいね」
「もちろん! じゃあ、またいつか! 行ってきます!」
セレスティナ女王が愛し娘であるフェルトと会ったのは、これが最後であった。




