三日目の夜
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異星人対策室のジョン=ケラーだ。アード来訪三日目も特に問題なく経過した。夜にはティリス殿が戻り、案じていた事柄が無事に終わったことを教えてくれた。
夕食もまた里の人々を集めて盛大なものとなった。ジャッキーが腕を振るってくれたのだが、今回は具沢山のシチューやアード人に少しでも馴染みがあるものとして海鮮のスープを作ってくれた。
稀に口にする魚介類がこんなにも美味しい味を出してくれるのかと、大好評だった。
栄養スティックがある以上本来食事は必要ないものであることは間違いないが、食事とは栄養補給以外にも娯楽としての意味合いもある。
精神的に豊かな生活を送るためにも美味しい食事は役立つ。その点を強調すれば、更なる交易の拡大に繋がるだろう。
私とミスター朝霧、ジャッキー=ニシムラ(ヒャッハースタイル)、そしてティリス殿の四人は切り株のようなテーブルで食事を共にした。その席上で今後の話をしていたのだが、地球側にとって好ましくない案件も持ち込まれた。
「つまり、アード政府は地球各国と個別に交渉を行うつもりは無いと」
「まっ、そうなるかな☆ぶっちゃけ政務局でも地球の複雑な政治体制を正しく理解しているか分かんないしね☆」
「それは困りましたな……」
「分かるよ。地球をこの目で見たけど、意思統一なんて無理だよね?」
「ええ。まさに群雄割拠と言える状態ですから、意思を統一するにしても年単位、数十年の時間が必要になるかもしれません」
ミスター朝霧の懸念も尤もだ。アードに好意的な合衆国でさえ意思統一とは程遠い。議会では今もアードとの交流に消極的だったり否定的な議員達が存在するんだ。
ミサイル事件やジャスティススピリッツの粛清によって過激な、つまり排除を声高に叫ぶ者は少なくとも政界には居ないみたいだが……これも断言はできない。心の内を知ることは不可能だ。
「悪いけど、友好的な国を優先するからそのつもりで。アード政府としては、地球の内情までは考えるつもりはない。内政干渉をして良いなら、バリバリやるけど?☆」
「ははは、それはご勘弁を」
ミスター朝霧が冷や汗を流しながら苦笑いを浮かべた。ティリス殿は、必要と判断すればやる。短い付き合いではあるが、私達はそれを良く理解している。
見た目に騙されてはいかん。彼女はアードの平均年齢を越える千年の時を生きる長老なのだ。その老獪さに太刀打ちできるとは思えない。
「あっ、そうだ。折角だから改めて紹介しておくよ。ほら、おいで☆」
ティリス殿が手招きをすると……一人の少女が現れた。ショートボブの美しい白銀の髪に透き通るような一対の羽根は彼女がリーフ人であることを示している。
フェルやフィーレと同じ若草色のワンピースのような服に……リーフ人女性としては珍しい膝までの短パンのようなものを穿いている。これだけでこの少女が活発な性格であることが見て取れる。
だが、特筆すべき点は二つある。一つは額の左側に着けているヘアピンだ。形からして、おそらく地球製だろうか。デフォルメされたネギを持つ玉ねぎのヘアピンだ。
……哲学を感じるな。フィーレからの地球土産だろうか。
もう一つは足元だ。何故ならば、彼女は裸足なのだ。当然ここは屋内ではない。集落の中心にある広場で、剥き出しの地面だ。痛くないのだろうか。
そう言えばティリス殿からリーフ人は本来履き物と言う概念すらなく、アードと交流によってようやく履くようになったのだとか。それにしては足も華奢で綺麗な少女のそれだ。皮が厚くなっているようにも見えない。不思議だな。
少女は少し躊躇しながらも口を開いてくれた。
「フィーレがお世話になってます。姉のフィオレです」
「日本国外交官の朝霧です。はじめまして、フィオレさん」
「異星人対策室のジャッキー=ニシムラ(実はアブノーマル)です!どうぞお見知り置きを、フィオレ嬢!」
おっといかん、先を越されてしまった。いかんな。
「異星人対策室のジョン=ケラーです。妹さんには技術支援を頂いていますからな。感謝させてください」
「貴方がジョンさん……」
「ん、ティナから話を聞いていますかな?」
「はい、一番お世話になっている地球人って」
あの娘は……お世話になり返しきれない程の恩を受けたのは私だと言うのに。
「いや、ティナには返せないほどの恩がありますよ。ティナのお友達と伺いました。是非とも私と友達になってくれませんか?」
相手は傷心している少女だ。出来るだけ笑顔で、言葉も選んだつもりだがどうだろうか?
少しだけ待つと、私の差し出した右手を恐る恐る握ってくれた。
「私みたいな子供と友達に?」
「ええ、貴女が良ければ」
おっ、笑ってくれた。
「ふふっ、ティナの言う通りの人ね。私なんかで良ければ、喜んで。フィオレと呼んでください」
「では私もジョンと呼んでほしい。それと、敬語は必要ないよ。気楽にしてくれたら私も嬉しい」
「あははっ、本当に変な人!」
うむ、やはり笑顔は年相応だ。いや、実年齢は遥かに上である可能性はあるが、深くは考えまい。変な人で彼女が笑顔になるなら安いものさ。
「こんばんはー!」
「おや、ティナさんにフェルさん」
フィオレと挨拶を交わしていると、フェルを伴ってティナがやって来た。
「ジャッキーさん、シチュー?と言う料理、とても美味しかったです」
「HAHAHA!フェル嬢のお気に召したようで何よりですぞ!まだまだ食材は山のようにありますからな、帰路もご期待ください!」
「楽しみにしています」
ふむ、シチューは好評だったみたいだな。確かに一流レストランに引けを取らない味だったが。
「フィオレ、挨拶は終わった?」
「うん……ティナの言う通り、変な人だったよ」
「ちょっと、変な人って。ごめんなさい、ジョンさん」
「構わないよ、むしろ変な人だから仲良くなれたと思えばお釣りが来るさ」
ふむ、ぎこちなさは少しあるが友人同士だ。二人についてはティリス殿が言うように心配は無用だろう。
フィオレが旅に参加することは既に聞いているし、地球としても大歓迎だ。可能ならフィーレの抑え役になってくれたら尚良いが、これについては話し合いをすれば良い。なに、地球まで一週間はかかる。時間はある筈だ。
「そうだ!ジョンさん、フィオレは前々から地球に興味があったんですよ!」
「それは嬉しいね」
「地球にはどんな素材があるか楽しみで。食べ物はどれも美味しいし」
「ん?」
素材?妙だな、不穏な言葉が聞こえたぞ?
「フィオレは魔法薬学に精通してるんです」
「精通なんかしてないよ、まだまだ駆け出しなんだから」
「そーかなぁ?」
「ティナ、魔法薬学とは?」
「あっ、説明していませんでしたね。んー、基本的には地球の薬学と同じですよ。魔法の効果を持った魔法薬を作るんです。フィオレは相当な腕前なんですよ?」
「ちょっとティナ」
……魔法薬か。なんだろう、胃が痛くなってきたぞ。気のせいか?
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